「エレーヌ」解説
 ルッサンの「エレーヌ」は、ギリシャ神話のトロイ戦争を下敷にした芝居。トロイ戦争に馴染みのない人のために、ここにそのあらすじを書く。
 世界で一番の美女ヘレネー(仏読み「エレーヌ」)は沢山の求婚者の中からメネラオス(仏読み「メネラッス」)を選ぶ。ふられた求婚者達の中で一番有名なのはオデュッセウス(仏読み「ユリッス」)。ふられた者同志は連名して(止せばいいのに)ヘレネーに一旦事あらば、全員馳せ参じてこれを助ける、と誓う。
 その後オデュッセウスはペーネロペーと結婚し、一児テレマコス(仏読み「テレマック」)をもうける。
 メネラオスとヘレネーの間には、ヘルミオーネ(仏読み「エルミオンヌ」)が生れる。
 また、メネラオスには兄アガメムノーンがおり、これはヘレネーの姉、クリュタイムネーストラ(仏読み「クリュテムネーストル」)と結婚している。二人の間には、エレクトラ、イフィゲーニー、オレステース(仏読み「オレスト」)の三人の子供がいる。
 さて、メネラオス、ヘレネーの家に遠国トロイから、トロイの第二王子パリスが客としてやって来る。メネラオスはこの時たまたま旅行中であった。パリスはヘレネーと駆け落ちをする。メネラオスは妻を取られたことを、兄アガメムノーンに相談。アガメムノーンはヘレネーの求婚者達の同盟を知っており、まづオデュッセウスに協力を求める。新婚まだ間もないオデュッセウスは、予めその用件を知り、狂人の真似をするが、見破られ、しかたなくトロイ攻めを承諾する。しかし、ギリシャ一の英雄、アキレウスがいないと勝てないと、アキレウスを獲得に行く。この時アキレウスはまだ子供であり、(子供なのにギリシャ一の英雄とは奇妙だが、そこが神話)親は行かせたくなかった。女の子の恰好をさせ、見つからないようにしたが、オデュッセウスがその女の子達に刀の玩具を投げると、アキレウスはさっとそれに飛び付いたのでばれてしまう。
 トロイ攻略の総大将アガメムノーンは、アキレウス他、求婚者同盟の大勢と船をしたててトロイへ出発しようとするが、風が逆風で船が出せない。神託を聞くと「生贄」を出せという。そこで仕方なく自分の娘イフィゲーニーを殺し、祭壇に捧げる。すぐさま風向きが変り、一同はトロイへと出発する。
 トロイに到着し、十年間戦い、やっとオデュッセウスの木馬の計略でトロイを滅ぼすことに成功する。その間主な出来事を書く。
 トロイ方の第一の英雄は、第一王子のヘクトール(仏読み「エクトール」)であるが、これをアキレウスが一騎打ちの末、殺す。
 戦争が長引き、講和会議が開かれるが、この野外での話しあいの時、パリスの放った毒矢が、見事にアキレウスの弱点の踵(いわゆる「アキレス腱」に命中し、アキレウスは死ぬ。その後パリスも流矢に当たり絶命。
 その間ギリシャでの出来事で大事なのは、アガメムノーン家の話であって、妻クリュタイムネーストラは夫のいない隙に、愛人アイギストス(仏読み「エジスト」)を連れ込み、二人の子供エレクトラとオレステースを女中、下男同様に扱う。
 さて、大団円となる木馬の計略とは何か。それは、ギリシャ方が、「トロイの諸君よ、諸君の粘り強さにはほとほと感じ入った。我々は退却する。その感じ入った印に、ここに大きな木馬を残しておく。この大きさなら、いくら君達でも城の中に入れることは出来まい」と、木馬を戦場に残す。木馬のこの意味は、トロイ方とギリシャ人との混血児シノーンをスパイに用いて、トロイ方に話させる。実は木馬の中には有数の武将が隠れている。その内、主だったものは、アキレウスの子で、これもギリシャ一の武将、ピラス(仏読み「ピリュッス」)とオデュッセウスである。
 トロイ方はシノーンの話を怪しんだが・・・一番怪しんだのはラオコーン。「あの木馬の中には、人が隠れている。城の中に入れてみろ。夜中に這いだして来て、内から火をかけられ、それを合図に退却したと見せ掛けていた船団が引き返し、挟み撃ち。トロイは全滅するのだ」と予言し、矢を木馬に射る。「それ見ろ。空ろな音がするではないか。」
 トロイ方はその言葉に動かされそうになるが、その時、海から大海蛇が現れ、二人の子供もろとも、ラオコーンを海中に引きずり込み、殺す。これを見てトロイ方も、「神への捧げ物、木馬に矢を射た罰だ」と言ってシノーンの言葉を信じる。
 木馬は城の中に入れられ、ラオコーンの予言通りトロイは滅亡する。
 ルッサンの「エレーヌ」は、凱旋したメネラオスがヘレネーを連れてスパルタに帰る。そこからの話。

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