二 本 の 楓

         エフゲーニイ・シュヴァルツ 作
          能 美 武 功    訳
          城 田  俊   監 修
      
   登場人物
ヴァシリーサ
フョードル
エゴールシュカ
イヴァーヌシュカ
バーバ・ヤガー

カタフェーイ・イヴァーノヴィッチ (訳註 猫)
シャーリク (訳註 犬)
ねずみ

     第 一 幕
(二本の若い楓の木が、森の中の野原に、並んで立っている。静かな明るい朝。しかし、さっと風が通り過ぎると、まるで目が覚めたかのように、右側の楓が身震いする。そしてその頂上の部分が、左側の楓に話しかけるかのように傾く(身を寄せかけるようにする。)。そして楓が人間のように話す。)
 第一の楓 フェーヂャ、おい、フェーヂャ。起きるんだ。風が吹いてきた。
 第二の楓 静かにして、エゴールシュカ兄さん。丁度夢にママが出て来ているんだ。
 エゴールシュカ ママに訊いてくれ。僕等を捜してるかって。
 フョードル 捜してるって言ってる。
 エゴールシュカ これも訊いて。僕らが家出したのを、今じゃもう許してくれてるかって。
 フョードル 許してるって言ってる。
 エゴールシュカ 訊いて。僕らがバーバ・ヤガーのために、楓に変えられちゃったこと知ってるかって。
 フョードル 大丈夫、いつかは道で会える筈、って言ってる。(旅をすると色々起こるからね、と言っている。)
 エゴールシュカ 訊いて。まだ僕達、長いことここで辛い目にあわなきゃならないのって。
 フョードル ママ、ママ! 僕達まだここで辛い目にあわなきゃならないの? 消えちゃった。僕、目が覚めちゃったよ。お早う、兄さん。
 エゴールシュカ お早う。泣くんじゃない。子供じゃないんだ。
 フョードル 僕、泣いてない。朝露だよ、これは。
 エゴールシュカ こんないい天気に泣く奴があるか。草も木も生き生きしている。はつらつとしているじゃないか。元気を出すんだ。
 フョードル 元気だよ、僕。僕は信じているんだ、今すぐにでもママがやってきて、声が聞けるぞって。フョードオール。エゴーオールシュカー。
 エゴールシュカ あれっ? こだまかな?
 フョードル 何だ、これは。バーバ・ヤガーの奴が、こんなに悪賢いってことを忘れてた。僕等の声を聞くことが出来るものは何もない筈なんだ。人間だって、鳥だって、けものだって。それどころか、水だって、草だって、木だって、それにこだまだって、僕等の声は聞こえない筈だ。
 声 エゴールシュカーアーアー。フョードオール。
 フョードル 兄さん、黙って。答えちゃいけない。あれはバーバ・ヤガーだよ。僕らを苛めてやろうっていう、涙を流させてやろうっていう腹なんだ。どんな声だって、あいつには真似が出来るんだから。
 声(非常に近くから。)エゴールシュカー、フェーヂェンカー。世界中捜してるのよー。ママよー。だけどまだ分からないのよー。
 フョードル ママだ。バーバ・ヤガーはあんなにうまくない。それにあんなに優しい声は出せっこない。ママ、ママー。ほら、僕らここに立っているんだ。枝をほら、揺すってるんだ。
 エゴールシュカ 葉っぱをガサガサ鳴らしてるんだ。
 フョードル ママ! ママ!
 エゴールシュカ 行っちゃった!
 フョードル いや、立ってるよ。まわりを眺めてる。行っちゃわないだろうな。
 エゴールシュカ あ、振り向いた。こっちに来る。急いで、こっちに来るぞ!
(野原に、四十歳ぐらいの、背の高い、がっしりとした女、登場。肩には袋。帯には剣。ヴァシリーサである。)
 フョードル ママ、ママ! ママ、なんて悲しそうな顔をしてるの。
 エゴールシュカ それに髪の毛・・・あんなに白くなって・・・
 フョードル でも目はあんなに優しい。
 エゴールシュカ それから帯に・・・ほら、お父さんの剣だ。
 ヴァシリーサ フェーヂャ、エゴールシュカ、可哀相な私の子供達。二年間、私は歩き回った。休んだことなど一度もない。どうしたんだろう。急に休みたくなるなんて。子供達が見つかったみたい。
 フョードル ママ! 僕らはここにいるんだ。
 エゴールシュカ ママ! 行っちゃ駄目だよ。
 ヴァシリーサ この二本の楓の木、葉っぱがサワサワ鳴っている。優しい音。心が慰むような。ここなら安心して休めそう。(袋を肩から下ろす。石の上に坐る。)あらまあ、この真夏に毛皮の外套を着て歩いている人がいる。おーい、そこのひとー、貴方、だあれ?
 フョードル ママ、やめて。
 エゴールシュカ あれは熊なんだ、ママ。バーバ・ヤガーが鎖でつないだ・・・
 ヴァシリーサ おーい、そこのひとー。こっちに来てー。
(熊、うなり声をあげながら、野原に走って登場。)
 熊 俺は恐ろしい熊だぞ。それを態々呼ぶ奴は誰だ。身の毛もよだつような恐ろしいことをしてやるぞ。空が真っ赤に焼け焦げるような。(ヴァシリーサを見る。釘づけになったように立ち止る。)ああ、可哀相に!おばさん、何故こんなところに? ここには誰も来ないんだ。だから安心していたのに。だって人を咬んだりしちゃいけないんだからね。がぶっと咬んだりしちゃ。そんなことは本当は嫌いなんだ。僕はやさしい熊なんだ。
 ヴァシリーサ そうなのね。安心していいのね。咬んじゃいやだよ、熊さん。
 熊 そんな。咬みやしないよ。かまないもんだから僕はバーバ・ヤガーに雇われているんだ。
 ヴァシリーサ どうしてそんなことに?
 熊 単純な話だよ。犬と猫が人間に飼われていた。だけどその人、年をとってきて、よくあること、誰にでも起こることだけど、急にその二匹に暇を出しちゃった。可哀相に、二匹とも食べるものがなくてうろつくようになった。どうしたらいいんだ。僕は仕方がないから、食べさせてやったさ。だけど三匹で食べたんじゃ、すぐ蓄えはなくなっちゃう。仕様がないからバーバ・ヤガーのところへ行ってね、黍(きび)をわけてくれって、一プード(訳註 訳十六キログラム。)ばかりね。そして僕は一年間奴隷の身。この誇り高き熊さんがだ。
 ヴァシリーサ 奴隷って・・・じゃ、鎖は?
 熊 あんなもの切っちゃったさ。僕は力はめっぽう強いんだ。
 ヴァシリーサ それでまだずっと奴隷の身?
 熊 もうすぐで丸三年だ。それなのに放してくれない。「契約期間は過ぎたはず」と言いに行くとバーバ・ヤガーの奴、決まって僕の頭をこんがらがらせてしまう。変な計算をするんだ。そしてまた奴隷の身。可哀相な話!
 ヴァシリーサ 可哀相な熊さん!
 熊 僕のことよりおばさん、自分のことを心配しなきゃ。(ほえる。)ああ、おばさん、おばさん。あっという間にやられちゃうよ。僕は指一本触れないよ。だけど、バーバ・ヤガーが。
 ヴァシリーサ 泣かないで、熊さん。今、蜂蜜を御馳走するから。
 熊 いらない。こんなに悲しんでいる時に、何を貰ったって慰められはしないや・・・え? 蜂蜜って? 何の?
 ヴァシリーサ(袋から鍋を出す。)ほら見て!
 熊 菩提樹の蜂蜜か。頂戴、頂戴。全部頂戴。どうせおばさん死んじゃうんだ。同じじゃない。
 ヴァシリーサ 全部は駄目。息子達におみやげとして持って来たんだから。
 熊 で、何処にいるの、その子供達?
 ヴァシリーサ それが、何処に行ったのか。
 熊 行方不明? 可哀相に。何時? どうして? どうなって?
 ヴァシリーサ さあ食べて。食べながら聞いて。最初からきちんとお話ししましょう。私の夫は英雄ダニーラ。あなた、大蛇のガルィニッチ(訳註 ルにアクセントあり。)のこと、聞いたことある?
 熊 聞かなくってさ! 嫌な奴だよ。 面白半分に、僕のおじいさんに、通りがかりざま急に火を吹きかけたんだ。全くいやな奴なんだ。
 ヴァシリーサ そのガルィニッチの蛇を退治したのが、私の夫、英雄ダニーラよ。だけどその戦いで自分も死んだの。それからは私の家族は四人。私と三人の息子・・・フョードル、エゴールシュカ、それにイヴァーヌシュカ。フョードルが十三歳になった時だった。あの子、放牧していた山羊の群を囲いに入れるために出て行った。(そうしたら山羊達と諍(いさか)い。)・・・群を率いている雄山羊は強かった。野生の山羊と同じ。後足で立ち上がって、フェーヂャに襲いかかった。でもフェーヂャはその角を掴んで倒してしまった。そして家に帰って来て言った。「ほらほら、ママ、僕は英雄なんだ。」だって。「何を言ってるの、フェーヂャ。お前がどうして英雄なの。力もなければ技術もない。それに読み書きが出来もしない。敵はお前の年なんか考えちゃくれないよ。お前の弱みをついてくるだけさ。私が手伝ってやらなきゃお前、馬の蹄鉄も替えられない。別れ道に出て、石にそれぞれの道の行く先が書いてあっても、読めやしない。英雄だったら、馬を飛ばしながらいちいち下りたりしないで、馬上から読み取って正しい道を選ぶのよ。お前には出来やしないだろう? 間違うだけさ。だからまだ待つの! その時は必ず来ます。その時になったら私が自分で出してやるんだから。」あの子は黙っていた。そしてその夜出て行った。
 熊 え? どこへ?
 ヴァシリーサ 強きをくじき、弱きを助けるため。
 熊 立派なことじゃない。
 ヴァシリーサ そう。立派。これ以上ないくらい。でもある朝、旅人があの子の刀を持って来た。刀を背負う負い革が擦り切れて刀が落っこちたのね。それなのにあの英雄さん、気がつかなかった。それから三日後、あの子の乗っていた馬も帰って来た。馬の扱いも悪かった様子。毛の手入れはしてないし、水も浴びさせていない。かいばも充分与えていない。
 フョードル ああ、ママ。僕、敵はいないかと、それしか考えていなかったんだ。
 ヴァシリーサ それで息子は帰って来なかった。
 熊 ああ!
 ヴァシリーサ 三年たった。エゴールシュカが十三歳になった。牡牛があの子に襲いかかった。あの子は牛の鼻面を捕まえて、鎖に繋いでしまった。そして私のところにやって来た。「ママ、ほら見てご覧。僕は英雄なんだ。」そして夜中に家を逃げ出した。四十日たって、馬だけが帰って来た。鐙(あぶみ)はカラカラ鳴っていた。でも鞍には誰も乗ってない。馬は私をじっと見て、涙をポトリとこぼした。それからばったり倒れて死んでしまった。
 エゴールシュカ あの馬は、僕に何が起こったのか知っていたからなんだ。
 ヴァシリーサ どうしたらいいのだろう。私は捜しに行くことにした。家のことは全部、その年十(とお)になったばかりの、イヴァーヌシュカにまかせて。
 熊 で、もう捜し始めて相当たつの?
 ヴァシリーサ もうすぐ丸三年。
 熊 えっ? 三年も。それじゃ、たとえ会ったって、今じゃ顔が分からない。
 ヴァシリーサ それは必ず分かるの。何の意味もなく家から飛び出すような子供、そんな子が大きくなる筈がない。年をとる筈がない。二人とも今は、十三歳。
 フョードル 本当だ、ママ。
 エゴールシュカ そうだ、僕とフョードルは今、同(おな)い年なんだ。
 ヴァシリーサ 捜し捜ししているうちに、この鬱蒼とした森に着いたの。ねえ、熊さん。あなた、私の息子達の噂、聞いたことない?
 熊 訊かないで。黙って。でないとあのばったり倒れた馬みたいに、僕もばったり死ななきゃならない。悲しみのためにね。おばさん、可哀相だけど、僕は力になれないな。
 フョードル それは本当だ。
 エゴールシュカ 僕らが楓に変えられたのを見てはいないからな。
 ヴァシリーサ そう。じゃバーバ・ヤガーに直接訊くしかないわね。そこへ連れて行って頂戴!
 熊 今は家にいないよ。夜遅くならなきゃ帰って来ないって。
 ヴァシリーサ それで、家はどこ?
 熊 どこって・・・にわとりの足の上にある家だから・・・今日はここ、明日はあっち・・・にわとりはああですからね。こっちに行ってはひっかきまわし、あっちに行ってはひっかきまわし。
 ヴァシリーサ さあ、その小屋を捜しに行きましょう。うちの子がそこに隠されているかもしれない。
 熊 なんだ、捜すことはないや。あっちからやって来るよ。トー、トー、トー。
(騒音。コッコッコというにわとりの声。おんどりのときの声。森から小屋が出てくる。四つの角に二本づつ、にわとりの足が出ている。ヴァシリーサ、小屋に近づく。)
 ヴァシリーサ バーバ・ヤガーさん、あんた随分ふとっぱらね。怖くないの、こんな家に住んで。不用心ね。鍵もついてないのね。
 熊 ないです。あの足を信用しているんです。誰か来れば蹴っとばしますからね。
 ヴァシリーサ 蹴られたら、ふっ飛ばされるの?
(小屋に近づく。にわとりの足、しきりに蹴る。)
 ヴァシリーサ 親切に話しかけたらどうかしら。
 熊 やってみたら? 生まれてからこのかた、そんな風にされたことはない筈ですからね。
 ヴァシリーサ コッコッコー、にわとりさん。あなた方奇麗ね。庭が引き立つわ。目のたのしみよ。聞いて、にわとりさんの歌。私が作ったのよ。
   コケコッコー、にわとりさん。
   可愛い、奇麗なにわとりさん。
   誰でもあなたを見るものは、
   自然に心が慰むの。
   自然に見惚れてしまうのよ。

