ながもちするすまい

 つぎの世代も気に入って使ってもらうために配慮のいきとどいた、気持ちのいい空間でありたい。自分自身のためにも…
そうした快適な「資産」であるなら受け継がれていくだろう…。エコロジカルな発想と同じレベルで、小さなスケールから大きなスケールまでをつなげていくデザインの可能性がそこにある。万人のためのみならず、万物、宇宙(=ユニヴァース)までもがその視野に入ることとなる。

日本の住宅の平均寿命は約26年だという。なぜこんなに短くなってしまったのか?さまざまな要因が想定されているが、ひとつは湿気対策の不備がもたらしたもの、もうひとつは、「家」に対する考え方の変化によるものとして捉えることができる。「家」に対する考え方の変化についてはいろいろ触れてきたので、湿気対策の具体的な考え方についてまとめてみよう。

湿気対策

まず地中のなかから放湿される湿気が室内にはいってこないようにすることが肝要である。そのために、最近ではポリエチレンフィルムで防湿する工法が一般的である。
床下の土の上に直接防湿シートを敷いて、砂、砂利、石で押さえたものや、コンクリートで押さえるものなどがある。床下の換気についてはO邸のように、昔は床下が開放されているものが多く、冬の寒さに対しては、秋口に畳干しによって畳を乾燥させ断熱床材としての性能や防虫効果をあげるべく努力が必要だった。
床下換気の方法も最近はキソパッキン工法という、コンクリート布基礎と土台との間にプラスチック部材を挟み込んで、その厚み(=20mm)分の隙間で基礎全周にわたって換気を図る工法が多く採用されるようになってきている。
前回説明したように、床下の防湿になにも対策を講じていないと40坪程度の建坪だと最大1時間あたり約1升ビン一杯程度の水蒸気が発生する。これはなにも驚くべきことではなくて、室内の空気中にも多くの水蒸気が含まれている。
気温30℃で湿度が70%として、室内空気が120立方mだとすると重量が約130kgとなり、その中に含まれる水蒸気は3113.64g(約3kg=一升瓶の約1本半強に相当)となる。加湿は人体からも、調理器具や開放式の暖房器具などからも発生する。
空気に含まれる飽和絶対水蒸気量は、気温に左右され、冷却されると結露するようになる。論理的には、水蒸気量が多い高温の空気を湿気が通らない防湿層で遮断し、断熱材で包んでしまえば結露は起こらないが、木造住宅はさまざまな部材で組み上げられているので「スキマ」の処理に苦労することになる。現実的には防湿フィルムのつなぎ目や、コンセントやスイッチ、給水栓などのボックス周囲、窓などの開口部周囲で防湿面が切れてしまうので、水蒸気は断熱材に廻りこんでしまっている、というのが実状である。防湿層のつなぎ目にテープ処理したり、防湿層を2重にする工法もあるが、程度は良くなるが完全に湿気を遮断することはできない。
このため、論理的な予想で、壁の中で発生する内部結露はない、とした工法で外壁などの仕様を組み立てると支障が出ることになる。完全に覆ってしまうような外壁材は好ましくないのである。
こういう点では、むかしの民家のように外壁際でも内部から発生する水蒸気を速やかに外気に放湿するシステムのほうが良い。最近、おおくの住宅では外壁材の裏側で通気層を確保し、土台際から軒下まで外気が壁の中を通りぬけ、断熱材などに滞留している水分や透過してきた水蒸気を外に排出するシステムを採用しているものが目に付くようになってきた。しかしこの工法も、注意しないと断熱材のスキマ部分で結露を促進しかねないし、寒冷地では内部結露を引き起こす可能性もある。それに横長の連続開口部や、掃き出し窓まわりではうまく機能しないので、別の対策を採らなくてはならない。

