オルゴール編曲講座(第三回)

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2002.10.6 第三回 音のごまかし方。

第二回目にはアレンジでオルゴールらしさを演出する方法の例を説明しました。 どうでしたでしょうか? あくまで例でしたのでいろいろなやり方をお考えになる際の参考になればいいですね。
 今回は20弁カード式オルゴール(オルガニート)の欠点といえば欠点なのですが 全音階のみでいわゆる半音がないがために苦労する音のごまかし方について説明したいと思います。

【ごまかし といっても】
ごまかし などというといかにもズルしているように聞こえますが 音楽表現ではどうしても必要なことですね。 音楽用語ではなんていうんでしょうね? 筆者は知りませんが教えてください。
 それに20弁しかないからごまかす というのでは決してありません。 より大型のオルゴールなどでもどうしても「無い」音はあるわけでこうした音に出会った場合編曲者は他の音で「代用」することはよくあることです。  そうそう ごまかしではなく「代用」とでも言っておきましょう。

何度も言いますがこれはあくまで私の私見ですので一般論ではありません。

【ごまかしの実際】
今回のテーマ曲は「マーブルホールズ」です。 バルフェという人が作曲した曲で美しいメロディはピカイチです。 しかし残念ながらその美しいメロディのところどころに半音(臨時記号)が出てきて それがカード式オルゴールで演奏しようとした場合にネックになってくるのです。 完全に克服することは難しいとしても どの程度ごまかせるかやってみましょう。
 結論から言うと完全にごまかすことは不可能です。 程度の差こそあれどうしても原曲と比べて「間の抜けた」感じになってしまうのは避けられません。

1)原曲を聞いてみましょう。

 今回使ったのは100年以上も昔 スイスのニコルフレール社というシリンダーオルゴールを作っていたメーカーがシリンダーオルゴール製品である「ピアノフォルテ」用に編曲したものを使わせていただきました。 筆者が耳コピしたものですので音は違っていると思いますが あまり細かいことは気にしないでください。(^_^;)

(Midiプレイヤで聴いてください。音キャンでは聞けない音が含まれています。) 
譜面はこちら→(pdf形式) (jpg形式)

どうでしたか? 原編曲は変ロ長調(♭が二つ)ですが ここではハ長調に直しています。 お分かりですねカード式オルゴールはハ長調(叉はイ短調)以外は事実上演奏できませんので。
 譜面は手持ちの音楽用ソフトで印刷したものですので音符がごちゃごちゃで分りにくいですが勘弁してください。

 この曲と譜面を見ていただくと臨時記号(#)がところどころに出てくると思います。 以下でこの部分をどう処理するかのついて考えていきたいと思います。 


2)半音はどこで発生するか

(Midiプレイヤで聴いてください。音キャンでは聞けない音が含まれています。)

それではこの曲の5小節目を見てください。ド#が見えますね(影をつけてあります) 他の部分に#♭などが見えませんから比較的端正なメロディーなんですね。 曲を選ぶ場合 第一に譜面にした場合に臨時記号(#♭など)が出てこないものがいいですね。 こういった曲にどうしても出てくる場合 「ドシド〜」とか「レド#レ〜」とか「ソファ#ソ〜」という感じでまん中の音に#が付くことが多いんですね。 理論上なんていうのか知りませんがこういった感じでメロディに一種のテンションをかける場合に出てくるわけです。 こういった使い方の半音は比較的ごまかし易いですね。  注)こういう場合のまん中の音は“刺繍音”というのだそうです。2003.12.5

これを半音にならないように変える(やっぱ原曲を正とすると“ごまかす”このになりますね;;)と次のようになります。 (あくまでこれは例ですからこれしかないということはありませんよ 念のため)

(Midiプレイヤで聴いてください。音キャンでは聞けない音が含まれています。)

 ド#の音がシになっています。 よくド#だから#をとってドにしようとして近い音程の音でごまかそうとする人がいますが これは逆効果でしてもっと離れた音を使う方が変にならないことが多いわけです。 理由はと言われると理論的にはうまく説明できませんが #の付いている音からみて

  2度下(ド#ならシ) 
  半音上の音からみて5度上(叉は4度下) (ド#なら半音上のレの音からみて“ラ”) 
  半音上の音からみて3度上(叉は6度下) (ド#なら半音上のレの音からみて“ファ”又は“ファ#”)

 などが候補になるようです。いづれにしても#の付いた音からみて離れた音にすることがミソのようです。

 それと 思いきってその音を外してしまったらどうか ということも考えてください。 意外とその音をとってしまっても 聞く人がイメージでその音があるように聞いてしまう場合も多いんですね。 特に有名なメロディの場合はその傾向があるようです。 いづれにしても原曲を正とすればごまかしなんですから 被害が最小になるように代理の音をたてるということに徹する方がいいと思います。 

 さらに言うと上記の例の場合伴奏のアルペジオのラインが音のごまかしに一役かっているのがお分かりでしょうか?? つまりごまかした音の近くにまだアルペジオが迫っていますがこのようにごまかしの現場?に近いところに違う系統の音を寄せておくことで そちらに耳がいくようにしむけることも重要なんですね。