   あなた、本当の正体は、
   鷲ではないの、天かける。
   火の鳥じゃないの、情熱の。
   女王じゃないの、海のかなたの。
   鶏小屋はただ仮の住みかで。

   真ん丸い目
   強い羽根。
   庭を歩くその姿。
   まるで大海原を泳ぎ回って
   いるかのよう。

   脇に退きたまえ、諸君。
   にわとり様のお通りだ。
   とさかの冠も堂々の、
   われらの王、にわとり様だ。
(この歌を聞き、最初はにわとり達、ためらう。次に、踊り始める。歌を歌い終わってヴァシリーサ、小屋に近づく。足は大人しくなっている。)
 ヴァシリーサ そう。それでいいの!
(扉、さっと開く。扉のうしろ、肘かけ椅子に、バーバ・ヤガーが坐っている。)
 熊 バーバ・ヤガー! 意地悪! 悪党! 何でまたここに!
 バーバ・ヤガー 黙りなさい! でないと食べちゃうよ。召使いは主人を見たら喜ぶもんだ。主人に怒鳴るとはな。(地面に飛び降りる。小屋に向かって。)下がってよい!(小屋、退場。)
 バーバ・ヤガー よく来たな、ヴァシリーサ。待ってたよ。
 ヴァシリーサ 待ってた?
 バーバ・ヤガー 随分長いことね。待ってた甲斐があったよ、こうやって捕まえられたんだから。このバーバ・ヤガー様はお利口なんだ。頭が働くのさ。ずるいきつね、悪賢いハイエナなんだ。
 ヴァシリーサ そんな自分をお前さん気に入っているのかい?
 バーバ・ヤガー 当たり前でしょう。この自分が気に入ってなくってさ。この可愛い可愛い自分を。だから強いんだ。お前達みたいにどうせろくでもない奴等は、お互いに愛し合うんだ。だが私は自分で自分を愛する。自分のことは見ても見飽きないのさ。お前達にはいくらでも心配事がある。近所の人達だの、友達のことだの。私は自分の事だけだ。心配事などない。だから私はいつでも勝つ。(鏡を見る。)おお、おお、可愛い可愛いお前さん。何が欲しいんだい? お茶かい? お水かい? そうかい、お水かい。井戸からか? 沼からか? そうか、沼の方がいい。 そうだな。あれは沼の臭いがするからな。ヴァシリーサ、沼までひとっ走り行ってくれ。バケツに一杯水をくんで来るんだ。
 ヴァシリーサ あんたの召使いじゃないんだ、私は。
 バーバ・ヤガー 言うことをきくんだ、言うことを! 私は人を捕まえるのが上手だよ。一人が引っ掛かると後を追ってまた別のが引っ掛かる。前の奴を助けに来るからね。兄が弟を助けに、母親が息子を助けに、友達が友達を助けに。ところでお前さん、何をやらせてもうまいっていう話だね。
 ヴァシリーサ これで三人の息子を育てたからね。習えるものは何でも習った。
 バーバ・ヤガー そういう働き手が欲しかったんだ。子供を助けて、家に連れて帰りたかったら、私の言うことをきくんだ。そのうちお前の働きに私が感心して、褒めるかもしれない。いいかい、その私がお前を褒めた時、それが子供を連れて帰ってよい時だ。どこへなりと連れて帰っていいんだぞ。
 熊 こいつに雇われちゃ駄目だ。こいつが人を褒める? とんでもない。そんなことありっこない。自分しか褒めやしないんだ。
 バーバ・ヤガー 黙ってろ! お前に何が分かる。
 熊 何でも分かってるよーだ。
 バーバ・ヤガー 馬鹿! 私を見てうっとりするような奴でなきゃ、私が分かる訳がない。そうだろうが、ヴァシリーサ。な? いいか、今から仕事を言い付ける。それをやるんだ。やろうとするんだ。その働きに対して、私がただ一度でもいい。「よくやった。」と褒めれば、はっはっは、お前の子供達は自由の身だ。いい考えだろうが。な? ヴァシリーサ。
 ヴァシリーサ 仕事をして私はいつも危難を免れてきたのだ。やってやる! 痩せ我慢出来なくなって多分褒めてくれるさ。だけど、子供はここにいるのか。ちょっとだけでもいい。顔を見せて欲しい。私を騙してはいないと示してくれ。
 バーバ・ヤガー 見せることは出来ぬ。なにしろ閉じ込め方が見事でね。うん、声だけは聞かせてやろう。私の命令だ。私の許可だ。子供達、母親と話していいぞ。(風を起こすようにフーッフーッと息をはく。)
(二本の楓、サラサラと音を立てる。)
 フョードル ママ、ママ、僕達を置いて行かないで。
 エゴールシュカ 僕達身体は大きくても、小さい子みたいに苦しい目にあっている。
 ヴァシリーサ ああ、フョードル、エゴールシュカ。何処なの。
 バーバ・ヤガー 黙れ。答えてはならん。もう口はきいた。それで充分だ。
(サラサラいう音止る。楓、黙る。)
 バーバ・ヤガー どうだ、ヴァシリーサ。留まるか。
 ヴァシリーサ 留まる。
 バーバ・ヤガー そうか、そいつはこっちに好都合。じゃ、さらばだ、女中。私は忙しくてな。じっと家に坐って女中などと話している暇はない。どこでも私を待っている。あっちでは盗み、こっちでは殺し、そっちでは無実の人間を迫害。こういう仕事はどうしたって私が一枚加わらなくっちゃね。じゃ、さらば!
 ヴァシリーサ さようなら、バーバ・ヤガー。
(バーバ・ヤガー、騒音、口笛の音とともに消える。と、すぐまた地の底からか、どこからか、再び現われる。)
 バーバ・ヤガー いいか、私のいない間に家を片付けておくんだ。見てさっぱりした気分になるようにだぞ。
 ヴァシリーサ 分かりました、バーバ・ヤガー。片付けておきます。
 バーバ・ヤガー さらばだ、ヴァシリーサ。(騒音、口笛とともに消える。と、すぐまた現われる。)仕事の出し方が少なかったな。あんなもんじゃ怠け癖がつく。この辺り三百箇所に、三百年前、三百の宝を埋めておいた。だけど埋めた場所がもう分からない。そいつを全部捜すんだ。ちゃんと数えて、びた一文違わないように私に見せるんだ。いいか。さらばだ。
 ヴァシリーサ さようなら、バーバ・ヤガー。
(バーバ・ヤガー、消える。と、すぐまた帰って来る。)
 バーバ・ヤガー 仕事が少し少なかったな。あれじゃ身体がなまくらになってしまう。倉にライ麦三百プード、小麦三百プード、入れておいたのが、ねずみに袋を食い破られて、ライ麦、小麦、ごちゃごちゃだ。お前はそれを選り分けて、小麦で粉を作るのだ。だからこの次私が家に帰って来る頃にゃ、金はいっぱい、食糧はいっぱい。そうなりゃ私だってお前のことを褒めないこともあるまいよ。では、さらばだ。
 ヴァシリーサ さようなら、バーバ・ヤガー。それでお帰りは何時?
 バーバ・ヤガー 明日の夕方だ。はっはっは。
 熊 明日の夕方までにあんな大仕事を! この人に出来ると思ってるんですか。あんたには良心なんかないんだ。
 バーバ・ヤガー そう。良心はないね、昔も今も。はっはっは。
(騒音、口笛の音。炎と煙とともに消える。)
 熊 飛んで行った・・・あそこの木の天辺を曲がって。何をしましょう。一緒に泣きましょうか?
 ヴァシリーサ 猫と犬をあなた、家に住まわせていたわね。きっと手を貸してくれるわ。行きましょう。
 熊 あ、わざわざ行かなくても、あっちから来た。(呼ぶ。)おーい、シャーリク、(訳註 これが犬の名。)こっちへ来い。用事がある。走って来るんだ。シャーリク! カタフェーイさん、あんたもこっちだ。猫の奴には丁寧な言葉を使って下さいね。あいつはへそまがりだから気を付けないと。ミャーミャーと呼びかけても、知らんふりをすることがあるんです。
 ヴァシリーサ それはこわいわね。
 熊 シャーリク、何処だ。カタフェーイさん、こっちへどうぞー。
(シャーリク、走って登場。初老。しかしまだ矍鑠(かくしゃく)としていて、強そうな犬。毛はあざみのいがだらけ。野原を疾走して来る。)
 シャーリク 誰だ、木をサラサラ言わせている奴は。この土地じゃあ、木をサラサラ言わせたりはさせんぞ。おい、そこのシジュウカラ! あの熊さんをじろじろ眺めたりしちゃいかん。あの熊さんは俺の主人なんだぞ。それから、あの切り株に坐っている奴は誰だ。よそものは許さん、よそものは!
 熊 こっちへ来い、シャーリク。用事がある。
 シャーリク 駄目だ、ご主人殿、ちゃんとこの辺りを統括してからでなきゃ。これが私の決まりなんだ。ガウー、ガウー、ガウー。さてと、これでおわり。お早うごさる、ご主人殿。ご壮健にてあれせられ、恐悦至極に存じ候。ルルルルル。で、これは誰? ルルルルル。
 熊 素敵なおばさん、ヴァシリーサ。
 シャーリク ルルルルルー。ご免なさい、素敵なおばさん、唸ったりして。でもこれしかないの、出だしは。これが私の決まりなんだ。ルルルルルー。これでよしと。お早うございます、ヴァシリーサ。
 ヴァシリーサ お早う、シャーリク。
 熊 今からこのおばさんが用事を言い付ける。それをやるんだ。
 シャーリク 合点だ、ご主人殿。
 ヴァシリーサ 三百の場所に三百個、バーバ・ヤガーが宝を埋めたって。それを全部捜せば私に息子を返してくれる。私を助けて、犬さん。あなたの嗅覚が私達より鋭いんだから。
 シャーリク こいつはいいぞ、宝捜しか。鼻を使った狩猟だな。さあ、地面に鼻を向けて、森中を捜すんだ。ガウー、ガウー。
 ヴァシリーサ 待って、待って。宝捜しは夜にするの。昼は見張りをお願いするわ。バーバ・ヤガーが帰って来て、仕事の邪魔をすると困るから。
 シャーリク それも名案。
 ヴァシリーサ で、カタフェーイさんは?
 声 ほら、さっきからこの樫の木の後ろに立っている。
 ヴァシリーサ どうしたの。何故こっちに来ないの。
 声 賢い猫は、どこに入る時にでも、必ず辺りを三度見る。
(木の後ろからゆっくりと、大きなふさふさした毛の猫が現われる。)
 ヴァシリーサ あらまあ、あなた、シベリアの猫じゃない?
 カタフェーイ そういう噂もあるんだけど・・・
 ヴァシリーサ 猫のバユーン・・・あの大きな猫、お話の上手な猫・・・あの猫、あなたの親戚じゃない?
 カタフェーイ だったらどうかした?
 ヴァシリーサ 何でもないわ。ただ聞いただけ。
 カタフェーイ あれはひいおじいさん。
 ヴァシリーサ じゃあなた、きっと名人ね。ねずみを取るのも、お話をするのも。
 カタフェーイ だったらどうかした?
 ヴァシリーサ 何でもないわ。ただ聞いただけ。
 カタフェーイ 名人さ。
 ヴァシリーサ じゃあなた、やってくれないかしら、森中のねずみを、あの納屋に追い込むこと。
 カタフェーイ 出来ないよ、そんなこと。
 熊 カタフェーイ! 人間様の言うことが聞けないって言うのか。
 カタフェーイ お利口な猫は三度目にしか承諾しない。それが決まりなんだ。ねずみを納屋に追い込むなんて、するもんか。エー、分かりました。やりましょう。
 ヴァシリーサ 納屋に追い込んだら、ライ麦と小麦を選り分けるよう言い付けて。分かったね?
 カタフェーイ 言い付ける? いやです、いやです。エー、分かりました。やりましょう。
