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大塚国際美術館

大塚国際美術館  徳島県の大塚国際美術館は、西洋名画1,000余点を大塚グループの特殊技術によってオリジナル作品と同じ大きさの陶板に複製した「陶板名画」を常設展示している大変ユニークな美術館です。

陶板に複製された絵画は2,000年以上にわたってそのままの色と姿で残るとされるので、人類の貴重な文化遺産を後世に伝えるという点でも大きな意味があるといえましょう。

複製された絵画の品質については、原画が展示されている各国の美術館の館長、館員らによって詳細にチェックしてもらっているとのことです。

大塚国際美術館 陶板複製絵画は直射日光、雨風にさらされてもダメージを受けないとのことで、美術館の塀には上の写真に見られるようになんとモネの有名な 《睡蓮》 の連作を拡大した陶板絵画を展示しています。

また大塚国際美術館は、創設10周年記念事業としてローマ・ヴァチカン宮殿内にあるシスティナ礼拝堂の複製を行いました(左の写真)。

システィナ礼拝堂には、ミケランジェロが描いた「天地創造」の場面など多数の天井画がありますが、それら天井画を曲面をそのままに複製し、同じく複製した壁画とともに展示しています。

これらの陶板絵画は、まず原画が展示されている美術館の許認のもとに原画を精密に写真撮影することから始まります。そのフィルムから原画画像を3原色に色分解し、それを特殊技術で陶板に定着させます。その後手作業によるレタッチで更に細かい微妙な色あいなどの調整をします。最後に表面の凹凸、マチエールなどを再現した後、炉で焼成します。

そのように炉で高温で焼成するという工程を経て古今の名画の細部にいたるまで複製するというのは、信じがたいほど高度な技術だと思います。

美術館での原画複製

名画 《モナリザ》  上記のような名画の複製技術は近年非常に進歩し、さまざまな技術による複製絵画が世界各地で制作されています。
その背景として、まず原画を展示している美術館がその絵画の精密なコピーを作っておくことで万一の盗難、破損、焼失に備えるという動きがあります。

奈良県の高松塚古墳では古代史上で貴重な壁画が発見されましたが、カビなどの被害を防ぐため原壁画は公開されず、そのかわりに原画を精密に複製した壁画を高松塚壁画館で展示しています。

制作後長年月が経ったルネッサンス絵画などでは、画面の劣化が進行しているものもあります。
ルーブル美術館で名画 《モナリザ》 をまじかに見ると、画面全体に細かいひび割れがあるのに気がつきます。いずれこの人類の至宝がぼろぼろになるのではないかと心配になります。そこで 《モナリザ》 も、原画公開はやめてかわりに精密な複製を展示するほうがよいという意見もあるそうです。

絵画のディジタルデータ

 そのように高度な絵画の複製が可能になったのは、まず近年高解像度のディジタルカメラやイメージスキャナーによって原画画面の明度、色彩などの情報が精密なディジタルデータとして取得されるようになったからでしょう。

現在は名画のディジタルデータ取得は美術館の監督のもとに行われ、その結果は美術館の担当者によって細かくチェックされます。それらディジタルデータは原絵画のバックアップデータとして厳重に保存されるとともに、原画に万一の事態が発生したときに備えてそのディジタルデータから精密な複製画を作成し、美術館内に保管します。

最近は、そのようにして美術館側で作成した原絵画のディジタルデータを美術館外部からの要請に応じて有償で提供する動きが多くなりました。
絵画データを要望する利用者の目的はさまざまで、かなり高額で販売される高級複製画の制作から美術館内のショップやインターネットで販売される複製画やポスターの制作までとレベルが大きく異なります。そのレベルに応じて精細度の異なるディジタルデータが利用者に提供されているのでしょう。