空気の中の水蒸気に着目してきたが、その他にも建物を構成するいろいろな部材、素材にも水分は含まれている。夏の高湿、冬の低湿という日本の外気湿度の変動に、その多くの含水物はいわば呼吸しているのである。特に木造住宅では、構造材の木部の吸放湿に注目する必要がある。かつての木造真壁(柱が室内外にあらわれ、柱間が土壁や建具などで構成されているもの)では、外気や内部の湿気の変動を直接的に反映していた。
鉄筋コンクリートは永遠の構造物であるかのように思われてきたが、新幹線トンネルでのモルタル(コンクリート片)落下事故などに示されるように、塩分濃度や、細骨材、粗骨材などの質、施工上の水セメント比や、流動化剤などの使用量によっては脆い構造体であることが知れわたってきた。
これに対抗するわけではないが、木質系の伝統建築は、改修や修繕など、手を入れる必要はあるものの、たとえば京都や奈良の寺院は、ここ千数百年を経てきたものが少なくない。木や土は適度に乾燥してさえいれば想像以上に長持ちするものだが、居住性と経済性によって住宅を著しく短命化させているのが現代の我々である。湿気対策の面でも、この国の風土に根ざしてきた伝統建築の知恵からみるとずいぶん奇妙な対策をしていることになる。
伝統建築と現代の木質系住宅とをその湿気対策に視点をおいて比較してみると、確かに湿気の吸放湿性能において大きな差があることが想像できる。
現代の住宅の方は、前に触れたように、合板による通気障害もいたるところで引き起こしているし、合成樹脂系の材料による面材によって、通気すべき部分での通気障害も起こり得る構法になっている。こうしたことによって、構造材である木材などが「呼吸」できなくなり、腐れたり、虫が付いたりしやすくなってしまったので、今までは、防腐剤などの薬剤処理で抑えてこんできた。こうした薬剤の影響や、いわゆる新建材が放出するホルムアルデヒドなどによって、こどもたちのアレルギーを引き起こす結果になってしまったのである。

冷静に考えてみれば確かに「断熱材」の介入によって通気障害が起こり、その分建物の寿命が短くなった、と言える。そして先述した農家の平面類型と比較すると、その後は水廻りが母屋の中に取り入れられ、それもおおむね建物の北側に配されるようになる時期から寿命が短くなり始めたのである。

「断熱材」は、たとえばヨーロッパではこうしたレベルでの被害をもたらさない。相対的に外気の湿度も日本より高いからである。欧米の高気密・高断熱の仕様がそのイメージと重なって、もてはやされているが日本の風土から見れば、判断の食い違いも起こり得る。省エネルギーの視点からは、住むのに必要なエネルギー(=運用のエネルギー)を低減するために断熱材の役割がクローズアップされるが、建物の寿命に焦点をあてると、そのバランスは再考すべき時期にさしかかっているといえる。
高齢化社会のなかで、さらにこの問題を据え直すと、ちょうど収入が細った時期に、住みなれた居住空間に手を加えないと、あるいは建て替えないといけないような建築というのはいかがなものか?これはここ数十年の世界の話である。

戸建住宅(木質系)の耐久度評価

日本建築学会「建築物の耐久計画に関する考え方」では耐用年数の推定方法の例を掲げている。
定義では「木造建築物の各部位において、それらを構成している材料のかなりの部分が、生物劣化を生じた状態となるか、または通常の修繕や一部の部材の交換・更新を行っても、生物劣化によ建物としての性能を回復できない状態となった時点を耐用年数に達したとする。」としている。
生物劣化とは、腐朽菌やシロアリによる木材の腐朽や食害をさしている。
詳細な推定耐用年数の算出方法は省略するが、約10年から100年以上の範囲で算出できるようになっている。おおまかには@材料特性A設計水準B施工水準C環境条件D維持保全水準の係数設定によるものである。
@ の材料でいえば、辺材(丸太の周辺)より心材(丸太の中央部分)で大きな断面で、保存処理されているものが良い、としている(薬剤処理は環境に対しては疑問だが・・)
A の設計水準では、地盤からの高さや通気のしかた(通気阻害要因がないか)の各部での係数で、湿気対策をちゃんと計画し、各部が乾燥するようになっているかどうかといことに主眼が置かれている。
B の施工水準では、設計上配慮された施工箇所の厳重な検査がおこなわれたかどうか、その検査項目の数が係数化の指標になっている。
C の環境条件は、シロアリの種類の分布や15℃以上の気温積の数値、雨どいや、排水口の位置が係数化される。
D の維持保全では、保守点検の程度、点検・修理の容易さ、薬剤処理の間隔が係数化されている。