 ヴァシリーサ ねずみ達が選り分けている間、あなたは面白いお話を話して聞かせるの。おかしがって笑うように。そうすれば麦は食べられないからね。
 カタフェーイ ねずみ達に話を聞かせる? そいつは駄目だ、そんなこと誰がするもんか。うん、分かった。ええ、やりましょう。
 ヴァシリーサ 今のは夜にやること。昼の間はね、カタフェーイ、バーバ・ヤガーがあたりをうろついてはいないか、聞き耳を立てていて頂戴。
 カタフェーイ これは聞く。(三度目じゃなくったって。だって、)猫というものは普段から聞き耳を立てているものですからね。
 ヴァシリーサ 犬さんと猫さんにここはおまかせして、私と熊さんは、森へ行って風車を見てきます。小麦を粉にひけるように。トーットットット、トーットットット。
(とり足の小屋、登場。)
 ヴァシリーサ さあ、乗って、熊さん。
(二人、並んで小屋に坐る。)
 ヴァシリーサ よし、出発!
(ギャロップで小屋、二人を連れ去る。)
 シャーリク ガウー、ガウー! 僕も乗せて行って!
 カタフェーイ ここで待つんだ!
 シャーリク ご主人様が僕を連れて行ってくれないと、僕、いやなんだよー! 生きるのもいやになってくるんだよー!
 カタフェーイ ここで待つんだ!
 シャーリク 僕に怒鳴るんじゃない! お前、人間じゃないじゃないか。
 カタフェーイ いいか、私はご主人様の代わりなんだ。
 シャーリク 僕もだ。僕もだ。
 カタフェーイ 仕事をほうり出して逃げ出す。フン、ご立派なご主人様だ。
 シャーリク 逃げ出したんじゃない。ちゃんとここに残ったじゃないか。分かったから、もうそんな怒った顔をして僕を見ないでくれよ。 友達が怒って僕を見ると、がっくりくるんだよ! カタフェーイさん、熊さん、握手しようよ。
 カタフェーイ ちょっと君、離れて。何か臭うな。犬の臭いだ、これは。
 シャーリク そうか。じゃ、今日は雨だな。
 カタフェーイ 何が雨だ。ちゃんと身体を舐めて、奇麗にしとくんだ!
 シャーリク 君達は一日に百回も身体を舐めるけど、僕らにはそういう習慣がないんだ。僕は・・・
 カタフェーイ しっ。誰か来る。
 シャーリク どっちから?
 カタフェーイ 森の方からだ。
 シャーリク(鼻をくんくん言わせる。)人間だな。えらい勢いだ。恐ろしそうな音だな。
 カタフェーイ 何か叫んでる。ドスン、ドスン。足音だ。
 シャーリク 噛みついてやらなきゃいかんな。
 カタフェーイ どんな怪物だろう。まづ観察だ。この茂みに隠れよう。
(隠れる。陽気な声が力いっぱいに歌う。
   「僕はイワン・・・
    泣き事言わん。」
野原に、十三歳ぐらいの、それほど背の高くない男の子、登場。そのまま歌い続ける。)
 子供  
   僕はイワン
   泣き事言わん!
   僕はママを捜してる。
   その途中なんだ。
   だから誰にも触らない。
   暴れたりもしないんだ。
   口笛も吹いたりしないのさ。
   ママを捜して一直線。
   ママは僕にさよならを言って
   そのまま帰ってこないんだ。
   ほんとにどこかへ行っちゃった。
   前人未踏の草原へ
   僕はイワン、偉いんだ
   僕はイワン、強いんだ。
 エゴールシュカ(半分囁き声で。)イワン、早く逃げるんだ。でないと木にされちゃうぞ。
 フョードル(半分囁き声で。)あいつには聞こえないさ。風が弱すぎだよ。それに、聞こえたって、分かりゃしないんだ。
 イヴァーヌシュカ 薮の中で、何か言ってるのは誰だ。出て来い!
 シャーリク(薮の中から。)ルルルー
 イヴァーヌシュカ(喜んで。)あ、犬だぞ。嬉しいな。ワン、ワン。こっちへ来い。何ていうんだ、名前は?
 シャーリク ルルルー。シャーリク。
 イヴァーヌシュカ 姿を見せてくれよ、怖がらないで。僕は嬉しいんだ、たとえ君がこの僕を信用してくれなくてもね。まるまる一箇月、ただ歩くだけで、狼以外は出会ったものがいないのさ。狼とじゃ話は出来ないからね。狼はこちらに気がつくと、こそこそ逃げちゃう。
 カタフェーイ 冬だったら、狼だって話してくれるさ。
 イヴァーヌシュカ 冬まで待てっていうのかい、猫君。姿を見せてくれよ。あ、薮の中からでも目が光っているのが見えるぞ。これは嬉しいや。シャーリク、シャーリク。出てこいよ。
 シャーリク(薮から出て来る。)ああ、イワン、イヴァーヌシュカ。どうして君、ママのことを(許しも得ずに)勝手に追っかけ回しているんだい。殴られちゃうぞ。
 イヴァーヌシュカ 殴られるって? 何の話だい。英雄は殴られたりしないだろ。僕は今武者修業中の剣豪なんだ。
 カタフェーイ 誰だい、そんな事、言ったのは。
 イヴァーヌシュカ 僕が自分で。だって、そうらしいんだから。
 カタフェーイ もっと身体が大きくなきゃいけないんじゃないか、英雄ってのは。
 イヴァーヌシュカ 身体じゃないよ。勇気が問題なのさ。僕は今まで生きて、いろいろ見てきた。そして突然分かったんだ。自分を怖れない人間、そんな奴は怖れるに足りないってね。そこが分かるということは、僕は英雄だっていうことなんだ。
(カタフェーイ、薮から出て来る。)
 イヴァーヌシュカ あ、君、猫君。君、奇麗だねえ。
 シャーリク で、僕は? ねえ、僕は?
 イヴァーヌシュカ(猫に。)ちょっと撫でさせてくれないか。
 シャーリク ね、僕も。僕も。
 イヴァーヌシュカ そりゃ勿論君もだ。奇麗な猫君。利口な犬君! 君達、僕のママを知らないかい? ママはね、ヴァシリーサっていうんだ。あれ、咽を鳴らすのを止めたね。どうしたんだい、猫君。
 カタフェーイ 私はね、名前はカタフェーイ・・・さん。
 イヴァーヌシュカ どうしたんだい、カタフェーイさん。どうしてそんな顔をして僕を見るんだ。
 カタフェーイ 言ったものだろうか、言わないもんだろうか・・・と。
 イヴァーヌシュカ 話して、話してよ。頼むよ。ママがいなくてどんなに淋しいか、君達にも分かるだろう?
 シャーリク 話すしかないな、どうやら。
 カタフェーイ ここにいるんだ。君のママは。
 イヴァーヌシュカ こりゃ大変!(さっと薮に隠れる。)
 カタフェーイ たいした英雄だ! ママと聞いて隠れちゃうとはね。
 シャーリク ママがいなくて淋しかったと言っていたくせにね。
 イヴァーヌシュカ(薮から覗きながら。)勿論淋しかったさ。だけど、「家にいなさい」ってママに言われてたのに出て来たんだ。僕のことを見たらきっと悲しむよ。駄目、駄目。僕は姿を見せない。
 カタフェーイ じゃ、どうして出て来たりしたんだい。
 イヴァーヌシュカ 隅っこからでもいい。ママを一目見たくて。ママの声をちょっとでも聞きたくて。近くに隠れていて、だんだんと勇ましいことをやってのける。ママを助けるんだ。そうか。ママはここにいる。僕のことはみんな許してくれる筈。ママは今どこに?
 シャーリク 僕らの大事な大事な親分、熊のミハーイロ様と一緒に、風車を見に行ってる。何だか予感がするな、もうすぐ帰って来るんじゃないか。
 イヴァーヌシュカ 風車? ママに何の用があるのかな。
 カタフェーイ バーバ・ヤガーがママに無理難題を出したんだ。それを期限内に全部やってのければ、二人の子供は返してやろうってね。フョードルとエゴールシュカを。
 イヴァーヌシュカ えっ? 兄さん達、いるのか、ここに? それはすごいや。
 カタフェーイ 喜ぶのはまだ早い。いるって言っても、うまく隠されちゃってる。僕が耳をすましても聞こえないし、シャーリクがくんくんにおってもにおわないようにね。
 イヴァーヌシュカ 捜せばいい!
 シャーリク それは捜せばいいさ。でもすぐには駄目。でもとにかくいったんはママに会って、ママの気持を慰めなくっちゃ。
 カタフェーイ ママのお守りなしだと、弱虫になっちゃうのかな?
 イヴァーヌシュカ 何を言ってるんだい。僕は英雄なんだぜ!
 シャーリク それは分かってますよ・・・でも・・・
 イヴァーヌシュカ いやいや、君達。ママにはそうでなくても沢山心配事があるんだ。それに態々僕が来たっていうことをつけ加えることはないさ。分かったね。話しちゃ駄目だよ。言うことをきくんだよ。
 シャーリク そうだな。言うことをきかなくちゃならないか。君は小さいけど、やっぱり人間なんだからね。
(轟音が聞こえる。)
 カタフェーイ あ、風車を修繕するために、材木を切り出しに行ったんだ。野原の所で積み上げているんだ、あれは。
 イヴァーヌシュカ 隠れよう! (隠れる。)
(ヴァシリーサと熊、登場。)
 熊 おお、猫君と犬君。これは本物の仕事だぞ。鎖で繋がれて、ただ通行人に吠えるなんて、そんな仕事じゃない。名誉ある、楽しい仕事なんだ。ほら、来て見てご覧。すごい材木だろう?
 ヴァシリーサ そんな時間はないの! 熊さん、あなた、あの道路が三股になっているあそこまで、ひとっ走り行って来て。あの鍛冶屋のクジマーのところまで。あの人のこと、知ってるわね?
 熊 誰でも知ってるさ、あの人なら。どんな英雄でもあの人の世話になっている。馬の蹄鉄は替えて貰うし、兜や鎧の修理はして貰うし。
 ヴァシリーサ あの人のところへ行って来て、釘を一プードぐらい、鋸二丁、鉋(かんな)四丁、金槌四丁、借りて来て頂戴。何に使うのか説明するのよ。すぐ貸してくれる筈よ。
 熊 合点承知。(走って退場。)
 ヴァシリーサ 少し私、横になろう。今夜は徹夜で働かなきゃいけないんだから。
 カタフェーイ ゆっくり寝て。僕らが見張ってるから。(茂みに隠れる。)
 ヴァシリーサ 楓がさらさら鳴っている。なんて優しい音。心が静まってくる。自然に目が閉じてくるわ。(目を閉じる。)
(次第に暗くなる。ずっと遠くから見張りが点呼をとるように、次の声が聞こえる。)
 シャーリク ガウー、ガウー。聞くんだぞー。
 カタフェーイ ミャウー、ミャウー、見るんだぞー。
(茂みからイヴァーヌシュカ、出て来る。静かに静かに歌う。二本の楓、それに声をあわせて歌う。)
 イヴァーヌシュカ
   ゆっくり眠って
   お母さん
   昔ママは僕達に
   子守歌
   歌って寝かせて
   くれたね
 フェーヂャとエゴールシュカ
   僕達は今三人で
   その同じ歌を歌うんだ
 三人
   ゆっくり眠って
   お母さん
   ママは僕達の
   あとを追って
   夜も寝ないで
   歩いたんだ
   僕らの為に急ぎに急ぎ
   僕らの為に足は棒に
   両手は疲れ
   心も挫けそう
   ママ、僕らの為に
   力を取り戻して
   元気をつけて。
   ゆっくり眠って
   起きないで
   おやすみなさい
   お母さん
                    (幕)

