Becoming Jane 001

BECOMING JANE

(朝。早い時間。ジェイン、机について、小説の原稿を書いてゐる)

JANE: "Boundaries of...propriety...vigorously assaulted.....propriety were..."

「礼儀が破られた・・・礼儀にかなふ限界、それが破られた、・・・」

"The boundaries of propriety were vigorously assaulted. The boundaries of propriety were vigorously assaulted, as was only right,

「礼儀にかなふ限界、それが破られた。礼儀にかなふ限界、それが甚だしくおかされた、ぎりぎりのところまで。」

but not quite breached, as was also right. Nevertheless, she was not pleased."

「しかし、礼儀を越えるまでには行かなかつた。これもぎりぎりのところで。しかし彼女は嬉しくなかつた。」

(PIANO PLAYING LOUDLY)

(ジェイン、ピアノを強く叩きながら弾く)

(女中が盆の上に水差しを持って階段を上つてゐる。突然ピアノの大きな音が響く。女中、盆を取落す)

(男、これは多分ジェインの姉、カッサンドラと結婚する男、とカッサンドラ、自分の部屋から飛び出す)

(婚約の男は、多分、オースチン家の客)

~~~. What is it?

「何だい? あれは。」

~~~Cassandra. Jane.

「ジェインよ。」

(カッサンドラ、自分が寝間着姿であると知り)

~~~Cassandra. Oh.

「あら。」

(と、慌てて自分の部屋に戻る)

    能美武功  6月22日

 

Becoming Jane 002

(ベッド。ジェインの父(Mr. Austen)と母(Mrs. Austen)。)

~~~Mrs. Austen. Jane! Oh, dear me. That girl needs a husband. And who's good enough? Nobody. I blame you for that.

「ジェイン! やれやれ、あの子にはもう夫を持たせないと。だけど、あの子に似合ふ男なんてゐるかしら。誰もゐやしない。あなたですよ、いけないのは。」

~~~Mr. Austen. Being too much the model of perfection.

「完璧中の完璧、それが障害だな。」

(母親、皮肉に笑う)

~~~Mrs. Austen. I've shared your bed for 32 years and perfection is something I have not encountered.

「あなたとベッドを共にしたのは、これでもう32年、だけど、完璧なんて一度だつてなかつたわ。」

~~~Mr. Austen. Yet.

「うん、まだ、な。」

(と言って、布団の中に潜り、何かやり始める)

~~~Mrs. Austen.(驚いて)No. Stop it. Mr Austen, it's Sunday!  Stop, no, it's...

(と、笑う)

「何です、何をやつて・・・ミスター・オースチン、今日は日曜日ですよ! お止めなさい・・・」

\\

(教会。ミスター・オースチン、説教)

~~~Mr. Austen. The utmost of a woman's character is expressed in the duties of daughter, sister and, eventually, wife and mother.

「女性の性格で、最も大事なものは、娘として、姉妹として、そして、母であり夫であることに存する。」

(母、ニヤリと笑う。つまり、朝の出来事、を思ひ出して、ああ、あれが大事らしいと。)

It is secured by soft attraction, virtuous love and quiet in the early morning.

「柔らかい魅力、敬虔な愛情、そして、朝の静けさ。」

(ジェイン、「まいったな」といふ顔。ピアノを弾いてみんなを驚かせたこと)

If a woman happens to have a particular superiority, for example, a profound mind, it is best kept a profound secret.

「もしある女性に偶々(たまたま)特別な才能があつたとしたら、例へば、深い理解力があつたとしたら、それを隠しておくといふのが最も望ましいことである。」

(「ブラウニング版」にありましたね、知識とはそれを隠すことに存する、と)

Humour is liked more, but wit? No. It is the most treacherous talent of them all.

「ユーモアはみんなに好かれる。しかし、才知となるとどうだ。それは才能の中で最も危険なものだ。」

    能美武功  6月23日

 

Becoming Jane 003

(説教が終ってみんな教会から出て来るところ。ミスター・オースチン、ジョージを止めて)

~~~Mr. Austen. Now, George, old fellow, you know you have to stay.

「おいおい、ジョージ、君はね、家にゐないといけないよ。」

(ジョージの母親を呼ぶ)Jenny!

「ジェニー!」

~~~Jenny. George, George.

「ジョージ、ジョージ。」

(と母親、ジョージをどこかへ連れて行く。ジョージは身障者らしい。このジョージは、後に、トムとジェインが話をしてゐる時、間に入つて、ジェインの助けになりたいといふ仕草をする人。)

~~~MRS AUSTEN: Hurry along, Jane! We'll be late!

「ジェイン、早くいらつしやい。送れるわよ!」

~~~JANE: When Her Ladyship calls, we must obey.

「(独り遅れて、ひとり言)レイディー・グレシャムのお呼びがあれば、みんな従はなくちやならないんだから。」

(遅れてゐるジェインを呼んで)

~~~MRS AUSTEN: Come along, Jane.

「さあジェイン、早く。」

\\

(グレシャム家に着く。左から、母、イライザ・フォイイッド、ジェイン、カッサンドラ、ミスター・ファウル)

(父親、一行を紹介して)

~~~Mr. Austen. Lady Gresham, may I introduce my niece Comtesse De Feuillide and Mr Fowle, Cassandra's fiance.

「レイディー・グレシャム、紹介致します、こちらは私の姪、コンテッス・ドゥ・フォイイッド、そして娘のカッサンドラの許嫁、ミスター・ファウルです。」

~~~Lady Gresham. Comtesse? Then you presume to be French?

「コンテッス? すると、フランス人?」

~~~Comtesse de Feuillide. By marriage.

「結婚によつてです。」

    能美武功  6月24日

 

 

Becoming Jane 004

~~~Lady Gresham. Monsieur le Comte is not here to pay his respects?

