 |
|
其角の俳句 |
|
 |
別項「江戸俳句」にあるように、芭蕉とその弟子宝井其角は句風が両極といっていいほど異なります。このように傾向が違う俳人を弟子の筆頭に取り立てた、芭蕉のふところの深さが面白いと思います。
この其角を調べているうちに、心惹かれる句がいくつも目に付きました。私は、もともと芭蕉のようなオーソドックスで奥行きの深い句が好きなのですが、其角の句も読んでいるうちに思わず引き込まれてしまいます。俳句の世界の間口が広く、バラエティに富んでいるのを実感させられます。
まずよく知られている次の俳句をとりあげましょう。 |
 |
|
鴬の
身をさかさまに
初音かな 宝井其角
私ども素人が作ったら、鴬と初音で季語重なりだと叱られそうですが(^_^)。
鴬が、梅の木の中で枝から枝に飛び移りながら盛んにさえずっている様子を巧みにとらえています。其角にはこのような軽妙な俳句がたくさんあります。
私は子供のころ、親が鴬を飼っていたので、その世話をしました。現在では、鴬を飼うのは禁止されています。 |
 |
|
次の俳句も大変有名で、其角の代表句といえましょう。
鐘一つ
売れぬ日はなし
江戸の春 宝井其角
この俳句の「鐘」というのは、町々の火の見やぐらに吊るされて火事が発見されたときジャンジャンと打ち鳴らして住民に通報する半鐘のことです。
大火は江戸の華といわれるように、江戸の町はたびたび大火に見舞われて焼け野原となりました。 |
そこで幕府は、火災が発見されたとき直ちに住民に通報するための半鐘の設置を奨励しました。上の写真は、世田谷区次太夫堀公園の火の見やぐらに吊られていた半鐘です。
この俳句は、急発展する江戸の町で盛んに半鐘が製造され、設置されていった様子を詠んだものでしょう。元禄ころの江戸の町の繁盛振りが、鮮やかに読者に伝わってきます。 |
 |
|
あまがへる
芭蕉にのりて
そよぎけり 宝井其角
其角には珍しいさりげない描写の俳句です。其角が出入りした芭蕉庵には芭蕉の木があり、その下には石の蛙が置いてありました。上の俳句は、その芭蕉庵の蛙を詠んだものでしょうか。
私は、子供のころ千葉の田舎にいたので、梅雨のシーズンには薄緑色の雨蛙が急に殖えて八手など方々の大きな木の葉に乗っていたのを思い出します。 |
|
その時期は、私どもの庭には殖えた蛙をねらって蛇が盛んに動き回っていました。 |
 |
|
夕立や
田を見めぐりの
神ならば 宝井其角
広々とした水田地帯に夕立がかかり、ゆっくりと移動しているのでしょうか。その光景を、農業の神様が稲作の進行状況を視察するのにたとえた俳句です。
当時旱魃で田植えができず困ったお百姓たちが、江戸の俳人の中で人気が高かった其角に田に雨が降るように俳句をつくってほしいとお願いに行きました。その要望に応えて其角が詠んだものだそうです。 |
|
初夏の午後、広々とした水田の上に白い雨脚がたつ様子が見えるような、さわやかで力強い佳句です。 |
 |
|
これまた有名な次の句では、都会派俳人其角の感覚的表現が実に見事です。
越後屋に
布裂く音や
衣更(ころもがえ) 宝井其角
「越後屋」は、現在の三越百貨店のルーツである越後屋呉服店のことで、掛け値なし、現金売りの画期的商法で大繁盛しました。
その越後屋で盛んに布を裂く音が衣更のシーズンを告げている、という其角ならではの俳句です。現在はどうか知りませんが、昔の浴衣は鋏を使わず布を裂いてから縫い上げました。 |
|
浴衣に衣替えした江戸っ子が颯爽と登場してくる様子が目に見えるような、鮮やかな季節感のある俳句です。 |
|