     第 二 幕
(第一幕と同じ舞台。但し野原は見違えるほど変わっている。道路が作られ、砂が蒔かれている。風車が立ち、軽快に羽根が回っている。風車の傍に木造の家。その軒下に小麦粉と麦の袋。その隣にもう一つ木造の家。その軒下に金の入っている袋。カタフェーイが麦の袋の傍でウロウロしている。)
 カタフェーイ 頑張れ、頑張れ、ねずみ君達。あとたった半袋だ。これをより分けておしまいだぞ。
 小さな声 やってます。やってます。より分けてますよ。ただね猫さん、お話をお願い。でないと歯がむずむずしちゃって。袋まで齧(かじ)ってしまう。
 カタフェーイ そうか、じゃ聞いてくれ、ねずみ君達、猫に一番の友達、ねずみ君達。
(小さな笑い声。)
 カタフェーイ 昔昔、三匹のねずみがいました。一匹目は赤、二匹目は白、三匹目はぶち。(小さな細い笑い声。)三匹はとてもとても団結していて、猫も怖がったくらいでした。(笑い声。)ある時猫が白ねずみを待ち伏せしていた。そしたら赤ねずみが猫の足に、ぶちねずみが猫の髭に、攻撃さ。
(笑い。)
 カタフェーイ 猫はぶちねずみを追っかける。すると今度は白ねずみが尻尾に、赤ねずみが耳に、攻撃だ。
(笑い。)
 カタフェーイ どうしたらいいだろう。猫は考えた。そして、兄弟二人を呼んだんだ。二人、呼んだんだ・・・ええ? どうして笑わないんだい?
 小さな声 笑うどころじゃないでしょう。
 カタフェーイ けしからん。笑うんだ。笑わないと、ひどいぞ。
(ねずみ、いやいや無理に笑う。)
 カタフェーイ 猫は二人の兄弟を呼んで言った。いいか、兄弟、ねずみのやつが僕を馬鹿にしたんだ。助けてくれ。僕は赤毛だ。だから赤いねずみを捕まえる。お前は白い。だから白のねずみ、それからお前はぶち。だからぶちを頼む。さあ、こうやって僕達は侮辱したやつらに仕返しをするんだ。ほら、笑え!
(無理に出た笑い。)
 カタフェーイ この相談を三匹の仲良しのねずみが聞いていて、悲しんだ。どうしたらいいだろう。どうなるんだろう。そして考えついた。三匹一緒に暖炉に入って、灰の中を転がった。出て来た時は三匹の、灰色のねずみ。
(ねずみ、嬉しそうに笑う。)
 カタフェーイ 三匹のねずみは三匹の猫の目の前におどり出た。三匹の猫はぽかんと口を開けて、びっくり。さあ、どれを捕まえたらいいか、分からない。
(大笑い。)
 カタフェーイ それからだ。ねずみがみんな灰色になったのは。
(大笑い。)
 カタフェーイ それからだ。猫が無差別にねずみを取るようになったのは。
(笑い、出てこず。)
 カタフェーイ 笑うんだ!
 小さな声 でも、ご主人様、仕事はこれで終です。もう私達を放して下さい。家では子供達が、親がいないと淋しがっています。
 カタフェーイ なんだ、そうか。じゃちょっと見せろ。怖がることはない。お前達に触りはしない。キーキー言うんじゃない。(袋に近づく。)うん、なかなかよく出来ているな。立派なもんだ。よし、行っていいぞ。向こう一年間、君達には指一本触れないからな。
 小さい声 有難うございます。ご主人様。カタフェーイ様。
 カタフェーイ さあ、行け!
 小さい声 さようなら、カタフェーイ様、さようなら。はっはっは、ぶちは尻尾に飛び掛かり、赤は足にか、はっはっは。白は耳に飛び掛かり、ぶちは今度は鼻に・・・はっはっは!
(遠くになり、声、消える。)
 カタフェーイ フー。お話が全部で三百三十三・・・疲れた。
(木の下に坐る。入念に毛づくろいをする。熊、登場。全身粉だらけ。粉屋のよう。後ろにシャーリク。)
 熊 おい、あれで終なのか、袋は?
(カタフェーイ、答えない。)
 シャーリク あいつに聞いても今は駄目だ。毛づくろいをしている時には、何も聞こえないんだから。(袋の方に駆け寄る。)出来てる。持って行こう。(熊の背に、二つの袋をのせるのを手伝う。)
 熊 太陽はまだあんなに高い。それなのに仕事は終だ。すごいぞ!
(熊、走って退場。シャーリク、その後から走って行く。途中から戻って来て、猫の方へ行く。猫のところへ着く前にまた向きを変え、風車の方へ。最後に困った様子で立ち止る。)
 シャーリク 風車に行こうよ。
 カタフェーイ 行かない。
 シャーリク どうしてそうなんだ、君は。いやな奴!(僕は困ってるんだぞ。)風車で一人坐っている。すると君のことが心配になる。こっちに走って来る。すると熊さんのことが心配になる。少しは僕のこの心を思んぱかってくれよ。 安心させて欲しいよ。一緒に行ってくれないか。三匹一緒にいるんだ。そうすれば、僕は番犬がつとまるんだ。
 カタフェーイ 無理だ、それは。
 シャーリク どうして無理なんだ。
 カタフェーイ 僕はここに坐って、ただ毛を舐めているように見えるだろう? だけど耳には神経が集中しているんだ。で、ずっと何か聞こえてるんだな。
 シャーリク ワン、ワン。じゃバーバ・ヤガー?
 カタフェーイ まだはっきりしないんだ。でもとにかく、忍び足で誰かが近づいて来ているな。
 シャーリク ワン、ワン。大丈夫かな。
 カタフェーイ 静かに! 邪魔しないで。風車に行っててくれ。何かあれば、呼ぶよ。
 シャーリク ウーウーウー。傍に寄って来てみろ。足をがぶっとやってやる! 痩せ足だって構いはしない。僕は骨なんか平ちゃらなんだ!
(退場。)
(猫、毛のつくろいをやめる。足を一本立てて身体を緊張させる。耳をすませる。かん木が揺すられて、さらさら言う。猫、木の後ろに隠れる。かん木からイヴァーヌシュカ、観客に背を向けて後ずさりしながら登場。食事の用意がされたテーブルを引っ張っている。)
 カタフェーイ 何だ、イヴァーヌシュカ、君か!
 イヴァーヌシュカ そうだ、吾輩さ。英雄イヴァーヌシュカ様さ。
 カタフェーイ 何を引っ張って来たんだい?
 イヴァーヌシュカ 魚を釣って、きのこをたくさんとって、竃(かまど)を築いて、食事を用意したのさ。
 カタフェーイ それはお手柄。褒めてつかわす。
 イヴァーヌシュカ まだ褒めるのは早すぎるよ。一晩中みんなは働いて、お腹がすいてるに決まってる。帰ってみたら食事の用意が出来ている、となったら大喜びだろうと思ってね。
 カタフェーイ ママは見破らないかな。これが君の仕事だって。
 イヴァーヌシュカ 見破られっこないって。ママが出て行った時、僕はボルシチ一つ作れなかったんだから。今じゃ僕に出来ない料理なんかないんだよ。
 カタフェーイ そうか。じゃ、見せて、どんな料理を作ったんだい。
 イヴァーヌシュカ ほら、見て。
(イヴァーヌシュカ、猫に向きを変える。猫、イヴァーヌシュカを一目見て、二メートルも後ろに飛び退く。無理もない。髪は逆立ち、顔は煤と泥で汚れている。子供ではなく、まるで怪物。)
 イヴァーヌシュカ どうしたの?
 カタフェーイ 自分の姿、見てみた?
 イヴァーヌシュカ いや。
 カタフェーイ 頭の天辺から足の先まで真黒なんだよ。舐めて奇麗にしなくちゃ。
 イヴァーヌシュカ 汚れるのは当たり前だ。竃が煙ってね。薪が全然燃えようとしないんだ。火吹き竹で吹いて吹いて・・・ほっぺたがはじけそうだった。
 カタフェーイ(テーブルについて。)君、魚はどうやって取ったの? 掴み?
 イヴァーヌシュカ 掴む? 冗談じゃないよ。釣ったのさ。英雄はね、決してポケットを空にして外へ出たりはしないんだ。ほら、見てご覧、このポケットにないものはないんだ。釣糸、釣針、これは呼びこ。ほら、胡桃(くるみ)、火打ち石二つに、パチンコ。
 カタフェーイ しまって、それは。パチンコは見ていられない。しょっちゅう猫を狙って、バシン、バシン。
 イヴァーヌシュカ 誰がそんなことを? 子供だよ、そんなことをするのは。僕は英雄なんだよ。
 カタフェーイ それはそうだけど・・・
 イヴァーヌシュカ 怖がることはないよ。僕は子供の時だってそんなことしたことないんだ。そうだ、この料理のことだけど、僕が作ったんだってママに言い付けちゃいやだよ。
 カタフェーイ じゃ、どう言おう?
 イヴァーヌシュカ 何でもいいよ。適当に話を作って。君のおはこじゃないか。
 カタフェーイ うん。そりゃそうだな。考えよう。君はもう川へ行った方がいいよ。身体を洗うんだ。
 イヴァーヌシュカ それは後だ。後にする。ママが料理をおいしそうに食べるのをこっそり見たいんだ。
 カタフェーイ じゃあ、隠れよう。臼の音がしなくなったぞ。麦をひくのが終わったんだ。すぐやって来るぞ。
 イヴァーヌシュカ 隠れよう!(隠れる。)
(すぐに熊、登場。袋を担(かつ)いでいる。後ろにシャーリク。嬉しそうに跳びはねている。)
 熊 やったぞ。すごい捗(はかど)り方だ。あとはあの小屋を片付けるだけ。それに夕方までにはまだたっぷり時間がある。嬉しいな。足がひとりでに動き出す。足がひとりでに踊り出す。抑えられないや。(踊る。そして歌う。)
   おいおい、僕のあんよ君、
   ずいぶん不格好な形じゃないか。
   だけどよく、この僕を運んでくれるな。
   軽々と。まるで雀を運んでいるように。

