慣れてしまえば





「はい!!今回のロードでくっついてもらうカップル を紹介するぞ〜〜〜。みんな集まれ〜!!」
 シグルドの声に何だ何だと集まる戦士達。
 ロードも九回目ともなると、プレイヤーも戦士達も、ストーリーより カップリングを大切にする。会話が見たい、本城会話が見たい、 子供を強くしたい、などの理由でマイナーと呼ばれる、なんでこいつら!? と言われるようなカップリングもされる。 恋人がいるかいないかによって自分の運命が変わるという者も 少なくない。大体は独身者に花々しく散ってもらい、既婚者は相手と共に 生き延びる、という感じ。つまり、恋人がいる方が生き残れる可能性が 高いのだ。それでどうにかして恋人を獲得しようという愚かな輩がいるため、 こうして毎回毎回神(プレイヤー)の決めたカップリングを指揮官に教え、 その通りに実行させるのだ。にゅふ。
「え〜、では発表する……。まずエーディンの相手は……」
「(ドキドキ)」
 いきなり魔性の美女、エーディンの相手からということで 緊張する男性ユニット。何回も彼女の夫婦になったものさえやはり緊張するものなのである。
「エーディンの相手は、フィン!!君だ!!」
 バーンと指をさされ、何がどうなのかさっぱり事態が飲み込めていないフィン。 そんな彼にしずしずとエーディンが歩み寄る。
「久しぶりですわね。今回もよろしくお願いしますね(ニッコリ)。」
「えっ…あ…いえ、こちらこそ、エーディン……様。」
「あら、いつものように『エーディン』でいいですわよ(クスクス)。」
「い、いえ……!!ま、まだ恋人同士ではありませんし……。」
 彼等は前に神の悪戯で何度かくっつけられたことがある。 もう何度も夫婦になってしまったので、わりと落ち着いている。
 またもや神の悪戯で憧れの姫君の恋人になれなかった連中は、 ブリギッドの恋人になれるように祈り続けている。
 一方ラケシスは、といえば顔に青筋をたててすごい形相でフィンを睨みつづけている。 その邪悪なオーラにやられてフィン昇天。こんなに早くバルキリーのお世話になるだなんて……。 今回のロードは先が思いやられるな。はふぅ〜。
「さぁ!!次いくぞ!!次はアイラ!相手はデューだ!!」
 ええ〜〜〜!?っと場内から苦情の嵐がとびかう。それもそのはず、 この二人はほとんどいつも恋人同士なのだ。折角貢いでも、結局恋人になれない ホリンとレックスはさぞかし悔しいだろう。
「ちょっと待て〜〜!!何でいつもいつもアイラの相手はデューなんだ!? 俺の方が絶対いいじゃねぇ〜か!!硬いし成長早いし、王道だぞ!!」
「デューより俺の方が絶対にいいに決まってる!! 月光死神兄妹だぞ!!しかもHPも高くなる!!最高じゃないか!!」
 ぎゃぁぎゃぁとわめくレックスとホリン。これでもかと自分の良いところを アピールしている。フフフ、でもこれも予定通り。
「あ〜、それについてはプレイヤーから聞かされている。『王道だろうがマイナーだろうが 自分が気に入ればそれで良し!!この二人だと子供がめちゃ強いから決定』 だそうだ。ま、いつものことだ。諦めろ。」
 ポン、っと肩に手を置かれ、その場にしゃがみこむ二人。髪の毛はもう白く染まっている。 あらら、序章寸前に白髪染めをさしいれしなきゃ♪
「やった〜また一緒だね!アイラさん♪」
「ああ、よかった。またよろしくなのむ。」
 すでにイチャイチャモードな二人。もう誰にも止めることなどできないだろう。
「さて、気をとりなおして次!!ラケシス!!」
「ふん。フィンじゃないってことは誰かしら。ベオウルフ?ん〜……」
 大好きな大好きなフィン君を妖艶金髪美女にとられてやけになっている ラケシス。どうやらもう自分の相手に興味がわかないらしい。
「ラケシスの相手はなんと!!アゼルだ〜〜〜〜〜!!」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」
 叫び声をあげたのは何とアゼル本人。隣には納得いかないという顔のティルテュまでいる。
「ちょっと待ってくださいシグルド公子!!何で僕がラケシス王女と結婚するんですか!! 後のことを考えると戦力的に問題ばかりじゃないですか!!」
 幼なじみの少女と一緒になるものだとばっかり思っていたアゼルは、 いきなり、しかも全く予想もしていなかった相手に戸惑っている。