「ムスィユ・ドゥ・コーント(旦那様)にはおいで戴けなかつたのですね?」

~~~Comtesse de Feuillide. A prior engagement, ma'am, Monsieur le Comte was obliged to pay his respects to Madame le Guillotine.

「ええ、先約がありました、マーム。ムスィユ・ドゥ・コーント(夫)は、マダンム・ル・ギヨチンヌに拝領の義務があつたのです。」

(「ギロチンで死んだ」という意味)

~~~Lady Gresham. Oh!(と、眉を顰める)

「おお!」

~~~Mrs. Austen. I see your nephew is with us again. Mr Wisley.

「甥御さんのミスター・ウィズリーもご一緒なのですね。」

~~~Lady Gresham. Wisley is indispensable to my happiness. Well, do sit down.

「ウィズリーは、私の幸せに、欠かせない人物なのです。さ、坐つて。」

~~~Mr. Austen. Mr Fowle and Cassandra are only recently engaged.

「ミスター・ファウルとカッサンドラは、つい最近婚約しました。」

~~~Lady Gresham. When shall you marry?

「結婚はいつ?」

~~~Cassandra. Not for some time, Your Ladyship.

「暫くは駄目なのです。」

~~~Lady Gresham. Why not?

「どうしてです?」

    能美武功  6月25日

 

 

Becoming Jane 005

~~~Fowle. I'm also engaged to go to the West Indies with Lord Craven's expedition against the French, as chaplain.

「婚約といふ約束もありますが、もう一つ、フランスと戦ふ、といふ約束もあります。これはロード・クレイヴンとの約束で、西インド諸島に。兵隊ではなく牧師としてですが。」

~~~Lady Gresham. What has Craven offered you?

「その見返りにロード・クレイヴンは何を?」

~~~Fowle. I've hopes of a parish on my return.

「帰国後の、教会区の割当てです。」

~~~Lady Gresham. How much is it worth?

「金額になほすとどのくらゐに?」

~~~Fowle. Enough to marry on, in a modest way.

「結婚に十分なだけ、勿論質素な結婚ですが。」

~~~Mrs. Austen. Mr Wisley, did you know the Basingstoke assemblies resume? Very soon, I believe. Jane does enjoy a ball.

「ミスター・ウィズリー、ベイズィングストークの集りがまた開かれることになつたのを御存じですか? もうすぐ開かれる予定のやうですよ。ジェインはダンスパーティー、大好きなのです。」

~~~Lady Gresham. Wisley can't abide them.

「ウィズリーは、そんなところには行きません。」

~~~Jane. But, sir, a ball is an indispensable blessing to the juvenile part of the neighbourhood.

「でも、ダンスパーティーは、ここらに住む若者たちには必要不可欠な恵みですわ。」

Everything agreeable in the way of talking and sitting down together all managed with the utmost decorum. An amiable man could not object.

「素敵な設(しつら)への中で、会話を楽しんだり、ゆつたり坐つてゐたり、とても楽しい雰囲気。教養のある人なら、決して反対などしない筈ですわ。」

    能美武功  6月26日

 

Becoming Jane 006

~~~Wisley. Then I find I'm converted.

「さうですか。さういふことなら、私はもう今、考へを変へました。」

(面会は終り、オースチン一家、家に帰る途中)

~~~JANE: Displayed like a brood mare.

「あの人、まるで身籠つた雌馬ね。」

~~~Mrs. Austen. Mr Wisley is a highly eligible young gentleman.

「ミスター・ウィズリーは教養のある立派な紳士よ。」

~~~Jane. Oh, Mother!

「まあ、お母さん!」

~~~Mrs. Austen. You know our situation, Jane.

「あなた、私たちの経済状態、分つてゐるでせう? ジェイン。」

~~~Jane. Oh!

「まあ!」

~~~Mrs. Austen. And he is Lady Gresham's favourite nephew and heir. One day, he shall inherit this. Excellent prospects!  (と、立派な建物を見る)

「あの人、レイディー・グレシャムのお気に入り、そして跡継ぎ。いつかこの立派なお屋敷を相続するのよ。」

~~~Jane. His small fortune will not buy me.

「あんなちつぽけな財産で、私を買はうつたつて、無理よ。」

~~~Comtesse de Feuillide. What will buy you, cousin?

「どんな財産があなたを買へるんでせうね? ジェイン。」

\\

(路上で格闘技が行われている。ルフロイと相手。相手は本職らしい)

(観客からの声援)

~~~MAN: More wary in the world, Mr Lefroy.

「ミスター・ルフロイ、気をつけろ!」

(LAUGHING)

(ルフロイ、殴られるが、観客の女の一人にキスし、また立ち向う)

~~~Lefroy. You can pay me for that later.

「キスの代金は後で貰ふぞ。」

~~~観客. Huzzah! Huzzah!

「やれやれ! がんばれ!」

~~~MAN: Come on, Mr Lefroy. Come on, man, hit him!

「さ、やるんだ、ミスター・ルフロイ。あいつをやつつけろ!」

    能美武功  6月27日

 

 

Becoming Jane 007

~~~紳士風の男. Lefroy!(と、呼ぶ。ルフロイ、それに気をとられ、また殴られる。倒れ、のびる)

~~~WOMAN: Glass of wine with you, sir?

「お酒、飲む?」

~~~Lefroy. Madam.

「有難う。」

(紳士風の男、トム・ルフロイ、に近づいて。この男はジェインの兄のヘンリー。)

~~~Henry. Displaying to advantage, I see, Lefroy.

「なかなかやるぢやないか、ルフロイ。」

~~~Lefroy. Like the sword, Austen. How long before you have to get back to the sticks?