   僕はどうして飛べないんだ。
   何を言ってる、飛べるのさ。飛ばないだけよ。
   そんなに慌てて飛ぶんじゃなくて、悠々と、
   泳ぐように進むのさ。孔雀のように。

   おーい、君達、花さん達。
   可愛い奇麗な花さん達。
   僕は飛んで行くよ、君達の上を。
   風のように。

   僕は飛んで行く、綿毛のように。
   空よりも、もう一寸高い所を。
   飛んで行く。ああ、そうだといいのに。
   この不格好なあんよ君。
(跳躍を行う。テーブルにぶち当たりそうになる。)
 熊 おや、何だこれは。奇跡なのか。
 シャーリク ナイフにフォーク。
 熊 きのこがあるぞ。それに魚が焼いてある。どうして焼いたりするんだ。時間の無駄じゃないか。生のままでうまいのに。おばさーん。おばさーん。来てー。奇跡が起こってるよー。
(ヴァシリーサ、登場。)
 熊 おばさん、ほら。テーブルに、ナイフとフォーク。それに料理!
(ヴァシリーサ、テーブルに近づく。)
 ヴァシリーサ 本当! 奇跡ね。それもぴったりのタイミング。カタフェーイさん! 誰なの、私達のことをこんなに心配してくれたのは。どうして黙ってるの? あなた見張りをしていたんでしょう? 知ってる筈よ。まさか、うたたね?
 カタフェーイ まあ、おばさん。まづテーブルについて。遠慮なく食べて。ちゃんと見てましたよ。用意してくれた人は。まだその人は遠くには行っていません。僕達が喜んでいるのをきっと眺めていますよ。
 シャーリク じゃ、あのイヴァ・・・
(カタフェーイ、こっそりシャーリクの足を踏んづける。イ ヴァーヌシュカ、かん木の中で、頭を抱える。)
 ヴァシリーサ(シャーリクに。)今何て言った? イヴァ?
 シャーリク えー・・・
 カタフェーイ そう。それが名前。イヴァムール・ムルムラーエヴィッチですよ。あの優しい、優しい、魔法使いの。
 ヴァシリーサ ムルムラーエヴィッチ? 聞いたことがないわ。
 熊(料理をほお張りながら。)おばさん、早く食べた、食べた。早く食べないと、みんななくなっちゃうよ。どんどん食べてくださいよ。おおい、君達も食べろよ。
 シャーリク テーブルから?
 熊 食べろよ。訊くことはないよ。
 シャーリク 殴られない?
 熊 今日は特別。(テーブルからを許す。)殴ったりしない。
 ヴァシリーサ(テーブルについて。)イヴァムール・ムルムラーエヴィッチねえ。魔法使いの・・・聞いたことがないわ。そんな名前初めてだわ。
 カタフェーイ ムール・ムールですよ、おばさん。年とった魔法使いもいますがね、よく知られた・・・でも若い奴だっているんですからね。このイヴァムール・ムルムラーエヴィッチってのは、まだほんの小猫で・・・
 ヴァシリーサ で、どんな格好をしてるの? その子。
 カタフェーイ 恐ろしい顔。片方のほっぺたが黒、もう片方が白。鼻は汚れたねずみ色。足にはポツポツと斑点。こいつは歩けないんです。
 熊 歩けない?
 カタフェーイ 歩けない。ただ走って、跳びはねるだけ。そしてその強さ、百年も立っていた頑丈な塀、それをちょんちょんとつつく、するとぐしゃっと・・・
 熊 爪は?
 カタフェーイ ある。それも取り外しがきく爪なんだ。普段はポケットの中。その爪で魚を釣るんだ。
 熊 空を飛ぶ?
 カタフェーイ 時々ね。パーッと走って、ちょこんとかがんで、パッと飛び上がる。陽気で勇敢で・・・ただ、身体を洗うのを嫌がるんだ。その代わりに泳ぐのが好きでね。唇が青くなっても水から出てきやしない。それから、人を好きになるとね、とことん好きになるタイプ。おばさんの仕事ぶりをよく見てましたね。その見てた目つきを見て欲しかったな。おばさんが言う言葉をね、いちいち繰り返して呟くんだ。いや、気のいい魔法使いですよ。
 ヴァシリーサ 魔法使いが作った料理にしては作り方が下手ね、これ。魚だって焼き過ぎのところも、半生(はんなま)のところもあるし・・・
 カタフェーイ まだ子猫ですからね。
 ヴァシリーサ (テーブルから立ち上がって。)ねえ、イヴァムール・ムルムラーエヴィッチ、私の声、聞こえるかい? ご馳走、有難うよ、イヴァムール。それからね、これも言っておこう。あんたがまだ子猫ちゃんならね、自分のママから遠く離れたりしちゃいけないよ。何か困った事が起こったら、すぐママを呼ぶんだ。すぐママは来てくれるからね。フェージャ、エゴールシュカ。お前達も聞こえるね?
 フョードル 聞こえるよ、ママ。
 エゴールシュカ 僕達黙ってたのはね、風が吹くのを邪魔したくなかったんだ。
 フョードル 風に風車の羽根を元気よく回して貰いたかったんだ。
 ヴァシリーサ フェージャ、エゴールシュカ! ああ、私、今日は目を覚ますとすぐ仕事にかからなくちゃならなかった。二人と話をする暇がなかったわ。寝過ごしてしまった。すぐ仕事に取りかからなくちゃ。年がら年中こまねずみのように走り回る。これがママの運命ね。憤慨しないで。お前達に小言を言ったかも知れない。でもそれは疲れていた為。怒らないでね。勿論一緒に遊んでやりたい。冗談を言ったり、歌を歌ってやったりしたいの。でも何時だってだめ。持って生まれた星なのね。そう。今は一生懸命働いて、お前達の自由を勝ち取るの。そして手を取り合って家に帰るの。そして今度家に帰ったら心ゆくまで話しましょう。お前達のこと、必ず救ってやるからね。安心して! 心配することないからね!
 エゴールシュカ ママ、ママ!
 フョードル 僕達、ママに憤慨しただろうか。
 エゴールシュカ 憤慨だなんて。大好きなんだ。
 ヴァシリーサ さてと。準備万端整った。残っているのは、鶏小屋の掃除だけ。これはすぐ終わる筈。カタフェーイさん! シャーリク! さあ、川の方へ行きましょう。そこへ小屋を追い込むの。
 熊 僕は?
 ヴァシリーサ 貴方はここで見張り。眠っちゃ駄目よ。
 熊 眠る? 僕が? まさか。今はもう冬じゃないんですよ。
 ヴァシリーサ 石鹸にたわしを持って。それに大、小のブラシと帚(ほうき)・・・さあ、出発!
(ヴァシリーサ、シャーリク、カタフェーイ、退場。熊、残る。)
 熊 眠るだって? この僕が? モルモットだよ、眠りの名人は。アホな奴。それからふくろう。あいつは昼に眠るんだ。熊はね、(あくび)眠りはしない。確かに一晩中働いたさ。うん。(あくび)働いたな。その後、食った。ああ、よく食ったなあ。少し横になりたい気分だ。歌でも歌うか。(鼻歌を歌う。)
   眠るんだ、熊君。
   不格好な足の、
   毛深い、素敵な熊君・・・
あ、この歌じゃまずい。妙な気分だなあ。ママの傍で、洞穴の中で、気持よく・・・ママと・・・えーと・・・むにゃむにゃ・・・(居眠り。)
(イヴァーヌシュカ、走って登場。)
 イヴァーヌシュカ そうだ、言わないこっちゃない。ちゃんと予感がしたんだ。ママの傍にこっそりついていようと思って、まづ川で身体を洗ってからと行きかけた拍子に、ふっと後片付けを忘れていたことに気がついた。走って帰ってみれば、ほら。見張りはちゃんと居眠りさ。おい、ミハイーロさん! 起きるんだ!
(熊、ピクリともしない。)
 イヴァーヌシュカ 盗まれちゃうぞ!
(熊、いびきをかく。)
 イヴァーヌシュカ どうしたらいいんだ。くすぐってやるか。
(くすぐる。熊、小さな声で笑う。しかし起きない。)
 イヴァーヌシュカ 起きないな。水を汲んで来て頭からぶっかけようか。(森の方へ走る。)あ、行っちゃ駄目だ。誰か来る!
(バーバ・ヤガー、森から抜き足差し足で登場。)
 イヴァーヌシュカ バーバ・ヤガーだ。(潅(かん)木に隠れる。)
 バーバ・ヤガー あーあ、可哀相なこの私。天涯孤独のこの私。どうしたものかな。今度の女中は良い女中。どうやら良い女中らしいぞ。だけどそれが困ったことなんだ。この女のこともガミガミ叱るのか。下らないことに難癖をつけて責めるのか。(因果なこの私。しかしそうかと言って)まさかこの私、ひきがえるのこの私、が、自分の使っている女中、そんな奴を褒めるわけにはいかないし。えーい、そんなことがあってたまるか。恐ろしいまむしのこの私が。褒めてなんかやるか。フン、悪賢い狐だ、この私は。約束の時より前にこっそり帰って来たとは頭がいいぞ。(また元通り、)めちゃめちゃにしておいてやるか。熊の奴は寝ている。これじゃ大砲が鳴ったって、目が覚めやしない。うん。この金の袋を一つ盗んでおくか。後であれを出せと言ってやればいいんだ。
(金の袋の方に進む。イヴァーヌシュカ、茂みから彼女の前に跳びだす。バーバ・ヤガー、驚いて跳び退く。)
 バーバ・ヤガー 何だ、この怪物は。三百年この森に住んでいるが、こんな物は初めてだぞ。何者だ、お前は。
 イヴァーヌシュカ 俺は魔法使いだ。小猫、イヴァムール・ムルムラーエヴィッチだ。
 バーバ・ヤガー 魔法使い?
 イヴァーヌシュカ そうだ。
(バーバ・ヤガー、一歩踏み出す。イヴァーヌシュカ、ポケットから笛を出す。)
 イヴァーヌシュカ 近寄るな。(笛を鋭く鳴らす。)
 バーバ・ヤガー やめろ。耳が痛い。
 イヴァーヌシュカ 近寄るな。近寄らないで話だ。お互いに魔法使いだろ。近寄る必要はない。
 バーバ・ヤガー 何だ、この怪物。なんだか気になるじゃないか。子供の格好をしている癖に、このヤガーを怖がらない。弱そうな様子をしている癖に、ピーと音をたてたりする。それにあの顔。苦手だな。見たくもない。おい、イヴァムール。お前が魔法使いだと、この私に証明出来るか。
 イヴァーヌシュカ 俺から離れようとしてみるんだな。こちらに引き戻してみせてやる。
 バーバ・ヤガー お前がこの私を? 引き戻す? 出来る筈がない。
 イヴァーヌシュカ じゃ、行ってみな。やってみればいいだろう。
(バーバ・ヤガー、行きかける。イヴァーヌシュカ、ポケットから、釣針とおもりのついた釣糸を出し、振り回して後ろから投げる。釣針、服の後ろに掛かる。バーバ・ヤガーを自分の方に引っ張る。ヤガー、もがく。)
 イヴァーヌシュカ 行くんじゃない! なまずだって逃げられなかったんだ。
(弛めたり、引っ張ったりして、バーバ・ヤガーを自分の方へ引き寄せる。釣針をはずして、さっと脇へ跳び退く。)
 イヴァーヌシュカ ほらね。
 バーバ・ヤガー なら、これが出来るか?(指を鳴らす。火花が飛ぶ。)
 イヴァーヌシュカ そのくらいのこと。(ポケットから、火打ち石を出し、打つ。火花、バーバ・ヤガーのよりも明るい。)
 バーバ・ヤガー いいか。あそこの松に松傘があるだろう?
 イヴァーヌシュカ あるよ。
 バーバ・ヤガー フー。フー。(吹く。松傘、地面に落ちる。)見たか。
 イヴァーヌシュカ ほら、あの松傘を見て。ほら、もっと高い、ずっと高いあれを!(ポケットからパチンコを取りだし、石を飛ばす。松傘、落ちる。)見たか。
 バーバ・ヤガー 私を怒らせるんじゃないよ。お前なんか、半分に噛み切っちゃうんだからね。
 イヴァーヌシュカ 何を。歯が折れるだけさ。
 バーバ・ヤガー この歯がか? いいか、見てろ! (地面から石を取り上げる。)いいか、石だぞ。(半分に噛み切る。)見たか。石だってこの通りだ、お前を噛み切るぐらい何でもない。
 イヴァーヌシュカ 今度はこっちのやることを見るんだ。(地面から石を取り、それをこっそり胡桃と取り替える。胡桃を噛んで食べる。)見たか。噛み切るだけじゃない。食べただろう。お前を食べるのもわけはない。
 バーバ・ヤガー 何だ、一体これは! こんなのは見たことがないぞ。いつだって、誰だって、わしの前へ出れば震え上がるもんだ。このイヴァムールの奴、わしの前でただヘラヘラ、ケロケロ。まさかこの辺りでわしの実権がなくなったんじゃないだろうな。まさか、まさか。こいつは腕力だけさ。智恵じゃ負ける筈がない。今のところはこれまでだ、イヴァムール。今回はわしの負けだ。(消える。)
 イヴァーヌシュカ(笑う。)こいつはいいや。しょっちゅう僕は「顔を洗いなさい、顔を洗いなさい。」って言われてる。だけど顔を洗ってたらどうなる。バーバ・ヤガーを驚かせることなんか出来はしない。「ポケットに物を詰め込んだら駄目。」っていつも言われてる。だけど詰め込んでいなかったらどうなる?笛とか釣針であいつを負かすことなんか出来はしない。
(バーバ・ヤガー、イヴァーヌシュカの後ろで身体、大きくなる。)
 イヴァーヌシュカ 子供だ子供だって僕のことを言うけど、僕は結局熊より強いじゃないか。熊君は寝てる。そして僕なんだ、バーバ・ヤガーに立ち向かったのは。
 バーバ・ヤガー そしてヤガーはここにいる。(イヴァーヌシュカを捕まえる。)
 イヴァーヌシュカ ママ。ママ、ママ!
(ヴァシリーサ、走って登場。)
 ヴァシリーサ 私はここよ、イヴァーヌシュカ! 放すんだ、私の子供を、バーバ・ヤガー。
 バーバ・ヤガー 放せとは馬鹿なことを! この私は獲物を掴んだら放しはしない!
 ヴァシリーサ 放せ。放さないか。(刀をさっと抜き、バーバ・ヤガーの頭上に振り上げる。)この刀に見覚えがあるだろう。蛇のガルイニッチの頭から切り取ったんだ。バーバ・ヤガー、お前もこれが最期だ。覚悟しろ!
