オルゴール編曲講座(第一回)

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2002.4.2 第一回 プロローグ。

今回からオルゴール曲の編曲について作者なりの意見も交えてお話してみたいと思います。
ただ 作者は音楽の専門家ではありませんのでかなり自己流で偏見に満ちた内容になるかと思われます。 まあご愛嬌だと思っておつき合いください。

【オルゴールの曲って】
オルゴールは その独特な音色と響き方からか 最近では“癒し系”などともてはやされて結構な はやり になっているんですね。 その響きは他のどんな楽器でも演出できないようなもので、特にアンティークといわれる100年以上も前のオルゴールが多くの人の手で修理、維持され あの音色を出し続けていることは驚愕にすら値します。

 みなさんはオルゴールの曲をじっくり聴いたことがありますか? おそらく音がどんな並びになっている... とかあのパッセージ(フレーズ)が好きとか... いう印象は薄いのではないでしょうか? そうオルゴールは音の出方という点ではとてもフラットであまり突出した印象がないのが一般的です。 いわばオルゴールは強調の演奏ではなく、協調の演奏だと言えるかもしれません。 この点が他の音楽が必ずといっていいほど何かの楽器や歌手などをフューチャーして聴かせるのに対して オルゴールの特長といえるのかもしれません。

【オルゴールの特長】
オルゴールを楽器として捕らえた場合次の特長があります。

1)音を止める機構がない。 (鳴ったらなりっぱなし)
2)音の強弱をつけられない。(ノート毎に音の大きさは一定:但しノートが違うと音の大きさはかなり違うことが多い)
3)音色に変化がつけられない。

なんだか楽器として捕らえた場合はっきりいって“欠点”ばっかりのようですね。 まあピアノで言えばペダルを踏みっぱなしで単調に鍵盤をたたきつづけているようなもので、ピアノならとても聴けたものではないですね。

つまり オルゴールでは他の楽器とは音楽(曲)の作り方が全くちがう ということなんです。 といってもそう大上段に構える必要はなく、いろいろやってみると面白いことが発見できて“こんな面白い楽器??はない”と思えてくるから不思議です。

音のキャンバスが対象にしているカード式オルゴールはここまでなんですが 実際にオルゴール博物館などにあるアンティークと言われる昔の大形オルゴールになってくるとさらに特長が加わります。

4)調律に独特のやり方がある。
5)ダブルコームといって発音する“くし歯”を2セット(叉はそれ以上)同時に弾くことで深い音色を演出している。
6)独特の響体(きょうたい)(早い話がハコです)とマッチした響きの演出
7)独特の編曲技法による響きの演出

さらには演奏につかう動力にゼンマイなどを使っている場合(これがほとんど)は

8)同時に沢山の音を発音(くし歯を弾く)とたくさん力が要るためゼンマイでまかないきれなくなりテンポが遅くなり乱れる。 つまりリズム音痴になりやすい。

といった特長が加わり もはや他の楽器とは全くことなった独特の世界をつくり出しているのです。

その特長からオルゴールは一般には他の楽器とのアンサンブルには向きません。 特に4の調律については中全音律とも純正調律ともつかない 増しては平均律ではない まさに独特なやり方をしています。 これが1項の音を止められない つまり鳴りっぱなしの状態でも独特の響きを演出する要因の一つになっているのですね。

【オルゴールと編曲】

こうした特長を理解すると 編曲でどうすればいいかが少し見えてきます。

a) 曲の盛り上がり、盛り下がり?
 オルゴールは音量を変えて演奏できません。 従って盛り上がる場所は
  ・高い音を使う。 ----心理的に大きな音になったように聞こえる。
  ・音を厚くする。 ----沢山の音を同時、叉はほぼ同時に鳴らすことで大きな音、きらびやかな音になったように聞こえる。