木材料

天然木/人工木→仕口と継手、節、木の組成、癖の生じ方など、木とかかわってきた人々の作法や、思いがあるが、端的に言えば「木を大事に使う」ということに集約されるだろう。最近、横揺れの挙動によって、引き寄せボルトを留めつけている特殊なナットがめり込んで、さらに締めつけるような機構の木造用の構造金物が発売されているが、やはり木の収縮そのものによってしっかり組み合わせる伝統工法の精神の方が健全な姿勢であると思える。
だが本来、木部材の接点部の重要な役割を担っている丸太の中央部分は堅くて、粘り強いという性能を有していたが、われわれが利用できる人工(植林)木は、おおむねそうではない。天然木とは反対に、植林では成長初期に肥料状態や日照環境が極めて良好であるために木の中央部分の年輪巾が大きく構造的な強度は落ちているからである。

構造強度

伝統工法、在来工法、プレカット工法、構法として、軸組構法、2×4構法などがあり、それぞれ長所短所を抱えている。木で鼻をくくる構造金物を使わざるを得ないのが在来構法やプレカット構法で、2×4構法では構造用合板と釘を大量に使用する。耐震性の評価は、この構法だけではできない。京都大学木質構造研究所が次第に明らかにしているように、伝統建築は重い屋根の荷重によって、構造部材を密着させて強度を増すように計画されている。これは筋違という「計算上都合がいい」部材に強いてたよらない方法でも安全確保ができる手法もありうることを示している。おおまかに力の流れで分類すると、地震や台風による横方向の力をある特定の部材に集中させて抵抗させる方向と、伝統工法や2×4構法などのように力を小さな部分に分散させていって処理するという方向性があると言えるだろう。後者の方がフェイルセーフであるし、その中でも伝統建築は増改築の自由度が一番高いので、「資産」としての将来価値も一番高いと言える。矛盾するようだが、うまく考えられた伝統建築の架構は、力の流れの面では柱に集約され、柱の本数としては在来工法より少なくなる傾向になり、より確実な仕口の接合となるのである。
本稿で展開してきたことに即していうと、地球環境や、室内環境、社会的な資産としての「すまい」としては、なるべく耐久度が高く、増改築が容易で、修理・修繕がしやすい伝統建築を目指したいところである。
だが自力で建設するなど、構法の限界を理解し、関わることで利点をうまく生かすことが継続できるようであれば、2×4構法などの選択も戦術的にはありうることである。 
構造的なバランスがうまく計画されていることも耐震性ばかりではなく、耐久性を引き上げる上でも必要となるが、これは専門家との十分な打ち合わせによって確保していくことになるだろう。
いま住んでいる住宅の耐震性について疑念がある場合には、各地の建築士会などや行政機関の斡旋によって建築士の「耐震診断予備調査」を有料で受けるなどの方法で確認し、必要な場合は「耐震診断」を受け補強などを施すようにしたい。