「いや、それに関しては問題ない。武器継承もできるし、 成長ボーナスもある。おまけに魔力も上がって使えるユニットになるよ(ニッコリ)。」
「まぁヴェルトマー公子ですし、お顔も悪くないし、仕方ないですわね。 よろしくお願いしますね、アゼル公子。」
「何よ!!ラケシス!!アゼルほどいい人なんて滅多にいないわよ!! そんな風に悪く言わないで!!」
「あら、別に私は悪く言ったつもりはなくってよ。あなたのお耳が悪いんじゃくて?」
「な……なんですって〜〜〜〜!!??」
 呆然状態のアゼルをはさんで、熾烈な女の戦いが始まった!!しかもティルテュは すでに怒りモード。気をつけろ!!彼女は手強いぞ!!
「エーディン……。あとで彼女達にスリープを。……さ、ジャンジャンいくぞ!! 次はシルヴィアとホリンだ!!!」
 バタバタと倒れる三人を横目に、台本通りのセリフを言うシグルド。
「ちょ、ちょっと待ってよ!!何であたしがホリンと!! あたしは線の細い男が好みなのよ!こんな筋肉マッチョは嫌!レヴィンか神父様にしてよ!!」
「俺もこんな落ち着きのないガキは嫌だ。」
「な…!?なんどぇすって〜〜〜!!あたしのどこがガキなのよ!!」
「事実を言ったまでだ。」
「ははは。もう夫婦喧嘩か。仲が良いなぁ♪」
 そういうのじゃないだろう……。
 そんな視線をお腹にバシバシくらいながら気づかず、平然と読みつづける。
「次は……フュリーとクロード様だ〜〜〜〜〜!!!」
「何〜〜〜〜〜!?」
 ガタン!!っと座っていた椅子から立ち上がる碧髪の青年。彼もまた 自分がフュリーの恋人になると信じて疑わなかったのだ。
「何でなんの接点もない、フュリーと神父が結婚するんだ!!普通俺だろ俺!!」
「はっはっは。レヴィン。君さっき私が言ったこと聞いていなかったのかい? プレイヤーは王道だろうがマイナーだろうが関係ないという精神の持ち主だ。諦めろ。さ、次だ。」
「あの、フュリーさん。お気を悪くされているかもしれませんが、 ここは神のご意思に従いましょう。」
「あ…はい。ちょっと突然のことに驚いてしまって…。こちらこそよろしくお願いします、クロード様。」
 何だか良い雰囲気の二人。おい、隣でレヴィンが死んでるぞ。助けてやれよ。
「じゃ、次はティルテュ!!相手はレヴィンだ。」
「え〜またレヴィン?嫌だよ〜。レヴィンったらあたし達置いてどっか行っちゃうんだもん。」
「仕方がないだろ。我慢してくれよ。後半ティニーと会話あるし、いいじゃないか。」
「ぶ〜分かったよ〜。もう。」
 レヴィンが死んでるのをいいことに、言いたい放題言っている。あら?バルキリーが効かない? あら、ホントに死んじゃったんだ。レヴィン、成仏してね。合掌。
「はい!!では最後ブリギッド!!相手は……」
 ゴクッっと生唾を飲み込む男性ユニット。さぁ!誰だ!!彼女の夫となる人物は!!
「今回もジャムカだ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「やった〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 いつもは無口で冷静なジャムカもこの時ばかりは涙を流して喜んでいる。
「ジャムカ、また一緒ね。よろしく。」
「ああ。ブリギッド。」
 全カップル中、唯一王道の部類に入るであろう彼等はもうめちゃくちゃ 嬉しがっている。なぜか彼等にはプレイヤーはマイナー好き、という噂が流れているらしい。にゅふふ。
 喜び合う二人をよそに、独身男性達は燃え尽きていた。 特にミデェールは悲惨なものだった。ミデ男と呼ばれ、間接攻撃しかできないのに 囮にされ、あげくの果てには「なんか嫌い」と言われて恋人もなし。 嗚呼!!哀れミデェールに神の救いあらんことを!!
「これで発表を終わる!!各自準備にとりかかれ!!」
 颯爽とその場を立ち去るシグルド。
(ふふふ♪私はいつもディアドラだから苦労はしない♪ああ〜愛しのディアドラ〜♪)



 なんの心配もなく愛しい妻の元へと行くシグルド。
その後スリープとバルキリーの修理代、そして奇跡的に生きかえった レヴィンのフォルセティが、自分を襲うだなんて夢にも思っていなかったのであった。


「ギャァーーーーーーーーー!!!!!!!!」
合掌。