「刀のやうな切れ味だつたらう? それで、いつ帰るんだ?」

~~~Austen. A day.

「明日だ。」

~~~Lefroy. So soon?

「そんなに早く?」

~~~Austen. Doghouse, debts, but one must cut some sort of a figure even in the militia.

「犬小屋(これ、意味不明)、借金・・・兵隊さんでも、何かは切り詰めないとね。」

~~~Lefroy. Especially when condemned to a parsonage, my friend.

「将来牧師になる予定なんぢや、余計気をつけないと。」

~~~Austen. Yes.

「さうさう。」

~~~Lefroy. Still, who is this sour-faced little virgin?

「しかし、あの連れの男は誰なんだ?」

(と、踊つてゐる男を指さす。ヘンリー、そのカップルに近づいて、まづ相手の女に、)

~~~Austen. Your pardon, ma'am. Mr Tom Lefroy, may I present Mr John Warren? Joining me in Hampshire, my father is preparing us both for holy orders.

「失礼しますよ、君。(トムをダンスの男に紹介して)ミスター・トム・ルフロイ、こちらはミスター・ジョン・ウォレン。ハンプシャーで僕と一緒だ。父が僕とウォレンを牧師にしてくれるといふ話でね。」

    能美武功  6月28日

 

Becoming Jane 008

~~~Warren. I understand you've visited Hampshire, Mr Lefroy.

「ミスター・ルフロイ、あなた、ハンプシャーに来たこと、ありますね?」

~~~Lefroy. Last year.

「去年ね。」

~~~Warren. Long visit, was it?

「長い滞在でしたか?」

~~~Lefroy. Very long, Mr Warren. Almost three hours.

「非常に長い滞在でしたよ、ミスター・ウォレン。約3時間もね。」

(バーのようなところ。二階もある)

~~~. Mr Austen, you're devilishly handsome.

「ミスター・オースチン、あなた、おつそろしくハンサムね。」

~~~Austen. A kiss, a kiss. Oops!

「キスだ、キス、キス。」

(ヘンリー・オースティン、階段を降りながら)

~~~Austen. So, Tom, where should we go? Vauxhall Gardens?

「さうだ、トム、どこに行く? ヴォーホール・ガーデン?」

~~~Lefroy. Been there.

「ああ、あそこへは行つた。」

~~~Austen. Lefroy, there's a Tahitian Love Fest on at White's.

「ルフロイ、タヒチアン・ラヴ・フェストつてのが、ホワイトにあるぞ。」

~~~Lefroy. Seen it.

「行つた、行つた。」

~~~Auten. Crockford's?

「クロックフォードは?」

~~~Lefroy. Crockford's? Done that. Or did it do me?

「クロックフォード? やつつけたよ。いや、やられたのはこちらかな?」

~~~Warren. Wh-wh-wh-what is a Tahitian Love Fest?

「タヒチアン・ラヴ・フェストつていふのは何ですか?」

(このウォレンという男は、最後にジェインに求婚し、振られる男)

(オースティンとルフロイ、恭しくウォレンにお辞儀。道を開け「どうぞお入りを」と導く。ウォレン、当惑しながら、先に進む)

    能美武功  6月29日

 

Becoming Jane 009

(翌朝。正装したルフロイ、女にキスして、別れる。走つて裁判所に入る)

~~~HENRY(多分これは被告): I humbly beg your pardon, sir.

「お慈悲をどうぞ、お願ひ致します。」

~~~裁判長. Theft of one pig is a crime, heinous to be sure, but two pigs... Two pigs is a violent assault on the very sanctity of private property itself.

「豚一匹盗んだとしても、大変な罪だ。それを二匹も・・・これは個人の神聖な所有物に対する重大な侵害である。」

(遅く来たルフロイ、自分の席につくため、道を開けて貰はうと)

~~~Lefroy. (WHISPERING) Excuse me.

「失礼・・・」

~~~裁判長. You and your kind are a canker on the body social. And cankers are cut out. Transportation for life. Next.

「お前、そしてお前の類は、社会の癌だ。癌は取り去らねばならない。死刑を宣告する。次。」

(GAVEL BANGS)

(「議長つち」が大きく鳴る)

(裁判が終り、トム・ルフロイ、裁判長のところに来てゐる。この裁判長は、トムの伯父。)

~~~裁判長. Why are you here in London, sir?

「ロンドンに何をしにやつて来た。」

~~~Lefroy. To learn the law.

「法律を学ぶためです。」

~~~裁判長. Which has no other end but what?

「その法律の目的は何だ。」

~~~Lefroy. The preservation of the rights of property.

「所有権の確保です。」

~~~裁判長. Against?

「何に対してそれを守る。」

~~~Lefroy. The mob.

「不逞(ふてい)の輩(やから)からです。」

~~~裁判長. Therefore, order is kept because we have...

「従つて、何があるから、その秩序が守られてゐる。」

~~~Lefroy. A standing army?

「軍隊があるからですか?」

~~~裁判長. Good manners, sir, and prudence. Do you know that word? Prudence?

「しつかりした礼儀、それに慎みだ。お前には分つてゐるのか、この「慎み」といふ言葉が。」

    能美武功  6月30日

 

 

Becoming Jane 010

~~~Lefroy. Yes.

「はい。」

~~~裁判長. Consider myself. I was born rich, certainly, but I remain rich by virtue of exceptional conduct.

「この私を見ろ。私は生れた時から金持だつた、勿論。しかし私は、人に後ろ指をさされない人生を送つてきたせゐで、金持のままここまで来られたのだ。」

I have shown restraint. Your mother, my sister, became poor because she did not...

「私は自制といふものを示してきた。お前の母親、つまり私の妹だが、それは、自制がなかつたから、貧乏になつたのだ。」

~~~Lefroy. She married my father because she loved him.