リトグラフによる複製

 それでは、上記のようにして得られた原画画像のディジタルデータから複製絵画を作成するにはどのような方法があるのでしょうか。

リトグラフ ヨーロッパでは昔から石版や銅版を利用した精密な複写技術の伝統がありました。

リトグラフはその一つで、石板や亜鉛板の上に脂肪性のクレヨンやインクで原画の図柄を描き、その版の上に含水性の薬品を塗布します。

その後油性インクを版面に塗布すると、描画部分にはインクがなじむのに対しそれ以外の部分ではインクが水にはじかれて乗りません。

その状態で版面の上に紙を置き、プレス機で圧力をかけて印刷します。版が小さい場合には、重い大型ローラーを使って印刷することもあります。

アンリ・ロートレックの有名なポスターなども、この技法で描いたということです。ムンク、シャガール、ピカソなど著名画家たちも、それぞれ技術力の高いリトグラフ工房の協力を得て優れた美術版画を制作しました。版画家の中には、自分でリトグラフの技術を修得して版に絵を起こすところから印刷までを行う人もいるそうです。

前記のように原画画像のディジタルデータからアルミニウム板などの上に版を作り、それをもとにリトグラフの技術で多色刷りの複製画を印刷することができます。この方式の複製画は、独特の艶のある質感が高く評価されているということです。

シルクスクリーン印刷


シルクスクリーン印刷  シルクスクリーン印刷とは、メッシュと呼ばれる網目の布を通して対象物にインクを捺印する印刷方式です。メッシュとしては、近年はポリエステル、ナイロンなど合成繊維の布が多く利用されています。

メッシュには写真製版法その他の方法で原画画像を色分解したイメージを形成しておきます。
写真製版の場合には、感光剤と乳剤をメッシュに塗布しておき、その上に原画画像のイメージを投影するなどの方法を取ります。

また印刷された複製画の品質を高くするために、印刷工程ではアーティストが色などを数回にわたってチェックするのが普通です。

ジークレー印刷
 近年、コンピューター用プリンターを応用したディジタル時代の絵画複製技術が開発されました。簡単にいうと、パソコン用インクジェット・プリンターを大型化したようなプリンターを利用し、原画画像のディジタルデータから紙やキャンバスの上に複製絵画を作成します。

ジークレー印刷 このような美術印刷の手法は1990年代にアメリカ西海岸ロサンゼルスで開発されました。
当初はこの方式の複製絵画は画質はそれほどよくなく、また染料インクを使っていたので湿気に弱く長期保存性に問題がありました。

まもなく顔料と特殊インクを組み合わせたカートリッジが開発された結果、複製画質は大幅に向上し、長期保存性も十分になりました。

このような印刷法をジークレー印刷と呼びます。ジークレーとは、フランス語で「吹き付けて色を付ける」という意味だそうです。

ジークレー印刷では、麻のキャンバス、版画用紙、化学繊維布などの上に高精度の複製絵画を印刷できます。また、フィンセント・ファン・ゴッホの後期の作品にように絵具を厚く盛り上げた絵画をそのままに立体的に複製することもできます。

ジークレー印刷は、「版」を必要とせず原画画像のディジタルデータから直接紙やキャンバスの上に複製絵画を作成します。この技術により、少数枚の複製絵画が比較的安価に作成できるようになりました。

3Dプリンターの利用
 最近プラスティックなどの微粒子を吹き付けることで三次元的な物体を作成できる「3Dプリンター」が、さまざまな分野で使用されています。ここ数年、3Dプリンターの進歩につれてその技術が絵画作品の複製に盛んに応用され、絵具を厚く盛り上げた絵画でもそのままに立体的に複製できるようになりました。

3Dプリンターの利用 3Dプリンターで絵画作品を複製するには、まずその絵画の画面を三次元的にスキャンし、画面の精密な3D画像データを取得する必要があります。

左の写真はアムステルダム国立美術館に展示されているレンブラント晩年期の傑作 《ユダヤの花嫁(イサクとリベカ)》 の前にカメラをセットし、画面の3Dスキャンをしている様子です。

レンブラントの名画 《ユダヤの花嫁》 はサイズ 121×166cm の大作です。その前に上下・左右方向に移動できる長いレールを設置し、そこに画面の狭い部分を照明するライトと2台の高精細度ディジタル1眼レフカメラをセットします。