 盛り下がる?時はその逆をやるわけです。

b)アルペジオの多用
 オルゴールの専売特許という訳ではありませんが アルペジオ(分散和音)はオルゴール編曲では多用されます。 理由はaと同じで曲の盛り上がりを演出するためでもありますが、他には ゼンマイなどを使ったオルゴールの場合はあまり同時発音が多いとゼンマイのトルクが追い付かずにテンポが乱れる いわゆるリズム音痴になりやすいので これらを避ける意味もあります。
 一口にアルペジオといってもいろいろな演出の仕方があります。 よく“走り回る”という言い方をしますが、曲の中を上を下へとせわしなく走り回るようにアルペジオを使いまくるような使い方をする場合もありますし、(多用しすぎるとしつこくなります。) 和音の連続する場所にちょっと“ひと息”といったプチな効果を出す場合もあります。 あとはバイエルにあるような “ドソミソドソミソ...(わかります?)”といった伴奏パターンは曲調を柔らかく演出できるため よく使われます。

さらに音のキャンバスで扱っている20弁のカード式オルゴールでは

c) 半音が出ないようにごまかす。
ご存じの通り20弁のオルゴールは半音がありません。 でも楽曲にはどうしても半音が出る場合があります。 こうした場合のごまかし方も編曲の大切な役割になってきます。
 半音は大抵は属和音か下属和音などの7度の音(セブンス)に発生します。 実際にはもっと違う場面でも出ますが オルゴールで扱う曲ではたいていこの範囲ものです。 こういった場合に うまい表現ではありませんが “その音が鳴っているように思わせる”ように和音を構成する他の音を配置していまう訳です。 もちろん実物の音が鳴っている訳ではありませんから “ちょっと間の抜けた”感じになるのは避けられませんが。

d) 音の間隔がつまりすぎないようにする。
カードにした場合に約7mm以下の間隔で同一の音が並んでいると どうしても後の方の音が出ないのは(カード式)オルゴールの特性なのでしかたがありません。
どうしてもそういった音が発生する場合は

 ・小節の長さを長くして間隔が詰まりすぎないようにする。
 ・後ろの音をオクターブなどずらしてごまかす。
 ・後ろの音が心理的にいかにも鳴ったようにアルペジオなどを利用してごまかす。

といったやり方で切り抜けるようにします。

e) 手持ちのオルゴールの鳴り方を考慮する。
カード式オルゴールのメカ(機械)は三協精機が量産しているものですから基本的には同じような鳴り方をするはずなのですが、オルゴールはその微妙な調整、ハコの作り方などで一台づつ鳴り方は“違う”と思った方がいいでしょう。

例えば このオルゴールは高音のこのあたりがキーンと響く(これを共鳴現象といいます)場合があったり、ある音はぜんぜん響かないといったことがあります。 一般にくし歯の特長からいって高音部は堅く金属的な音で心理的に大きく聞こえる場合が多く、逆に低音部は木管系の丸みのある音で しかもあまり響かず、発音してから少し遅れて聞こえてくる場合が多いものです。 このあたりは音キャンでテストパターンを作って 低音から順番にドレミファ...と鳴らしてみてどんな鳴り方をするか試してみてください。

 こうした特性を踏まえて 響く音はなるべく盛り下がり?の部分では出現しないようにする。とか 低音部に音を増やしてみるとか工夫するとよいでしょう。

f) 調律をいじってみる(番外編)
 なお本題とは外れますが 興味のある人はカード式オルゴールのくし歯を少し削るなどして調律を変えてみると面白いかもしれません。

 このオルゴールは量産タイプなので基本的に平均律(といってもだいぶ狂っているようですが)に近いやり方をしているようです。 幸いにも音程がドレミファといった全音階だけですから 3度の音(ミ)だけでも少しいじって(上げて)あげるとかなり響き方が変わってきます。
 もっともこうするにはくし歯を外して裏から削るなどの工作が必要になりますので 興味ある人はやってみてください。 くらいのことです。 そのうちやり方を公開しましょうか?

【次回は】
次回は具体的に簡単な曲を題材にオルゴール的世界をご案内しようと思います。
なーに 偉そうに言うほどの内容ではありませんから みなさんがすぐに思い付くようなことばかりです。  ではお楽しみに。

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