「母は、父と、愛してゐたから結婚したのです。」

~~~裁判長. Yes, and that's why you have so many brothers and sisters back there in...

「その通り。だからこそだ、お前に大勢の兄弟姉妹がゐるのはな・・・エー・・・」

~~~Lefroy. Limerick.

「リメリックにです。」

~~~裁判長. Mmm. If you hope, I say hope... If you aspire to inherit my property, you must prove yourself more worthy.

「フン。もしお前が・・・さう、もしお前がこの私の財産を継ぎたいと期待してゐるのなら、お前自身がその価値のある人間であることを示さねばならない。」

But what do we find? We find dissipation wild enough to glut the imaginings of a Hottentot braggadocio.

「ところがお前のやつてゐることと言つたら何だ。ホッテントットがやるやうな、馬鹿な真似ばかりだ。」

Wild companions, gambling, running around St James's like a neck-or-nothing young blood of the fancy. What kind of lawyer will that make?

「しやうのない仲間たち、賭事、セント・ジェイムズ界隈をうろつき回る。頭のまるでない、阿呆のすることだけだ。そんなことで、どんな法律家が出来るといふのだ。」

~~~Lefroy. Typical.

「理想的な。」

    能美武功  7月1日

 

Becoming Jane 011

~~~裁判長. Humour? Well, you're going to need that because I'm teaching you a lesson. I'm sending you to stay with your other relations, the Lefroys.

「それでユーモアのつもりか。よし、お前がその気なら、こちらにも考へがある。今からお前を別の親戚、ルフロイ家に滞在させる。」

~~~Lefroy. Uncle, they live in the country.

「伯父さん、ルフロイ家は田舎にあるんですよ。」

~~~裁判長. Deep in the country.

「さうだ。大田舎だ。」

(人のゐないところで、裁判長、笑ふ。)

\\

(オースチンの家。ジェインの部屋。ジェイン、カッサンドラ、イライザの3人.ジェイン、何か書いている)

~~~Cassandra. Jane?

「ジェイン?」

~~~Jane. Mmm?

「何?」

~~~Cassandra. Can you?

「留めて。」

(と、首飾りを後ろで留めて欲しいと、仕草。ジェイン、立上りうしろへ行く)

~~~Cassandra. Thank you.

「有難う。」

    能美武功  7月2日

 

 

Becoming Jane 012

~~~Eliza. I think you two quite the prettiest sisters in England. Mr Fowle will be enchanted.

「あなた方二人、イギリスで一番の可愛い姉妹だわ。ミスター・ファウルはあなた(カッサンドラ)に夢中なのよ。」

~~~Cassandra. San Domingo is half a world away. He'll forget me.

「サン・ドミンゴは世界の果てだわ。あの人、私を忘れてしまふ。」

~~~Jane. Impossible. Look at the memory you're giving him tonight.

「そんなことあり得ないわ。あなたが今夜あの人に与へた思ひ出を考へて御覧なさい。」

~~~Cassandra. (CHUCCLES)

(カッサンドラ、くすくす笑ふ。)

~~~Jane. Cassie. His heart will stop at the very sight of you or he doesn't deserve to live. And, yes, I'm aware of the contradiction embodied in that sentence.

「キャスィー、あの人の心臓はあなたを見るだけで止るのよ。さうでなかつたら、あの人、生きる価値ないわ。ええ、分つてる、今の言葉、矛盾があるわ。それはさうだけど・・・」

(三人、窓から外を見る。馬車が来る)

~~~Jane. Is it?

「あれがあの馬車?」

(三人、馬車を迎へる)

~~~Henry. Jane!

「ジェイン!」

~~~Jane. Henry!

「ヘンリー。!」

(二人、抱き合ふ。今度はカッサンドラがヘンリーに)

~~~Cassandra. You look wonderful.

「兄さん、素敵。」

(と、二人、抱き合ふ)

    能美武功  7月3日

 

 

Becoming Jane 013

(ジェイン、ジョン・ウォレンに)

~~~Jane. Well, hello, John. It's very good to see you.

「あら、ジョン、会へて嬉しいわ。」

~~~John. Nice to see you.

「僕も。」

~~~Cassandra. Oh, John!

「あら、ジョン!」

~~~Henry. George!

「こら、ジョージ!」

(と、ジョージを追いかけ、その帽子を取って自分が被る。ジョージは聾らしい。)

(ジョージ、怒鳴る)

~~~MRS AUSTEN: Leave your brother alone.

「弟を放つといて。」

(ジョージはヘンリーの弟なのか? 不明)

\\

(家の中。ジェイン、階段を降りながら自分の原稿を読み直してゐる)

~~~Mrs. Austen. Jane! Jane? Have you heard?

「ジェイン、ジェイン! あなた、聞こえてるの?」

~~~Lucy. My father's nephew is staying with us. From London.

「父の甥は、今私たちの家に来てゐるの。ロンドンからよ。」

~~~ルースィーの母. He is a...

「その甥といふのは・・・」

~~~Lucy. A brilliant young lawyer.

「切れ者の若い弁護士なの。」

~~~ルースィーの母. Lucy, please.

「ルースィー、お止めなさい。」

    能美武功  7月4日

 

 

Becoming Jane 014

~~~Lucy. With a reputation.

「それに、有名なの。」

~~~Jane. For lateness?

「遅刻で有名?」

~~~MRS AUSTEN: Hat off, George.

「ジョージ、帽子を脱いで。」

~~~Henry. Hat off, Father's ready.

「お父さんだよ、帽子を脱いで。」

(ジョン・ウォレン、ジェインに窓枠の席を勧める)

~~~Jane. Thank you, John.

「有難う、ジョン。」

~~~John. Please.