木造住宅の点検方法

木質系構造計算規準の建築物の保守、耐久計画や防腐工法より類推して「点検方法」としてまとめると、@水分(湿気)に触れる材料や、それに近い部分の変化に注意する。A床下換気口や軒先換気口、あるいは天井裏換気口など建築物内に侵入した水分(湿気)を屋外に排出する部分や材料がうまく機能しているかどうか。B水分と材料とを分離、隔離している防水層がれっかしていないかどうか。の3点に集約される。
注意すべき環境では、
・ 日照・通風の悪い場所
・ 外壁や軒先など雨掛かり部分
・ 台所、便所、浴室
・ 腐朽菌がつきやすい北、西、東
・ 金物と接する木部
・ 抱水性素材に接する木材
・ 給排水管に近接する木材
・ 外壁際下部土台廻り
・ モルタル下地亀裂下部
・ 竪樋近辺の木部
木材は含水率25%〜35%を境として腐朽しはじめるため、25%以下に木材の含水率をコントロールして乾燥させていると腐朽しにくい。
屋根葺き材の異常や、雨漏り、軒樋のあふれ、そのあふれによる竪樋際の外壁や柱の異常、雨はねによる腐朽、先述した結露などにご注意。1年に1度くらいは天井裏や床下を点検してみるだけでも、大きく耐久性向上に寄与すると思われる。(ただし床下など防蟻処理を薬剤処理したところは、一気に化学物質過敏症の発症につながるので注意のこと)

手入れ時期の目安

初期投資とメンテナンスコストの関係では、ある程度の回数、寿命が尽きる期間の途中で修繕・修理・部材の更新などをしたほうが、全体コストを低減し相対的な建物寿命が延びることが知られている。土台などはなかなか取り替えにくいので、こまめに点検して床下換気に注意する方法が最善だが、湿気に対する大きな部材である屋根は早めに点検、葺き替えを行う必要がある。粘土瓦や銅板葺きでは葺き材のめくれやはばれ、割れなどの劣化に注意し、その他のものは概ね15年前後で再塗装や取り替えの検討をする。できれば室内の天井面で雨漏りに気づくまえに修繕しておきたい。
欧米ではペンキ塗りや、室内外の改修や改造を住み手が行うことが多いが、どうもここ数十年間の日本人はそういう手間をかけることを忘却してしまったようだ。住み手がこうしたメンテナンスに主体的に取り組むことによって、いままで展開してきたような受け継がれていく「資産」になっていくことだろう。


住まい方の見なおし(湿度調整)

「住宅の新省エネルギー基準と指針」財団法人 住宅・建築省エネルギー機構 では巻末に<住まい方のマニュアルの考え方>を掲載している。
というのは日本人が長い間経験し築き上げてきたすまいかたの癖はなかなかぬけないのに、現代の居住空間は高気密、高断熱化されていて、不具合が生じているからである。「結露の発生は、建物の防露性能の不備にも多くの責任があるが、原因の相当の部分は居住者の住まい方の不適切に求めることができる。すなわち、開放的な住宅においてはごく一般的な加湿の習慣や換気をしないといった生活習慣を、そのまま気密な住宅に持ちこんだことが、結露の大きな原因となったと言えよう。」
高気密住宅で、不用意に加湿器で水蒸気を発生させ、開放型の暖房器、たとえば灯油ストーブやガスストーブ、ファンヒーターを使うと、どういう緻密な結露防止の配慮がなされていても、すぐに結露をひきおこしてしまう。
O邸はなれで発生水蒸気量を概算したものがある。室内に家族4人がいて、奥さんは台所で調理中、プロパンガスに火がついていてなべ直径22cmが煮立っている。灯油のファンヒーターがつけられていて、子供たち二人は勉強中である。
夫婦二人からは毎時57.35gの水蒸気が、それぞれ子供たちからは46.5g、なべからは700g、ヒーターからは60g、プロパンの火からは160g、それに土間からは200g水蒸気が発生して、計1223.85gとなる。
ここで外気修正気温(放射冷却面温度)を-9.75℃(気温-5℃)室温18℃、貫流水蒸気量が0.245g/kg'・uとすると、換気による低減を考慮しても1時間あたり約480gしか排出できないので、どこかに結露することになってしまう。(Oさんにはできるだけファンヒーターを使わないように御願いした)


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