 バーバ・ヤガー(イヴァーヌシュカを放し、服のひだから刀を抜く。曲がった、黒い刀。)わしはお利口だ。普段はこっそり後ろからやっつけるんだがね。時には真正面から闘うこともあるのさ。
(闘う。刀から火花が飛ぶ。ヴァシリーサ、バーバ・ヤガーの刀をはじき飛ばす。)
 バーバ・ヤガー 私を殺してみろ。お前の子供は永久にみつからないぞ。
 ヴァシリーサ 言え。子供はどこだ。
 バーバ・ヤガー 死んでも言うもんか。私は頑固でね。自分の身が滅びても意志は通すのさ。
(ヴァシリーサ、刀を下ろす。)
 バーバ・ヤガー ふん、それでいいんだ。褒める時が教える時なんだからな。お前だって分かる筈だ。自分の主人に手を振り上げるような召使いを主人が一体褒めるものかどうか。
 ヴァシリーサ 私を褒めないでいられる訳がない。言い付けられたことは全部やったんだからね。
 バーバ・ヤガー 厚かましい召使いだ。そんな奴を褒めなきゃならない規則などありはしない。小麦をひいたじゃないか、と言うのか。子供だって出来るさ、こんなこと。おい、小麦粉の袋達! さっさと納屋に入るんだ。
(小麦粉の袋、生き物のように自分で走り退場。)
 バーバ・ヤガー 宝をうまく捜せたと思っているだろう。だがな、あんなことは土方なら誰だって出来る。おい、宝、元に戻るんだ! 
(金の入った袋、地中に見えなくなる。)
 バーバ・ヤガー まだまだだ。褒めるには値しないぞ。別の仕事を言い付けよう。それが出来れば褒めてやる。
 ヴァシリーサ 早く言え!
 バーバ・ヤガー ちょっと考える。心の準備をしておくんだな。すぐ来て言い付ける。(消える。)
 イヴァーヌシュカ ママ!
 ヴァシリーサ イヴァーヌシュカ!
(抱き合う。カタフェーイとシャーリクが茂みから出て来る。)
 シャーリク そうそう。充分に再会を喜んで。僕らが見張ってるから。
 イヴァーヌシュカ ママ! ママ、僕は三年辛抱した。それから急に悲しくなったんだ。外に出て自分の腕を試さなくっちゃ。そうも思った。それでママを捜しに出かけたんだよ。僕のこと、怒ってる?
 ヴァシリーサ カタフェーイさん。シャーリク。バケツに熱いお湯を汲んで来て。それから堅いブラシと。
(カタフェーイとシャーリク、走り退場。)
 イヴァーヌシュカ ねえ、ママ。今だけなんだ、こんなに汚れてるのは。僕はね、ママ、身体は毎日、どんなことがあっても洗って奇麗にしていたんだから・・・身体だけじゃないよ、必ず家中を奇麗にしていたんだ。ママの言い付け通り、掃除はしたんだから。ゴミをただ長持ちだとか、押し入れに突っ込むだけ、そんなんじゃないよ。ちゃんとやったんだよ。それから出て来た時には床だってきちんと磨いて来たんだ。
 ヴァシリーサ さっき悲しくなったって言った?
 イヴァーヌシュカ うん。特に日が暮れて来るとね。それから誕生日。誕生日にはねママ、僕、きちんと立って自分に「おめでとうございます」って言うんだ。でも何かが足りないよね。そうだよね、ママ。それからいちごのケーキを燒くんだ。でも楽しくないよ。
 ヴァシリーサ 病気は?
 イヴァーヌシュカ 一度だけ。ケーキが生焼けだったんだけど、悲しいもんだから、みんな食べちゃった。(それでおなかを。)だけどそれだけだったよ、病気は。
(カタフェーイとシャーリク、湯の入ったバケツとブラシを持って来る。)
 ヴァシリーサ あのやぶの後ろにおいて頂戴。さあ、イヴァーヌシュカ、洗って上げますからね。
 イヴァーヌシュカ 僕、自分でやる!
 ヴァシリーサ 駄目! さあ、行きましょう。
 イヴァーヌシュカ(薮の後ろで。)ママ、熱いよ。分かった、我慢する。だって英雄なんだから・・・だけど我慢するのがこんなことじゃ・・・あつつ・・・あついよ! あ、耳に水が入った。
 ヴァシリーサ 入る訳ないでしょ。そんな気がするだけ。
 イヴァーヌシュカ ママ、僕、首は奇麗なんだよ。
 ヴァシリーサ 駄目。そんな気がするだけ。
 シャーリク 可哀相に。赤ん坊だ。
 カタフェーイ 可哀相じゃないよ。幸せな、だ。今でも思い出すなあ。僕のママもよく毛を舐めてくれたよ。痒いところを噛んでくれたりね。
 ヴァシリーサ さあ、これでおしまい。
(やぶからイヴァーヌシュカを導き出す。イヴァーヌシュカ、ピカピカに光っている。)
 ヴァシリーサ さあ、これで家にいる時と同じね。ちょっと動かないで。肩のところが破けている。繕いますからね。
 イヴァーヌシュカ バーバ・ヤガーだ。(あいつが噛んだんだな。)
(ヴァシリーサ、針と糸を出し、縫う。)
 ヴァシリーサ 動かないの。刺しちゃうよ。
 イヴァーヌシュカ 嬉しくて動くんだ、ママ。だってこの三年間、僕のことかまってくれる人は誰もいなかったんだ。それで今突然僕のシャツを繕ってくれる人が現われたんだ。ああ、縫い目が細かいな。(自分の肩を覗く。)
 ヴァシリーサ 駄目、横目を使っちゃ。すが目になるよ。
(訳註 この辺りヴァシリーサ、こっそり涙を拭いている。)
 イヴァーヌシュカ 横目を使っちゃいないよ、ママ。まっすぐ見てるよ。僕が縫うと小舟みたいに反り返っちゃう。ママ、うまいなあ。糸の目がまっすぐだ。僕の服は必ず小さなつぎがあたっているな。僕のこと、怒ってない?
 ヴァシリーサ 怒る? どうして? いい子だよ、お前は。
 イヴァーヌシュカ じゃあどうしてそんな、怒った顔してるの?
 ヴァシリーサ そりゃお前達がしょっちゅういけない事をするからだよ。でも怒っているんじゃない。心配しているの。お前の兄さん達のことをね。今はバーバ・ヤガーに捕まっているんだから。何もかも奇麗にやって、褒められるばかりになっていた。あれで褒めない訳にはいかない筈。そしたら急に風向きが変わって・・・
 イヴァーヌシュカ ママ!
 ヴァシリーサ お前達は何でも独り占めしようとする。何でも一人でやろうとする。それじゃ駄目だよ。仲良く一緒に闘うから勝てるんだ。団結するのよ。苛められている人を助けるの。小さいけどお前は勇敢。智恵もあるわ。一緒にいて私を助けて頂戴。勿論大きくなったらひとりだちしていいのよ。
 熊(飛び出して来て。)大変だ。おまわりさん! とられた! 小麦粉も、金もない。どうしよう。どうしてこんなことに。何が何だか分からないよ。僕は見張ってたんだ。一秒だって、片目だって、閉じたことないんだ。それなのにこんなことに。
 ヴァシリーサ 嘆くことないのよ、ミハイーロさん。誰も盗んだんじゃないの。バーバ・ヤガーが帰って来て、自分の宝物を片付けただけ。
 熊 どうして僕、それを見なかったんだろう。
 ヴァシリーサ ちょっと眠っていたからよ。
 熊 そうか。じゃ僕、起きてるっていう夢を見ていたんだ!
 カタフェーイ しっ。バーバ・ヤガーだ。走ってやって来る。
(バーバ・ヤガー、登場。)
 バーバ・ヤガー お前に新しい仕事を考えてやったぞ。
 ヴァシリーサ どんな仕事だ、それは。
 バーバ・ヤガー 子供達をどこに隠したか、それを捜すんだ。捜せたら褒めてやろう。捜せなかったら、自分を責めるんだな。まあわしが罰を与えたっていい。私は主人、お前は女中、それなのに、お前みたいな女中ごときと刀でわたりあったんだからな。考えてもみろ。私にとってそれがどんな屈辱だったか。何を笑っている。石に変えてやるぞ。
 熊 変えられるもんか。棒立ちになってなきゃ変えられないんだ。だけどこの人、お前を怖がってなんかいないからな。
 バーバ・ヤガー 黙れ。足曲がりの召使い! 黙らないと酷いことになるぞ。
 熊 僕に怒鳴るんじゃない。もう召使いじゃないんだ。
 バーバ・ヤガー よいよい、お前とは後で話をつけよう。どうだ、ヴァシリーサ。自分の子供を捜すのか、捜さないのか、どうなんだ。
 ヴァシリーサ 捜す。
 バーバ・ヤガー よし、それなら期限をつけるぞ。日の沈むまでだ。
 熊 何だって? 日が沈むまで? あれを見ろ。もう沈みかけているっていうのに。
 バーバ・ヤガー うるさい。沈みかけているから言っているんだ。いいか、ヴァシリーサ、一、二の三! さあ、捜せ! 見つかったら私を呼ぶんだ。
(バーバ・ヤガー、退場。)
 ヴァシリーサ さあみんな、捜して。私はちょっと考える。ふとそんな気がしたんだけど、本当にそうかしら。ただの気のせいかしら。
(全員そこここを捜す。ヴァシリーサ、立って考えている。)
 エゴールシュカ イヴァーヌシュカ、僕らはここなんだ。
 フョードル ニャーオ、ニャーオ、ニャーオ。ここだ、カタフェーイ。
 エゴールシュカ シャーリク、シャーリク! ワン、ワン。
 フョードル ここだよ、ここなんだ!
 エゴールシュカ 違うんだよ、ミハイーロ。上の方を見るんだ。
(突然遠くから声が聞こえる。「ママー、おーい、ママー、早くー。こっちだよー、。こっちなんだ。黒い沼の方なんだよー。」)
 熊 あ、あそこだ。
 エゴールシュカ 違うんだよ、ママ!
 フョードル バーバ・ヤガーなんだ。バーバ・ヤガーが呼んでるんだ。
 エゴールシュカ 誰の声でも真似られるんだよ、バーバ・ヤガーは。
 熊 何してるの、おばさん! 日が沈んじゃうよ。早く沼の方へ行こう。
 ヴァシリーサ 待ってミハイーロ、もう少し聞いてみましょう。
(遠くから声「ママ! お願い、僕達ここだよ。谷間の古いかしの木の下なんだよ。」)
 シャーリク ワン、ワン。古いかしの木がある谷間。確かにあるよ。あそこなんだ。
(遠くから声。「ママ、早く。バーバ・ヤガーが刀をふりかざしてこっちへ来るよ。」)
 ヴァシリーサ さあこっちだ。(茂みの中へ急いで入る。帰って来て。)やっと分かったわ、あの子達がどこにいるか。バーバ・ヤガー! 子供達の居場所が分かったぞ!
(バーバ・ヤガー、地面から生えて出て来たかのように現われる。)
 バーバ・ヤガー どこに居る?
 ヴァシリーサ(楓を指指して。)見るんだ、あれを。あれが何か分かるか。
(楓の葉が涙で覆われていて、沈んで行く太陽の光で輝いている。)
 ヴァシリーサ あれは何かと訊いているのだ。
 バーバ・ヤガー 訊くことが何かあるのか。楓じゃないか。
 ヴァシリーサ それが何故泣いているのだ。
 バーバ・ヤガー 泣く? 露じゃないか。
 ヴァシリーサ 違うぞ、バーバ・ヤガー。騙そうったってそうはいかない。あの露の正体が何か、私にはちゃんと分かっている。
(楓の木に近づく。)
 ヴァシリーサ 何を泣いているんだい、お前達。お前達が葉をさらさら言わせる音で、もう昨日から分かっていたわ。その音で私の心は何故かなごんだのだもの。私があんなバーバ・ヤガーの作り声に騙されるとでも思ったの? 私はわざとここを離れたの。お前達が充分涙を流せるようにね。ちょっと行ってただけ。エゴールシュカ、フョードル、お前達、随分泣いたのね。それでママは助かった。(その涙で確信が持てたの。)もう泣かなくていいのよ。子供じゃないでしょう? 英雄なんでしょう? もう泣くのはおやめなさい。ママはここ。お前達を放っておきはしない。このまま逃げたりはしない。必ず元の姿に戻してやる。(安心おし。)見るんだ、バーバ・ヤガー。涙が止っただろう。あれは私の子供なんだ。
 バーバ・ヤガー そうだ。よく分かったな。
 熊 ええっ? あれが子供。何度僕はこの傍を通ったろう。何度背中が痒(かゆ)いとここで擦ったろう。だけど何も気がつかなかった。許してね、君達、この熊を。
 ヴァシリーサ さあ、バーバ・ヤガー、約束だぞ。
 バーバ・ヤガー 約束? 何の。
 ヴァシリーサ 子供達を放してくれる約束だった筈だ。
 バーバ・ヤガー ハッ、呆れた。何を考えることやら。あれをまた動くようにさせる?せっかく木になっているじゃないか。いたづらはしない、言うことはよくきく。こっそり家出などしないし、汚い言葉で口答えもしない。
 イヴァーヌシュカ このペテン師!
 バーバ・ヤガー 褒めてくれて有難う。勿論私はペテン師。そうだよ、ヴァシリーサ、喜ぶのはまだ早い。だいたい世の中で、良い人間が悪い人間より上に立つなんてことがあると思っているのか。この私は蛇さ。いつだって人間を騙してきた。いいか、ヴァシリーサ、もう一つ仕事を与えよう。こいつをやり遂げれば、ひょっとすると子供を返してやるかもしれん。
 ヴァシリーサ 何でも言ってみるんだ!
 バーバ・ヤガー 急ぐことはない。そうだ。朝になれば文殊の智恵と言うからな。あしたの朝にする。
(バーバ・ヤガー、消える。)
 ヴァシリーサ さあ、どんどん薪を焚いて、子供達を守ってやらなくちゃ。バーバ・ヤガーの毒牙にかからないように。今度は寝たら駄目よ。
 熊 寝ません。寝ませんよ。眠るなんてどうしてこの僕が。
 ヴァシリーサ 歌を歌ってあげますからね。
 カタフェーイ お話を話してきかせるよ。
 イヴァーヌシュカ 夏の夜は短いよ。すぐ朝になるから。
(みんなで枯枝を拾い、焚火を作る。ヴァシリーサ、歌う。)
 ヴァシリーサ
   フェーヂャ、フェーヂャ、泣かないで。
   エゴールシュカ、お前もよ。
   ほら、ママがやって来たんだから。
   ママは蜜を持って来た。
   きれいなシャツも、新しい長靴も。