「どうぞ。」

~~~REVEREND AUSTEN: The family is always moving in great ways and small. Firstly, the small. Henry is back from Oxford with his degree, - thank goodness.

「家族の移動がある。大きい移動に小さい移動だ。最初に小さな方。ヘンリーがオックスフォードから帰つた。卒業を無事すませて。やれやれホツとしたね、これは。」

~~~. Well done.

「おめでたう。」

~~~Mr. Austen. And our friend John, my new student.

「それから、ジョン。これが私の新しい生徒だ。」

Then the great. Cassandra, who is forsaking us for her brother Edward and his family at the coast

「次に、大きい移動。カッサンドラが海岸の彼女の兄、エドワードの家に行く。」

whilst Robert voyages to the West Indies with Lord Craven's expedition. And then, together, they can embark on that most great and most serious journey of life.

「一方(カッサンドラの許嫁)ロバートは、ロード・クレイヴンの率いる部隊に入り、西インド諸島に行く。それが終れば、カッサンドラとロバートは、人生の最も大事な旅に出発することになる。」

    能美武功  7月5日

 

 

Becoming Jane 015

~~~John. Miss Austen, I understand you will be favouring us with a reading?

「ミス・オースチン、お願ひしていいでせうか、あなたの本を読んで下さいと。」

~~~Henry. Do, Jane.

「さうさう、読んで。」

~~~WOMAN: Do.

「読んで、読んで。」

~~~MAN: Oh, please, Miss Jane.

「読んで下さいよ、ジェイン。」

~~~WOMAN: Oh, yes, Jane, do.

「さあ、お願ひ。」

~~~Henry. Please, Jane.

「さあ、ジェイン。」

(ジェイン、立つて、原稿を持ち)

~~~Jane. "Advice from a young lady on the engagement of her beloved sister Cassandra to a Fowle."

「姉のカッサンドラとミスター・ファウルの婚約に関し、若い女性からの忠告」

(ALL LAUGHING)

~~~Jane. "His addresses were offered in a manner violent enough to be flattering.

「彼の申込みは、相手から有難いと思はれる以上の激しさで行はれた。」

"The boundaries of propriety were vigorously assaulted, as was only right, "but not quite breached, as was also right. "Nevertheless, she was..."

「礼儀にかなふ限界、それが甚だしくおかされた、ぎりぎりまで。しかし、礼儀を越えるまでには行かなかつた。これもぎりぎりのところで。しかし彼女は嬉しくなかつた。」

    能美武功  7月6日

 

Becoming Jane 016

(そこにルフロイ、入って来る。かなり無礼な態度。)

~~~George. And may I introduce my young nephew Mr Thomas Lefroy?

(能美註。このジョージは、聾唖者のジョージとは別人。ルースィーの叔父か?)

「ああ、みなさん、紹介します。私の甥のミスター・トーマス・ルフロイです。」

~~~WOMAN: Oh.

「あら。」

~~~REVEREND AUSTEN: And he's more than welcome. Join us, sir, join us.

「ああ、これはようこそ。どうぞ、どうぞ、坐つて。」

(ルフロイ、ジョンの隣の席に坐る)

~~~Lucy. Green velvet coat. Vastly fashionable.

「緑のビロードのコート。洒落てるわ。」

~~~John. You'll find this vastly amusing.

「(ルフロイに囁く。朗読中のジェインの作品について)これ、すごく面白いんですよ。」

~~~Jane. "His addresses were...

「(邪魔がはいり、少し動揺。気を取り直して)彼の結婚申し込みは・・・」

"The boundaries of propriety were vigorously assaulted, "as was only right, but not quite breached, as was also right. "Nevertheless, she was not pleased. "Her taste was refined, her sentiments noble, her person lovely, her figure elegant."

「礼儀にかなふ限界、それが破られた。礼儀にかなふ限界、それが甚だしくおかされた、ぎりぎりのところまで。しかし、礼儀を越えるまでには行かなかつた。これもぎりぎりのところで。しかし彼女は嬉しくなかつた。彼女の趣味は洗練されてをり、上品で、人柄もよく、姿形もよかつた。」

 

(みんな、笑ふ)

~~~Lefroy.(小声で)Good God, there's writing on both sides of those pages.

「おやおや、あんな沢山の紙に、おまけに裏表書いてある。」

~~~Henry. Shh. Damn it, man.

「おい、静かにしろ。」

~~~Jane. "'It was only yesterday I repelled Lord Graham and his six million, "'which would have lasted me almost a twelvemonth,

「昨日私、ロード・グラハムの6百万ポンドを断つたところ。私の一年分の生活費をね。」

"'with economies... ' "'... a treasure "'greater than all the jewels in India, an adoring heart."'

「それも倹約して。インド全体の宝石を集めても敵はないほどの大金、それを断つて・・・大変な女。」

    能美武功  7月7日

 

 

Becoming Jane 017

~~~観客の声. God!

「おやおや。」

~~~Jane. "'And pray, madam, what am I to expect in return? '

「そして、マダーム、そのお返しに私が期待できるものとは、一体何でせう?」

"'Expect? Well, you may expect to have me pleased from time to time."'

「期待ですつて? ええ、私を期待なさることがお出来になりますわ、時々。」

~~~Cassandra. Is this who I am?

「その言葉を言つてる人、私のこと?」

~~~Jane. "And a sweet, gentle, pleading, innocent, delicate, sympathetic, loyal, untutored, adoring female heart." The end.

「そして、甘い、優しい、あなたを頼りにしてゐる、無邪気な、繊細な、気持のよい、従順な、すれてゐない、素敵な女性の心を、(あなたは期待できますわ)。終。」

(ALL LAUGH)

(全員、笑ふ。」

~~~全員.  Bravo, Jane.

「素晴らしいよ、ジェイン。」

- WOMAN: Well done, Jane.

「よく出来てゐるわ。」

(ALL APPLAUDING)

(拍手)

~~~MAN: Bravo. Well done.