オランダの画像研究者ティム・ザーマン氏は、この装置を使って1u の原画をスキャンするのに1日を要したと述べています。同氏はその3Dスキャンデータからキャノンの子会社が開発した3Dプリンターで原画の複製をしましたが、その場合原画1u 分を複製するのにやはり1日を要したそうです。

同様な3Dプリンターによる絵画複製技術は、オランダ・アムステルダムのゴッホ美術館が Fujifilm Europe と共同で開発し、すでに 《花咲くアーモンドの木の枝》 、 《ひまわり》 、 《荒れ模様の空の麦畑》 などのゴッホ作品を複製しています。
複製絵画は、製作後キュレーターによって品質がチェックされ、合格したものにシリアルナンバーが振られて1点25,000 Euro で販売されているそうです。

複製絵画の利用
 このようにして最新技術で製作された複製絵画は、私ども通常の美術愛好者のレベルでは原絵画との区別が難しい出来栄えになるということです。
複製絵画を原絵画の横に置き、細部を比較すれば細かい差異がわかるかも知れません。しかし、これら複製絵画が普通に部屋の壁にかけられていれば、絵画鑑定家や絵画修復家のような専門家でなければ原絵画との違いを指摘するのは難しいともいわれます。

このような複製絵画は人類の偉大なる遺産である原名画の尊厳を汚すものであるという意見もあるそうです。確かに原名画の「そっくりさん」が多数製作され、安易に世間に流通すれば、なにかとトラブルが発生する恐れもあるでしょう。

その一方で、それら複製絵画が偉大なる原名画に近い芸術性を持つにいたったというのも否定できません。今後、ディジタル技術の進歩により複製絵画の品質はさらに向上し、それらを製作するコストは次第に低減して行くでしょう。
私どもは、技術の進歩により原名画に近い芸術性を持つ絵画複製が可能になったという事実をそのまま受け止め、それらを人類の文化向上のために上手に利用する道をさぐるべきではないかと思います。

水差しを持つ女 世界の大美術館では、展示企画での必要性に応じて所蔵絵画の貸し借りを盛んにしています。どの国でも人気のあるフェルメールの作品は現在世界中でわずか30点が残っているだけですが、ニューヨークのメトロポリタン美術館はそれらのうちなんと5点もの作品を展示しています。

当然ながら世界中の大美術館からメトロポリタン美術館に対しフェルメール作品の貸し出し要望が絶えず、メトロポリタン美術館もやむを得ずそれに応じています。

何年か前、私がメトロポリタン美術館に行ったとき、5点のフェルメール作品のうち1枚が貸出し中で、その絵がかかっていた場所にその旨のメモが置かれてありました。

そのような場合に備えてメトロポリタン美術館監修の下に所蔵のフェルメール作品の複製を製作しておき、他美術館に貸出しということになったらその複製絵画をかわりに展示すれば、入場者に対してよいサービスになると思います。

美術教育での利用

 この稿を書いているうちに、展示中の有名絵画の複製画を学校などでの美術教育のために貸し出している美術館が日本各地にあるのを知りました。

浅井忠 風景画 千葉県立美術館では「貸出し用学習キット」という名称の学習支援プログラムを実施中で、日本近代洋画の先駆者浅井忠(左の写真)やミレー、コローなど所蔵している有名画家の作品の複製画45点を解りやすい解説書付で無償で貸し出しています。

複製画は前記のような最新技術を利用した高品質なもののようで、学校の生徒たちが絵画の鑑賞ポイントを学ぶには十分役に立つということです。

学校の要望があれば、美術館職員が複製画を携えて学校に出向き、鑑賞授業の指導をすることもあるそうです。このプログラムは、美術館訪問の事前学習に、また美術館訪問が難しい遠方の学校での鑑賞授業の教材として活用されているということです。

浅井忠 風景画 埼玉県立近代美術館では、美術館来館前の鑑賞の指導や、遠隔地の学校で美術館の作品を活用して鑑賞の授業を実施したいと考えている先生方のために同美術館収蔵作品の複製画を貸し出しています。

現在はフランス印象派の画家クロード・モネの 《ジヴェルニーの積みわら、夕日》 (左の写真)やピサロの風景画、岸田劉生の作品5点などの複製画を提供しているそうです。

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