   洗ってやろう、子供達。
   こざっぱりとさせなくちゃ。
   さあ食事だよ、子供達。
   お腹がすいているんだろう。
   さあ、履物だよ、子供達。
   足が痛くないように。

   さあ、帰ろう、
   イヴァーヌシュカを連れて、
   それからフョードルも。
   その手をひいて。
   そしてエゴールシュカも、
   その腰に手をやって。

   子供達、お前達を、
   必ず家に連れて帰る。
   フェーヂャ、フェーヂャ、泣かないで。
   エゴールシュカも泣くんじゃない。
   ママがここに来たんじゃないの、
   お前達を助けるために。
                     (幕)

     第 三 幕
(第一幕と同じ場面。夜明けが近い。焚火あり。ヴァシリーサ、楓の木の傍に立って、心配そうに眺めている。)
 ヴァシリーサ どうしたの、そんなに震えて。何か不吉な予感がするの? 風に悪い便りでも? 答えて、思い切って口に出して。ママは分かるかも知れないんだから。
 エゴールシュカ ママ、ママ、森が鳴ってるのが聞こえる?
 フョードル 森の木が鳴ってるんだ。みんな一つのことしか言ってないんだよ。
 エゴールシュカ 「兄弟の楓、可哀相な楓」って。
 フョードル 「用心しろー 用心しろよー。」って。
 エゴールシュカ 「バーバ・ヤガーが小屋を出たよー」
 フョードル 「手に恐ろしい武器を持ってるよー。恐ろしい武器だよー」
 エゴールシュカ 「まさかりに鋸、鋸にまさかりだよー。」
 ヴァシリーサ お前達の言葉は分からないけど、これだけははっきりしている。怖いんだね、お前達。大丈夫だよ。ね、大丈夫。夜明けのちょっと前は私だって気味悪い。暗くって、寒くって。沼の上にはもやがかかって。でも(もう少し。だから)辛抱して。すぐお日様が上がる。本当よ。お日様はちゃんと自分の仕事を知っている。そう、バーバ・ヤガーはね、私達が一晩中監視していたんだから。そして今はね、何か悪いいたずらをしていないか、皆で調べているところ。
(熊、走って登場。)
 熊 バーバ・ヤガーが消えちゃった!
 ヴァシリーサ 消えたって? どういうこと?
 熊 バーバ・ヤガーが小屋から出たんです。手には・・・あ、フョードルとエゴールシュカの前では、これを言うのはまずいな。とにかく小屋から出たんです。僕らは後をつけた。そしたらピョンと跳んで・・・消えちゃった。もやが消えるみたいにね。それと一緒に手にもった鋸もまさかりも・・・(みんな消えたんだ。)だから急いでここにお手伝い出来ればと思って。シャーリクはあいつの後をつけて行った。犬には関係ないですからね、姿が見えようと見えまいと。消えようと消えまいと。シャーリクは追跡中ですよ。決してまかれたりしませんよ。彼なら大丈夫。
(シャーリク、走って登場。)
 シャーリク おばさん、おばさん、僕を殴って。ほら、棒も持って来た。
 熊 え? 何だい? どんな悪いことをしたんだい。
 シャーリク まかれちゃったんだ。ヤガーの奴、僕を沼の方に連れて行ったんだ。あそこはこっちにも水、あっちにも水。(水でにおいが消えちゃって)うまくまかれてしまったんです。でも大丈夫。カタフェーイがいます。じっと岸辺に身をひそめて・・・生きてるか死んでるか分からないぐらい・・・そして耳をそばだてているんです。ヤガーのことをねずみみたいに待ち伏せしていますから。僕は急いで帰って来ました。おばさんに叱って貰おうと思って。
 ヴァシリーサ 叱ったりなんかしないわよ。で、バーバ・ヤガーはかくれ帽子を持ってるの?
 熊 持ってるんですよ。古くって、ぼろぼろのやつなんですけどね。けちなもんだから新しいのを買わないでいるんです。でも明け方とかたそがれ時とか、そういう薄暗い所ではかなり効き目があるんですよ。ねえ、おばさん、大丈夫ですよ。かくれ帽子なんか怖くはありません。あのカタフェーイがヤガーの奴を逃がしはしませんよ!
(カタフェーイ、音もなくヴァシリーサの足元に登場。)
 カタフェーイ 消えちゃった。
 熊 消えた?
 カタフェーイ どうしようもないや。消えちゃったんだ。
 ヴァシリーサ それで、イヴァーヌシュカは?
 カタフェーイ その話は後!
 熊 じゃ、今は何をやるっていうんだ? 泣く?
 カタフェーイ 泣く? どうして。
 熊 だって他に何が出来るんだ、この哀れな我々に。
 カタフェーイ おはなしを話すんだ。
 熊 おはなし? 何の役に立つんだい。
 カタフェーイ 何も分かってない奴がそんなことを言うんだ。おばさん、ヴァシリーサおばさん! 僕の周りに輪になって坐るよう皆に言って下さいよ。
 ヴァシリーサ さあ、みんな。猫さんの言う通りにして。
 カタフェーイ ほら、おばさんもだよ。
(全員楓の周りに坐る。カタフェーイは真ん中。)
 カタフェーイ さあ、耳をすまして聞いてくれよ。この話にはねえ、ちゃんと目的があるんだからね。(いいかい?)あるところに樵(きこり)が住んでいました。
 熊 あるところって、ここ? この森?
 カタフェーイ 近所にだよ。
 熊 あ、僕はその人、見たことないな。噂しか知らないよ。虫みたいな顔、見たらむずむずするような顔だって聞いたけど・・・
 カタフェーイ どうして話の腰を折るんだい。何でそんなことを訊くんだ。
 熊 僕はバーバ・ヤガーを逃がしたもんだから、あれからみんな僕に辛くあたるんだ。、みんな僕と話したくないのか。僕はそれが知りたいよ。
 カタフェーイ 私だってヤガーを逃がしているんだよ。
 熊 猫さんには誰も文句は言わないんだ。怖いからね。だけど僕には平気なんだ。僕はみなしごだからね。僕は身分が低いからね。
 カタフェーイ 分かった、分かった。怒ってなんかいないってば。だから黙って聞いて。口を挟まないで。あるところにきこりが住んでいました。本当に人のよいきこりで、欲しいと言われれば何でもやってしまう。さてある冬のこと、このきこり、森から帰ると帽子がない。妻がきこりに訊きました。「あなた、帽子はどうしたの。」「可哀相な年寄がいてね、その人にあげたんだ。貧しくて凍えていたんだよ。」「あらそう。年寄の人にこの寒さ。帽子はいるわね。」丁度この言葉が出たその瞬間、家の前で音がした。シャンシャンシャンと鈴の音。ポクポクポクと馬の足音。キュッキュッキュッとそりの音。そしてかぼそい声が言いました。「開けて、開けて。身体を暖めさせて下さいな。」きこりは扉を開けました。まあ何ていう奇跡でしょう。外を見ると小猫ぐらいの大きさの馬が、銀の蹄(ひづめ)をつけた足で扉を叩いているじゃない。 そして銀の鈴が、シャンシャンシャンと鳴っている。そりは小屋に入ってくる。銅でできたそり。その上にきこりの帽子がのっている。その帽子の中に、ほら、僕のこの足、これぐらいの大きさの子供がちょこんと。優しそうな、楽しそうな、子供が。「お前は誰?」「僕はルタニューシュカ。あなたの息子。善行を施したご褒美なんだ。」きこり夫妻の喜びといったら・・・
 シャーリク(飛び上がる。)ガウー、ガウー、ガウー。
 カタフェーイ さあ、捜そう、捜そう、捜そう。
 シャーリク(訳註 くんくんやって。)ヤガーのやつが来た! 忍び足でこっそり。
 カタフェーイ そうか、それなら、捜すんだ、捜すんだ。
 シャーリク あ、間違いだった。(違うにおいだ。)
 カタフェーイ 何だ間違いか。それなら、いいかい? もう邪魔はしないで。それで三人は暮らしたんだ。きこりとその妻、それに息子のルタニューシュカ。その子供の働きぶりといったら・・・自分の小馬に乗って暖炉の中の重い鉄釜だって運ぶ。ねずみは追い払う。春になると畠を耕す。自分の大きさに合わせて鎌を作って羊の毛を刈る。牧場いっぱい、羊を追いかけて、サッサッ、チャッチャッ・・・毛はどんどん刈られてゆく。ルタニューシュカの名前は森中に響き渡ったんだ。ところが近所に意地悪な魔法使いが住んでいてね、考えた。「このルタニューシュカを手に入れられないかな。普通の人間と同じくらい働いて、食べるのはほんの少しだ。」魔法使いは空高く舞い上がり、ルタニューシュカの森に下りてきた。「おい、きこり、私に子供をよこすんだ。」「渡すものか。」 「よこすんだ。よこせ、よこせ。」「渡すものか。」「それなら殺すぞ。」この言葉が口から出たかと思う間もなく、ルタニューシュカが武装した馬に乗って、魔法使いの足元に跳びだした。そしてカラカラと大笑い。魔法使いが剣をさっとふりおろす。しかし、はずれ。ルタニューシュカは小さく、はしっこい。一日中魔法使いと闘ったが、やっつけられない。反対に、ルタニューシュカの方が、槍でチクリ、チクリ。暗くなると今度は木に登って待っている。下を通った時、頭の上にドスン。ふり払おうとした魔法使い、今度は思いきり自分の額をガツン。ついに地面にのびちゃった。ほうほうの体(てい)で家に帰った魔法使い、それからはルタニューシュカの森には決して近づきませんでしたとさ。
 熊 その魔法使いの名前、何ていうんだい? この森でも、似たようなのがいるように思うけどね。
 カタフェーイ 名前はね・・・バーバ・ヤガー。
 バーバ・ヤガー(姿は見せずに。)嘘だ!
(その声がした場所にイヴァーヌシュカ、突進。跳びはねて、空中から何かを掴む。するとすぐ、舞台にバーバ・ヤガーが現われる。イヴァーヌシュカ、両手にかくれ帽子を持って踊り跳ねる。バーバ・ヤガー、イヴァーヌシュカに襲いかかる。)
 ヴァシリーサ 早く! かくれ帽子を被るの!
(イヴァーヌシュカ、被ろうとする。しかしバーバ・ヤガーが早くて間に合わない。二人、帽子を掴んで引っ張りあう。帽子は古くて半分にちぎれる。バーバ・ヤガーとイヴァーヌシュカ、勢い余ってしりもちをつきそうになる。その時、まさかりと鋸を落とす。ヴァシリーサ、その時までに近づいていて、うまくそれを取り上げる。)
 バーバ・ヤガー 変なことが起こっているもんだ、この私の家じゃあ。眠っていなきゃならないんだ、召使いどもは。それが何だ、一緒に集まって主人の品定めなどしおる。まあいい。このルタニューシュカの話はもう一度聞くことにする。お前らみんなに災いが降り掛かるように。私は堪忍袋の緒が切れているんだ。(退場。)
 イヴァーヌシュカ はっはっは。ねえ、ママ、うまくいったろう? カタフェーイさんと僕が考えついたんだ。僕らは湖から帰ってきた。バーバ・ヤガーは僕らのあとをつけてきたんだ。猫さんはそれからおはなしを話し始めた。僕は薮に隠れて息をひそめていたんだ。猫さんは話を続ける。僕はずっと息をひそめる。そしたらあいつ声を出した。待ってましたと飛び掛かる。絵に描いたようにうまくいったな。残念だったのはあのかくれ帽子。あれを被ることには気がついていなかった。家に帰った時だって、役に立つもん、隠れんぼの時。でもいいや、僕昨日よりは役に立った。そうだよね、ママ。
 ヴァシリーサ そうよ、イヴァーヌシュカ。
(太陽が登る。朝日が野原を照らす。)
 ヴァシリーサ ほらね。フェーヂャ、エゴールシュカ、言った通りでしょう? 太陽が上がって、もやが消えたら、明るいでしょう? 気分も明るくなった。どうして黙ってるの? ぼうや達。何か言ってよ!
 フョードル ママ、ママには分からないだろうな、こんな朝に同じ場所でじっと立っているのが子供にはどんなに辛いか。
 エゴールシュカ ママには分からないだろうな。みんなが僕のために働いて、みんなが僕のために闘っている、その時に、(一歩も動けないで)釘づけになっている、それがどんなに辛いか。
 ヴァシリーサ 悲しまないでね。もう少しの辛抱よ。もう少しで楽にして上げますからね。
(舞台裏でバーバ・ヤガーの苛立った声がする。「馬鹿どりめ! 進め! (進まないと)足をちょん切って、スープのだしにとってやるぞ。そうすりゃ少しは分かるだろう。」)
(とり足の小屋、登場。バーバ・ヤガーがのっている。開いた扉から、長椅子にふんぞりかえっているのが見える。)
 バーバ・ヤガー もっと景気よく進むんだ、とり足! さあ、なみあし・・・止れ!
(とり足の小屋、止る。)
 バーバ・ヤガー ああ、疲れた!
 熊 何が疲れただ。いつでも他人に仕事をさせておいて。
 バーバ・ヤガー やれやれ、分かっていない奴の言うことといったら! 他人に仕事をさせて生きてゆくのが楽だとお前は思っているんだな。何もしないのが、砂糖のように甘いことだと、お前は思っているんだ。いいか、私も小さい頃は学校に行った。娘・ヤガーの頃な。いっときだって私には心休まる時などありはしなかった。お前の兄貴などいい気なものさ。前の日習ったことを全部暗記して、後はぐっすり眠ればいい。私は違う。可哀相な子供のヤガー。一日中のらくら過ごして、そののらくらの間だって考えている。明日どうやって切り抜けようかと、その方法を。生きている間中こうさ。お前達は単純な働き手。正直に働いて、歌を歌って・・・幸せなものさ。こっちはいつだって苦心惨憺。何もしないで王様の暮らしをどうやってやろうかと、そればかり。可哀相なこのヤガー。それで一体どうするか。沼の上を走り回り、刀を振り回し、他人に働いて貰わなきゃならないのさ。そうだな、ヴァシリーサ、お前に何をやらせようか。
 ヴァシリーサ さっさと決めるんだ、バーバ・ヤガー。
 バーバ・ヤガー 名案が、浮かんだ、浮かんだ、浮かんだぞ。簡単にすむ仕事を今度はやって貰おう。けちをつけるのも簡単だからな。いいか、あの小屋を見るんだ。窓は頑丈なもんだ。あの格子じゃあ、この私だって忍びこめはしない。丸太は堅い木で、まさかりを使ったって、こっぱ一つ出やしない。しかし錠がない。錠を作ってくれないか。ひょっとすると褒めてやるかもしれないぞ。やるか?
 ヴァシリーサ やりましょう。
 バーバ・ヤガー 始めるんだな。私はゆっくりと鏡でも眺めていよう。(鏡を見る。)おお、おお、可愛い、大事な、お前さん。ウー、チュチュチュ。お前チャン、ドンナシュバラシイコト、カンガエチュキマチタカ? あら、錠前を作らチェルの? ウー、チュチュチュ。
 ヴァシリーサ あ、熊さん、この鉄の棒を二つに折ってね。
 熊 がってんだ。
 ヴァシリーサ それからイヴァーヌシュカ、あなたはこれにかんなをかけて。
 イヴァーヌシュカ はい、ママ。
 ヴァシリーサ それからカタフェーイさん、あなたはこの鉄の輪を磨いてね。
 カタフェーイ よし、まかせて下さい。
 ヴァシリーサ それからシャーリク、あなたはバーバ・ヤガーが逃げないように見張ってるのよ。
 バーバ・ヤガー 私はどこへも行く気はないよ。外もいいけど家にいるのもいい。みんなが働くのを眺める・・・か。そんなことをすのはこれは初めてだ。いつだって物が出来上がってから、私はおでましになるんだからね。イヴァーヌシュカが手に持っているその箱は何ていうものだい?
 ヴァシリーサ 鉋(かんな)。
 バーバ・ヤガー そこから出てくる白いリボンは何だい? そいつを売るのかい?
 ヴァシリーサ あれは鉋くず。
 熊 そんな神妙な様子をして騙そうったって、そうはいかないぞ。まさかりと鋸を(こっそり)手に取ろうとしているんだ。分かってるんだぞ!
 バーバ・ヤガー そうさ。切り倒したり、ぶっ壊したり、私のおはこだからね。名誉ある行為というものさ、これが。物をこしらえる・・・こんなことは名誉ある行為じゃない。お前達が私にやってくれる行為に過ぎないのさ。その手に持っている細い棒は何なんだい?
 ヴァシリーサ これはやすり。
 バーバ・ヤガー やれやれ、よくやるね。ああ、可哀相な、可哀相な人間! 何故お前達は働くんだい?
 ヴァシリーサ そのうち分かるさ。
 バーバ・ヤガー まだ子供のことを助けようと思っているのかい?
 ヴァシリーサ そう。
 バーバ・ヤガー 子供達を愛している?
 ヴァシリーサ そう。勿論。
 バーバ・ヤガー で、三人のうち、誰を一番?
 ヴァシリーサ 時によって違う。その時に私を一番必要としている子供、それを愛す。フョードルが病気になる。すると、治るまでは贔屓はフョードル。イヴァーヌシュカに困ったことが起きる。抜け出るまでは贔屓はイヴァーヌシュカ。お前には分からないかな。
 熊 おばさん、こいつに分かる訳ないんだよ。
 バーバ・ヤガー それはよく分かる。分かり易い原則じゃないか。ただどうも分からないことがある。子供っていうやつに、どうしてうんざりしないのか。朝から晩まで、むやみに付きまとって、うるさいことばかり言うじゃないか。私だったらな、ヴァシリーサ、とっくに子供なんか、窓からポイさ。