「素晴らしい、素晴らしい。」

~~~WOMAN: She speaks so well.

「朗読も上手。」

(ジョン、ルフロイにワインを注いで持つて来てやり)

~~~John. Well, excessively charming, I thought.

「素敵だらう? どうだ?」

    能美武功  7月8日

 

 

Becoming Jane 018

~~~Lefroy. Well, accomplished enough, perhaps, but a metropolitan mind may be less susceptible to extended, juvenile self-regard.

「うん、十分な出来だな、多分。しかし、ロンドン人が青二才の、先走つた才気を歓迎するかどう、それは疑問だな。」

(ジェイン、この台詞を聞いてゐる。ムッとして、一人階段を上つて行く)

~~~REVEREND AUSTEN: Well, thank you. We're both very proud.

「(これは誰かに言つてゐる言葉)有難う。いや、あの子は自慢の子でね。」

(ルースィー、ピアノを弾き、歌を歌ふ)

(ルフロイ、じっと坐つて考えてゐる。歌を考えてゐるのではなく、さっき言つた自分の言葉のことを)

~~~Lucy. # In airy dreams

「(歌の歌詞)、夢で・・・」

(ジェイン、自分の書いた原稿をじつと見て、破り、火に入れる。)

(こちら、客間。ルースィー、ピアノを弾き、歌つてゐる。終る)

(ルフロイ、ピアノの弾き手を無視するような拍手。立上つてどこかへ行く)

(こちら、ジェイン。トランクを開けて自分の書いたものを読み直す。「全て駄目」といふ表情)

\\

(朝。狩のための部屋。男三人、猟銃を調べている)

(ルースィー、屋敷から走って出て来て、狩の部屋の窓へ来て中を覗く)

(以下、ミスター・ルフロイは、トム・ルフロイの叔父。)

~~~MR LEFROY: Careful there, old fellow.

「気をつけろ、トム。」

~~~TOM: Fine piece, Mr Lefroy.

「立派な銃ですね、ミスター・ルフロイ。」

~~~Mr. Lefroy. Handled a gun before, have you, Tom?

「トム、お前、銃を扱つたこと、あるのか?」

~~~TOM: Mmm.

「ウムムム・・・」

(ルースィー、窓から)

~~~Lucy. Tom!

「トム!」

(と呼びかける。トム、誤って引き金を引く。銃声)

(ルースィー、金切声をあげる)

    能美武功  7月9日

 

 

Becoming Jane 019

~~~MR LEFROY: Jesus! Tom.

「まゐつたね、トム。」

~~~Tom. Uncle?

「何でせう?」

~~~Mr. Lefroy. Why not try a walk? There's some very fine country round about. Very fine.

「散歩でもしたらどうだ? ここらあたりは散歩には素敵な場所だ。本当にいい所だぞ。」

~~~Tom. A walk.

「散歩?」

(と、トム、一人森の中を散歩。ジェインも歩いてゐて、トムに気づく。やり過ごさうと、別の方向へ行かうとするが、見つかる)

~~~Tom. Miss! Miss! Miss! Miss! Miss, I... Miss? Miss? Miss...

「ミス! ミス! ミス!・・・エー、・・・ミス・・・?」

(とジェインを追ふ)

~~~Jane. Austen.

「オースチンです。」

~~~Tom. Mr Lefroy.

「ミスター・ルフロイ、です。」

(と帽子を取り、お辞儀)

~~~Jane. Yes, I know, but I am alone.

「ええ、分つてゐます。でも、今、私は一人なので。」

~~~Tom. Except for me.

「僕を除いては。」

~~~Jane. Exactly.

「その通り。」

~~~Tom. Oh, come! What rules of conduct apply in this rural situation? We have been introduced, have we not?

「やれやれ! こんな田舎で、どんな礼儀が必要だつていふんです。それに僕ら二人は紹介されてゐるんですよ、もう。」

~~~Jane. What value is there in an introduction when you cannot even remember my name? Indeed, can barely stay awake in my presence.

「紹介なんて、何の意味があるんです? 私の名前さへ覚えて下さつてゐないのに。私がゐても、ただ、目が明いてゐただけ、といふことではありませんか。」

~~~Tom. Madam.

「マダーム。」

(と、お辞儀をして去ろうとする)

    能美武功  7月10日

 

 

Becoming Jane 020

~~~Jane. These scruples...

「ずいぶんな遠慮ですのね・・・(女性と二人だけ、といふ理由で、去らうとしてゐるから)」

 

(トム、相手から言葉が来るので、振返る)

must seem very provincial to a gentleman with such elevated airs, but I do not devise these rules. I am merely obliged to obey them.

「でもそれ、礼儀など全く気にかけもしないやうな紳士にしては、それ、ひどく田舎風ではありませんか? でも、礼儀を作るのが私ではありません。私はただ、礼儀を守るだけの女ですので。」

(と、ジェイン、お辞儀。去りかける)

(トム、それを追ひかけるように)

~~~Tom. I have been told there is much to see upon a walk...

「このあたり、見るところが沢山あると聞いてやつて来たんですが・・・」

(ジェイン、振返り、少し戻る)

but all I've detected so far is a general tendency to green above and brown below.

「ここで見られるものと言つたら、上には緑、下には茶色、それだけですね。」

~~~Jane. Yes, well, others have detected more. It is celebrated.  There's even a book about Selborne Wood.

「ええ、でも、他にいろいろ見つける人もゐますわ。有名なのです、このあたりは。セルボーン・ウッドについては、本があるくらゐですわ。」

~~~Tom. Oh.

「ほほう。」

(と、二人、お辞儀。ジェイン、去りかける)

~~~Tom. A novel, perhaps?