 ともあれ これで最初の難問は解決しました。 もちろんカード式オルゴールの音域にあわせるとか効果的に鳴るように音の配列を考えるとかの作業はまだ残っていますよ。


3)次は難問です。 半音のコード進行でメロディを表現する場所のことです。

(Midiプレイヤで聴いてください。音キャンでは聞けない音が含まれています。)

この部分は曲のサビの部分で一番もりあがる部分です。 17〜19小説目までの最初の音は「ラ→ソ#→ソ」と半音進行してますね。 それに21小説目には「ソ→ファ#→ソ」が見られます。 聞いているとそんなにテンションの効いたメロディではないんですが半音を効果的に使っているいい例ですね。 こういった部分はカードオルゴールでは“うーん困った”となるんですね。 そうそう この部分は原編曲でも相当苦労されているらしく、いくつかは音をごまかしているようです。 筆者のコピーもいい加減になっています(言い訳)。

18小節目のソ#の音は思いきってとってしまいましょう。 もちろん音は抜けてしまって間抜けになりますが やってみてもへたに代替えの音にするとかえって不自然さが害になるようなので筆者はそう位置付けました。

22小節目のファ#の音はシとソの音に置き換えています。

どうやってもこの一節はうまく逃げられないのですが とりあえずこんな感じにしておきます。

(Midiプレイヤで聴いてください。音キャンでは聞けない音が含まれています。)

実際上はこの“ごまかし”部分にいろいろな音を“肉もり”してさらにごまかしの上塗りをやるわけです。 場合によっては違う感じのメロディに置き換えてしまう場合も考えた方がいいかもしれません。 これは編曲をどのように考えるかによりますけど......


4)次は これまでどおりカード式オルゴールでの演奏に向いた形に音を整形していくわけです。 今回はあまり変化を付けずに オクターブ下と上のメロディを交互に出現させる程度にしました。 3で説明した肉もりをしたところですが 実をいうとうまくできているとは思えません。 思うにここまで半音(#)が重要な役割を果たすメロディの部分は難しいのかなぁ なんて言い訳に思っています。 2で説明した程度の話しだと簡単なんですが 悔しいですね。

(Mac/Win兼用)


いかがでしたか 今回はあまりはぎれよい講座にならなかったです。 というのは筆者自身 今回のテーマ曲には何度も挫折してあきらめていたものだからです。 いわばこの曲は失敗例(無理な例)かもしれません

そんな訳でみなさんが編曲、作曲に挑戦なさる場合 レド#レ〜 のように半音が挟まったようなメロディラインの場合は なんとかごまかせるが メロディの出だしの部分に半音が置かれているような場合、 メロディラインが半音階進行をする場合などは 事実上難しいと考えていただくのがいいと思うわけです。 無理にやろうとすると上記の例のようになるということです。 (別に例がいけないのではなく原曲とはかなり違和感のある形になることは避けられないという意味です。)

可能な例としては曲集に掲載しているフォスターの夢見る人(Beautiful Dreamer)などがいい例かと思います。 これはメロディの主要部分に半音が出てくるにも関わらず 簡単にごまかしには成功しています。 これはレド#レ〜 というサンドイッチ式のメロディだからです。

また 半音階進行でも 副旋律として5度下(叉は4度下)に同じような全音階進行を付け加えれば出てくる半音を省略してしまっても見かけ上問題なく通り過ぎてしまうこともあります。 ソナチネト長調などが良い例かと思います。


最後に 曲の選び方として若干のアドバイスとして次の事を挙げておこうと思います。

ケース1)曲は極力臨時記号(#♭など)が出てこないものが望ましい、 特に曲中で転調がかかっているもの テンション系のコード(少し濁った感じの響きになるコード)が目立つものは絶対に避けた方がいいと思います。 少なくとも1小節内に#や♭が2種類以上出てくるようならまずダメだと思ってください。 また♭の方向に転調していく曲よりも#の方向にする曲の方がまだマシですね。(大雑把に言うと明るい感じの曲の方が得意ということでしょう)

ケース2)臨時記号が出てきていても 先程のサンドイッチ型のメロディなどの場合はその部分のコード自体は主要3コード(ドミソ、ドファラ、シレソの和音)で解決できているケースが多いので大丈夫です。(なんとかごまかしはききます)

ケース3)短調の曲はどうしても7度の音に#(♭系の調性の場合はナチュラル)が出てきますのでどうしても間抜けな感じになりやすいです。 従って短調の曲も苦手の部類かと思います。 曲集ではニーナがそれに相当します。 ただこれは不可能というのではありません。

 現代のアーティストが作曲する曲はケース1の例がとても多く、残念ながらカード式オルゴールでの表現は困難を極めることが多いので残念です。

 次回は曲の装飾の仕方あれこれなどお話してみたいと思います。 簡単にいうと派手にする方法と言う感じでしょう。

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