 ヴァシリーサ やっぱりお前はバーバ・ヤガー。人間じゃない。だからそんなことが言えるのさ。小さい子供がむやみに付きまとう。むやみになんか付きまとう訳がない。本当に困っているからママを呼ぶんだ。「ママ、助けて!」って。そして助けてやった時の子供の笑顔! 母親にはその笑顔さえあれば、他には何もいらないのさ。
 バーバ・ヤガー そして子供が少し大きくなって、智恵でもついてみろ。わがままでお前を困らせるんだ。ちっとも言うことをききはしないのさ。いくら可愛がってやったって、子供はお前に口答えばかり。私ならね、そんな奴、すぐ家から追い出してしまう。
 ヴァシリーサ だからお前はバーバ・ヤガー。人間じゃないのさ。あの口答えだって心の底には優しい言葉が隠されている。ただ悪い言葉がつい、口から出てしまうのさ。だから我慢してやらなくちゃ。出来た! さあこれで出来上がり! 扉にしっかりと錠がついた。
 バーバ・ヤガー なんだか馬鹿に早いな。すぐ壊れるんじゃないのか。
 ヴァシリーサ まづ試してからにするんだな、悪態は。(扉を閉める。)
(錠が音をたてて下りる。バーバ・ヤガーは小屋の中。)
 ヴァシリーサ 錠の下りる音。いい音だろう?
 バーバ・ヤガー 何がいい音か。え? 何だって? やった、だと? 馬鹿なことを言うんじゃない。この私が褒め言葉を口に出したとでもいうのかい。
 ヴァシリーサ きっと褒めることになるよ。どうにもしようがなくてね。
 バーバ・ヤガー はっはっは。
 ヴァシリーサ 何を笑っている。錠はちゃんと出来ているんだ。試しに出てみたらいい。
 バーバ・ヤガー(扉を引っ張る。)何だこれは。けしからん。閉じ込めたな。
 ヴァシリーサ そうさ、閉じ込めたのさ。錠はなかなか良い出来だろう。
 バーバ・ヤガー いい出来であるもんか。
 ヴァシリーサ それなら開く筈だ。さあ、出てみたらいい。
(小屋中が震える。バーバ・ヤガー、唸り声を上げる。頭が窓から見える。)
 バーバ・ヤガー ヴァシリーサ、開けろ。命令だ。
 ヴァシリーサ 良い出来だろう?
 バーバ・ヤガー 良い出来だろうと、知るか。褒めてはやらん!
 ヴァシリーサ それならそのまま小屋にいるんだな。唸るのも、もがくのも止めた方がいい。丸太からはこっぱ一つ出やしない。頑丈に作られているんだ。
 バーバ・ヤガー とり足! この女を踏み潰せ!
(とり足、躊(ためら)う。しかしその場を動かない。)
 バーバ・ヤガー さあ、やれ!
(とり足、動かない。)
 熊 とり足はもう動かないとさ。
 バーバ・ヤガー 何故だ。
 熊 あんたにはね、随分長いこと仕えたんだがね、一度だって優しい言葉をかけて貰ったことがない。だけどこのヴァシリーサおばさんはね、人間に話し掛けるように言葉をかけて、歌まで歌ってやったのさ。
 バーバ・ヤガー いいか、ヴァシリーサ、もしお前が私を出してくれなかったら、恐ろしい不幸がお前に降り掛かってくるんだ。昔のおとぎ話のどれにも出ていないような。今まで誰にも書かれなかったような。
 ヴァシリーサ 何だその不幸とは。
 バーバ・ヤガー 悲しんで私が病気になる。
 熊 あんなの嘘だからね。病気になんかなりゃしない。
 バーバ・ヤガー ヴァシリーサ、お前なんかすぐ殺せる。お前はどうやったってこの私には勝てっこないんだ。勝ちは私にあるんだ。
 ヴァシリーサ あるものか。お前は一生のうちに、箱一つ作ったことがない。籠一つ編んだことがない。草花一つ育てたことがない。お話一つ考えついたことがない。歌一つ歌ったことがない。お前はただ、人から盗んだり、ぶっ壊したり、人をぶったりするだけ。それでどうして人間と比べられるって言うの。
 バーバ・ヤガー おーい、リュダエート・リュダエーディッチ! 来てくれ、すぐに!悪い奴がいじめられてる。私がいじめられてるんだ。助けてくれ!
 熊 あいつが来てくれるわけないだろ! あいつとはたった二カペイカのことで喧嘩して、この森から追い出しちゃったじゃないか。リュダエートの家来で残っているのは蚊だけ。蚊じゃあたいして恐ろしくもない。
 バーバ・ヤガー ヴェージマ! おい、ヴェージマ! 来てくれ、すぐに! 助けてくれ!
 熊 あの魔女とも、端金(はしたがね)で喧嘩したじゃないか。
 バーバ・ヤガー ヴァシリーサ、お前、何が欲しいんだ。
 ヴァシリーサ 子供達を自由の身に。
 バーバ・ヤガー してやるもんか! 駄目、駄目、駄目。この世の終わりまで、ああやって並んで二人立っているんだ。お前の言う事なんか、聞いてやるもんか。
 ヴァシリーサ 聞くようになるさ!
 バーバ・ヤガー 何が!
 ヴァシリーサ とり足! 沼へ出発だ。一番深いところへ・・・進め!
(とり足、従順に歩き始める。)
 バーバ・ヤガー おい、どうした、とり足! そんなことをしたら、お前達も死んでしまうぞ。
 とり足 私達は大丈夫。なんといっても鳥は鳥。うまく逃げる。
 バーバ・ヤガー ヴァシリーサ! 引っ返すよう言ってくれ。
 ヴァシリーサ トーットットットット。
(とり足、戻る。)
 バーバ・ヤガー ヴァシリーサ! 仲直りしよう。
 ヴァシリーサ じゃあ、子供達を自由の身に。
 バーバ・ヤガー もっとこっちへ来るんだ。こっそり話がある。
 ヴァシリーサ みんなの前で言うんだ。
 バーバ・ヤガー 恥ずかしい。
 ヴァシリーサ 柄でもない。言うんだ。
 バーバ・ヤガー 自由の身にするのは・・・私にゃ・・・出来ないんだ。
 ヴァシリーサ 嘘をつくな。
 バーバ・ヤガー この私の大切な健康にかけてもいい。楓に変えたのは、私じゃないんだ。ヴェージマ・・・私の友達のあの魔女なんだ。三カペイカ、あいつは私に借りがあったからね。
 熊 おばさん、この話は本当なんだ。
 エゴールシュカ そう。年とったおばあさん。胡桃(くるみ)の木の杖をついて、いつもバーバ・ヤガーと二人でいた。
 ヴァシリーサ とり足! 沼へ進め!
 バーバ・ヤガー 待って、待って。自由の身に自分では出来ない。でもやり方は知っている。
 ヴァシリーサ 早く言うんだ!
 バーバ・ヤガー まっすぐ東に進むんだ。南にも北にも曲がらないで、まっすぐ、まっすぐ。分かったな! すると沼に出る。沼も気にしない。まっすぐ進む。すると海が現われる。海も構わずまっすぐ進む。船でもいい(海を渡るんだ。)! まっすぐ進まなきゃ、道に迷うんだからな。まっすぐ船で行くと浜辺に出る。その浜辺の右手の方に、大きな森。この森の三倍はあるな。そして木の葉は緑じゃない。白いんだ。白い、それに灰色。それぐらい古い森なんだ。その古い森の真ん中に、丘がある。全体が白い草で覆われている丘だが、その中に洞窟がある。その洞窟に入ると、奥に白い大きな石がある。その石をどけるんだ。すると下が井戸になっている。その井戸の水・・・それは沸き立っている。ぐつぐつ音を立てている。まるで熱湯のようだ。そして自分で光を放っている。その水を汲んで来るのだ。そして楓に注いでやればいい。たちまち楓は元の子供に戻る。さあ、これで話は終わり。ああ、疲れた。自分以外のことで、こんなに長い話をしたなんて、生まれて初めてだ。いつもするのは自分の話。この可愛い子ちゃんのこの私。
 ヴァシリーサ どのくらいかかるんだ、そこまで。
 バーバ・ヤガー 少なくとも一年。
(フョードルとエゴールシュカ、叫び声を上げる。)
 ヴァシリーサ 嘘を言うな。
 熊 いいえ、これは嘘じゃありません。 おお、嬉しい。(はっはっはと大笑いする。)おお、悲しい。(泣く。)
 ヴァシリーサ 熊さん、どうしたの。
 熊 落ち着いたらお話します。
 バーバ・ヤガー さあ、行くんだ、ヴァシリーサ。時間はどんどん過ぎていくぞ。
 ヴァシリーサ お前も一緒に連れて行くんだ。
 バーバ・ヤガー とり足の小屋は森なんか通り抜けられないだろ。私をここから出すんだ。それでいいじゃないか。(訳註 以下独り言らしい。)どうせ一人で行かなきゃならないんだ。 行くのに一年、帰るのに一年。二年間に何が起きるか知れたもんじゃない。これは思う壷かも知れないぞ。(訳註 大きな声で。)行くんだ。さっさと出発するんだ。何をぐずぐずしている!
 ヴァシリーサ 待て。みんなとちょっと相談してみる。(小屋を離れ、仲間のところへ行く。)熊さん、あなたどうしたの? 笑ったと思ったら泣いたり、泣いたと思ったら笑ったり。
 熊 はっはっは、ウエーン、ウエーン、ウエーン。助かる方法が目の前にあるっていうのに、それに手が届かない。
 ヴァシリーサ どうして?
 熊 おばさん、聞いて。今・・・はっはっは、話すから。ウエーン、ウエーン。筋道を立てて。大蛇のガルィニッチと僕のおじいさんの話はしたよね。(訳註 七頁参照。)面白半分に、あいつ、僕のおじいさんに、通りががりざま、急に火を吹きかけたんだ。
 ヴァシリーサ 聞いたわ、その話。
 熊 それが大火傷だった。それで僕の親父、ミハーイロヴィッチ(とうさん)がね、すぐさまその洞窟に取りに行ったんだ。その命の水を取りに。もう全速力でね。その頃は僕らは、その洞窟の近くに住んでいたんだ。はっはっは、ウエーン、ウエーン、ウエーン。
 イヴァーヌシュカ 早くその先を話してくれよ。はらはらどきどきじゃないか。
 熊 バケツにいっぱい命の水を汲んで、親父は帰って来た。だけど悲しいことにね、おじいさんはもう息が切れていた。親戚中が集まっていて、泣いてた。森もまるで秋だ。しんと静まりかえっている。(それでも)親父はおじいさんに命の水を振り掛けた。なんていう奇跡なんだ。焼け焦げていた毛は、一本一本新しく伸び、止っていた心臓が打ち始めた。そして若い熊みたいに立ち上がったかと思うと、はっくしょーんと一つしたんだよ。森中が声を上げたね。おめでとうって。はっはっは、ウエーン、ウエーン、ウエーン。
 シャーリク 泣かないでくれよ、もう。でないと吠えるよ。
 ヴァシリーサ で、その先は?
 熊 その時に使った命の水の残りがあって、水差しに入れて、それからずっととってあるんです。はっはっは!
 ヴァシリーサ その水差しはそれで、どこに?
 熊 長持ちに入れて・・・はっはっは。
 ヴァシリーサ その長持ちは?
 熊 バーバ・ヤガーの小屋の中。暖炉の傍にいつも置いてある。僕が勝手に逃げ出さないように。あれを取っておけば大丈夫って。ウエーン、ウエーン。
 ヴァシリーサ じゃ、鍵をあけて、取りに行かなくちゃ!
 カタフェーイ 駄目です! 鼠取りにかかった鼠を逃がすようなものです。うまい方法があります。私がこっそり屋根に登って、煙突から中に忍び込むんです。そしてこっそり盗んで帰って来る。
 熊 ヤガーの奴に感ずかれちゃうよ。
 シャーリク 大丈夫。僕があいつをからかって、怒らせる。そうすりゃ何も聞こえない。
(猫、消える。シャーリク、小屋に向かって吠える。)
 シャーリク バーバ・ヤガー、お前、犬の言葉が分かるなどと自慢してたことがあったな。
 バーバ・ヤガー 勿論犬語は分かるさ。喧嘩の時に、これぐらい便利な言葉はないからな。それからな、言っとくが、この私ぐらい喧嘩の好きなものはいないんだ。
 シャーリク ガウー、ガウー、ガウー。分かるか、これがどういう意味か。
 バーバ・ヤガー 簡単じゃないか。「御主人様、あそこに、松の木の上に、りすがいますよ。」
 シャーリク ヘエー、よく分かったな。これはどうだ。(吠える。)
 バーバ・ヤガー 「こっちへ来い。尻尾を咬んでやる。」
 シャーリク これは? (吠える。)
 バーバ・ヤガー なんだと? いやな犬だ。
 シャーリク なあんだ、分かってないじゃないか。
 バーバ・ヤガー 嫌なことを言う犬じゃないか、お前は。私が鳩よりも優しいだなどと。よくもこんなことを言ってくれたな。(吠える。)
(シャーリク、吠え声でこれに答える。お互いに怒り、吠え合う。雄犬がワンワン、キャンキャン、言い合う声。)
 バーバ・ヤガー(突然吠えるのを止めて。)泥棒! おまわりさーん! (消える。)
(小屋の中からミャーミャー言う声。猫のカーッという脅しの声。キャッと言う声。それから沈黙。)
 シャーリク ワンワン。カタフェーイさん死んじゃった。ワンワン。
 イヴァーヌシュカ ああ、僕が行かなきゃいけなかったんだ。
 熊 煙突からはもぐり込めないでしょう? 悪いのはみんなこの僕なんだ。僕がいけなかっんだ。何故水差しを長持ちになんか入れたんだ。
 フョードル 僕らはその場に立ったまま。動くことも出来ない。
 シャーリク ワンワン! あいつのこと、ひどく罵ってやったんだ。「天使様」なんて言ってね。だけど駄目だった。ワンワン!
 ヴァシリーサ ちょっと待って。 ひょっとすると猫さん、まだ生きてピンピンしているかもしれない。ミャウー、ミャウー!
(答なし。)
 イヴァーヌシュカ 可哀相に。カタフェーイさん。
 ヴァシリーサ ちょっと待って。そうそう、忘れていたわ。あの猫さんったら、「ミャウー、ミャウー」っていう言葉も知らなかったんじゃないかしら。見識の高い猫さんなんだもの、あの猫。・・・カタフェーイさん!
(屋根の上から声。「ムール」)
 熊 生きてる!
 シャーリク どうして出て来ないんだい。皆心配してるじゃないか。
 カタフェーイ(屋根から顔は出さずに。)毛を整えている最中。煤で汚れているからね。
 熊 死んじゃったのかと思ったんだよ、僕らは。
 カタフェーイ(屋根から。)うん。もう少しで尻尾を切られるところだった。しかしうまく躱(かわ)した。
(屋根から飛び降りる。足に大きな水差し。)
 ヴァシリーサ これがその水差し? 熊さん。
 熊 そう。これなんです。
 バーバ・ヤガー(窓から。)どうせ気が抜けてるさ。役に立つもんか。
 エゴールシュカ ママ!
 ヴァシリーサ さあ皆、ちょっと離れて。
(全員脇に退く。ヴァシリーサ、楓に近づく。水差し、布がまいてある。それに堅い栓。ヴァシリーサ、栓を抜く。青い炎が上がる。)
 バーバ・ヤガー くそっ。気が抜けていなかったか。
(ヴァシリーサ、楓に命の水をかける。たちまち楓、消え、青みがかった靄(もや)がたちこめる。微かに、地面の下の方から、音楽が響く。その音楽、だんだんと明瞭に、陽気になる。靄、消える。楓、消えている。野原に、同じくらいの背のたけの子供二人、立っている。二人ともイヴァーヌシュカに似ている。二人、目をぱちくりさせている。今眠りから覚めたかのような顔。突然ヴァシリーサに気づく。二人、叫ぶ。「ママ!」)
 ヴァシリーサ (二人を抱きしめて。)ああ、フョードル! エゴールシュカ!
 カタフェーイ 安心して喜んで! 安心して。今はもう誰一人、指一本触れさせはしない。
 エゴールシュカ イヴァーヌシュカ!
 フョードル イヴァーヌシュカ!(弟を抱きしめる。)
 ヴァシリーサ ああ、これで三人。三人揃ったね。家を出て行った時と全然変わらない。一日分も大きくなっていないわね。
 フョードル ママ! 僕達これからは大きくなるよ。
 エゴールシュカ 一日一日とじゃなくて、一時間一時間と大きくなるよ。
 フョードル ママ、行こう。行こうよ。僕ら、あまり同じところに立っていたもんだから・・・
 エゴールシュカ もう同じところに立っていたくないんだ。さようなら、松君達、杉君達。怒らないでね、僕達家に帰るんだ。
 木達(さらさらと小さな音を出して。しかし、言葉は明瞭に。)さようなら、さようなら、楓君達。僕達怒ってなんかいないよ。でも僕らが生きているんだってこと、忘れないでね。これから家に帰っても、僕らが使う言葉、忘れないでね。
 フョードル 忘れない。安心して!
 バーバ・ヤガー ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ、うるさいおしゃべり! この私の目の前で、よくまあ厚かましくやってくれる! いいか、私はね、人が喜んでいるのを見るとむしょうに腹が立ってくるんだ。さあ、早くここから出すんだ!
 ヴァシリーサ 出さない! 私達は帰ります。お前も一緒だ。そして家に帰ってから、お前をどうするか、皆で決めるんだ。
 バーバ・ヤガー 止めてくれ、それは。持っている金は全部やる。それは止めてくれ。
 ヴァシリーサ 駄目! さあ、みんな手を!
(全員、手に手を取り合う。)
 ヴァシリーサ さあ、出発! とり足、続け!
(全員進む。小屋も後に続く。)
 カタフェーイ さて、これでお話はおしまい。この話、分かった人は偉いんだよ!
                     (幕)
                              
           一九五三年
                     
   平成五年(一九九三年)六月十日 訳了

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