「小説ですね? 多分。」

~~~Jane. Novels? Being poor, insipid things, read by mere women, even, God forbid, written by mere women?

「小説? 小説なんて、可哀想なもの、ただ女性にしか読まれはしない。それに、ただの女性によつて書かれたものなら、そんなもの、もうカス同然。」

~~~Tom. I see, we're talking of your reading.

「なるほど。あなたの朗読した小説のことでしたか、その小説は。」

~~~Jane. As if the writing of women did not display the greatest powers of mind,

「女性の書いたものなど、大きな魂の力などない、」

 knowledge of human nature, the liveliest effusions of wit and humour and the best-chosen language imaginable?

「人間の性格についての知識もないし、ウイットもユーモアもからつきし。それに表現の言葉だつて、とても読めたものでもない・・・」

    能美武功  7月11日

 

 

Becoming Jane 021

~~~Tom. Was I deficient in rapture?

「うつとりしなかつたかな、僕は。」

~~~Jane. In consciousness.

「意識の底ではね。」

~~~Tom. It was... It was accomplished.

「ああ、あれは・・・あれは良い出来だつたよ。」

~~~Jane. It was ironic.

「皮肉、皮肉ね、あの作品。」

(ジェイン、さつさと去つて行く。トム、少しためらふが、去つて行くジェインに、大きな声で)

~~~Tom. And you're sure I've not offended you?

「それで君、本当に、怒つてない?」

~~~Jane. Not at all.

「全然。」

\\

(ダンスパーティーの会場。司会の男、杖で床を叩き、客を注目させ)

~~~司会. My lords, ladies and gentlemen, the Grand Vizier's Flight.

「会場の紳士、淑女、諸氏、グランド・ヴィズィエ・フライトは・・・」

(フロアー。ヘンリーがイライザにお辞儀をしてダンスに誘ふ)

~~~Henry. May I have the honour?

「このダンス、お願ひしても・・・?」

~~~Liz. How kind, cousin.

「あら、親切ね、ヘンリー。」

(ウィズリー、おずおずと、ジェインをダンスに誘ふ)

~~~Wisley. Miss Austen.

「ミス・オースチン。」

~~~Jane. Mr Wisley.

「ミスター・ウィズリー。」

~~~Wisley. May I have the pleasure of this next dance?

「次のダンス、お願ひできますか?」

    能美武功  7月12日

 

 

Becoming Jane 022

(玄関。馬車着く。馬車の中にルースィーとトム)

~~~LUCY: Oh, no, we're so late.

「あら、まあ。私たち、遅刻だわ。」

~~~MRS LEFROY: Take care.

「気をつけて。」

(ルースィーが馬車を降りるのを、トム、助けるので)

~~~Lucy. Oh, thank you, Tom.

「ああ、有難う、トム。」

~~~LUCY: Hurry.

「ヘンリー。」

~~~MRS LEFROY: Lucy.

「ルースィー。」

(ルースィー、イライザ、ヘンリー、トム、会場(上の階)に来る。上からフロアーを眺める)

(ジェイン、踊つてゐて、ウィズリーに足を踏まれる。ジェイン、「アッ」と、大きな声をあげる)

~~~WISLEY: Oh! I am mortified. I practised, but it won't stick.

「あつ! 失礼しました。練習はしたのですけど。まだ身についてゐなくて。」

(ジェイン、階上を見る。トムがゐる)

~~~HENRY: What a lovely pair they make.

「なかなか良いペアーだな、あれは。」

(そこにジェインが来たので)

~~~Henry. Ah, Sister.

「ああ、ジェイン。」

~~~ELIZA: What do you make of Mr Lefroy?

「ミスター・ルフロイが来てゐるわ。あなた、あの人をどう思つて?」

~~~JANE: We're honoured by his presence.

「光栄ですわ、来るなんて。」

~~~Eliza. You think?

「あら、あなた、さう思ふ?」

~~~Jane. He does, with his preening, prancing, Irish-cum-Bond-Street airs.

「ええ、光栄。めかし込んだ、威張り腐つた、アイルランド風、ボンド街風、出立(いでたち)の男。」

(ヘンリー、妹をたしなめて)

~~~Henry. Jane.

「おいおい、ジェイン。」

~~~Jane. Well, I call it very high indeed, refusing to dance when there are so few gentleman. Henry, are all your friends so disagreeable?

「全くいい気なものよ、男性が少ないといふのに、踊りもしないで。ヘンリー、あなたの友達つて、みんなああいふ調子なの?」

(ヘンリー、そこにトムが来たのが見えるので、ジェインに気づかせるやうに)

~~~Henry. Jane.

「ジェイン。」

(と言うが、ジェイン、それに気づかない)

    能美武功  7月13日

 

 

Becoming Jane 023

~~~Jane. Where exactly in Ireland does he come from, anyway?

「トムつて、アイルランドのどこから来たの?」

(トム、ジェインの前に来て)

~~~Tom. Limerick, Miss Austen. I would regard it as a mark of extreme favour if you would stoop to honour me with this next dance.

「リメリックからです、ミス・オースチン。次のダンスをお願ひできれば、実に光栄ですが。」

(COUNTRY DANCE MUSIC PLAYING)

(ジェインとトム、踊り始める)

~~~Tom. Being the first to dance with me, madam, I feel it only fair to inform you that you carry the standard for Hampshire hospitality.

「私はここでのダンスはこれが初めてです。どうやら、あなたはこのハンプシャーでの礼儀をきちんと守つてゐるやうにお見受けしました。」

~~~Jane. Ah, then your country reputation depends on my report.

「すると、あなたのお国でのハンプシャーの評判は、私の行動に関はるといふことですのね。」

This, by the way, is called a country dance, after the French, contredanse.

「ついでですけど、これは、カントリー・ダンスと呼ばれてゐます。フランス語のコントル・ダンスの発音を真似たのです。」

Not because it is exhibited at an uncouth rural assembly with glutinous pies, execrable Madeira and truly anarchic dancing.

「野暮な田舎の集り、ねばねばしたパイ、まづいマデイラワイン、全く品のない下卑た踊り、を、指して言つてゐるのではないの。(発音だけ、真似は)」

~~~Tom. You judge the company severely, madam.

「このあたりの風物を厳しい目で見てゐますね、あなたは。」

~~~Jane. I was describing what you'd be thinking.

「あなたが考へてゐらつしやることを、私が表現したまでですわ。」

~~~Tom. Allow me to think for myself.

「私が考へることは、私に任せておいて下さらないと。」

~~~Jane. Gives me leave to do the same, sir, and come to a different conclusion. Will you give so much to a woman?

「そのことは私にも許して戴かないと。たとへ結論は違つたものになつても。あなたはそれを、女性にお許しになるのかしら。」

~~~Tom. It must depend on the woman and what she thinks of me.

「それはその女性によりますね。そして、その女性が私のことをどう思つてゐるかによります。」

    能美武功  7月14日

 

 

Becoming Jane 024

~~~Jane. But you are above being pleased.

「でも、あなたが気に入る女性なんてゐないでせう?」

~~~Tom. And I think that you, miss, what was it?

「エーと、それで、ミス・・・何でしたつけ?」

~~~Jane. Austen. Mr?

「オースチン。ミスター・・・?」

~~~Tom. Lefroy. I think that you, Miss Austen, consider yourself a cut above the company.

「ルフロイ。私の想像ではですね、ミス・オースチン、あなたは自分のことを、他に超絶する存在だと思つてゐるやうですね。」

~~~Jane. Me?

「私が?」

~~~Tom. You, ma'am, secretly.

「さうです、こつそりと。」

\\

(少し経つ。音楽が終り、みんな拍手。)

~~~Mrs. Austen. How many times did you stand up with that gentleman, Jane?

「ジェイン、あの紳士とあなた、何度踊つたの?」

~~~LUCY: Was it twice?

「二度?」

~~~Henry. Twice would have been partial. Thrice would have been absolutely...

「二度でも、少し気があることになるな。三度だつたら、完全に・・・」

~~~LUCY: Flagrant.

「その匂ひがするわ。」

~~~Henry. Careful, Jane, Lucy is right. Mr Lefroy does have a reputation.

「ジェイン、気をつけろよ。ルースィーの言ふ通りだ。ミスター・ルフロイは評判の男だぞ。」

~~~Jane. Presumably as the most disagreeable...

「さうね、一番鼻持ちならない、といふ評判ね。」

    能美武功  7月15日

 

Becoming Jane 025

(ジェインの部屋。ジェイン、手紙を書きながら)

~~~Jane. "...insolent, arrogant, impudent, insufferable, impertinent of men." Too many adjectives.

「厭な奴・・・生意気で、横柄で、恥知らず、やりきれない、傲慢な男・・・形容詞が多過ぎ。」

(ジェイン、形容詞を削る。)

\\

(カッサンドラ、ジェインからの手紙を開く。穴あきの手紙)

~~~Cassandra. What is she trying to say?

「ジェインつたら、何が言ひたいの?」

\\

(野原。クリケット。トム、ピッチャー。トム、投げる。ヘンリー、打つ)

~~~Tom. On your toes, gentlemen. No singles.

「走れ、走れ・・・」

(GRUNTS)

(ALL CHEERING)

~~~Tom. Bowler's end, bowler's end.

「バッター、終り・・・終りだ。」

~~~MAN 1: Again!

「まだまだ。」

~~~MAN 2: Run for more.

「走れ、走れ。」

(観客席。中にイライザ、いる)

~~~Eliza. I never feel more French than when I watch cricket.

「クリケットを見てゐると、自分がフランス人だなつて、つくづく思ふわね。」

~~~Tom. Out.

「アウト!」

~~~審判. Not out.

「アウトぢやない。」

~~~Tom. No?

「セーフ?」

~~~審判. No.

「さう、セーフ。」

~~~MRS AUSTEN: Is he out?

「ヘンリーは、アウト?」

~~~Jane. I begin to suspect you're flirting with my brother, cousin.

「(イライザに)私、疑ひ始めたわ、あなた、私の兄にちよつかいを出してゐるんぢやない?」

~~~Eliza. Flirting is a woman's trade. One must keep in practice.

「ちよつかいを出すのは、女の権利よ。少しは練習しておかなくちや。」

    能美武功  7月16日

 

Becoming Jane 026

~~~Tom. You're gone.

「これでアウトだ。」

~~~MAN: Well played, Tom.

「よくやつた、トム。」

~~~Jane.(ジョンに)We're depending on you.

「さあ、あなたが頼りよ。」

~~~MRS AUSTEN: Oh, it's Mr Warren's... turn.

「次はミスター・ウォレンね。」

~~~MAN: Best of luck!

「がんばれ。」

~~~Man2. John Warren!

「ジョン・ウォレン!」

~~~MAN: Good luck, Mr Warren.

「がんばれ、ジョン・ウォレン。」

~~~Jane. John never was very good, though.

「でも、ジョン、あまりいいバッターぢやないから。」

~~~MAN: Easy!

「落ち着いて!」

(ジョン、打つ)

~~~MAN: Run, Warren, run!

「走れ、ウォレン!」

~~~MAN 1: Quickly, hurry!

「早く、早く!」

~~~MAN 2: Run!

「走れ!」

~~~Man1. Jolly good show!

「やつたぞ!」

~~~Man2. Watch.

「あつ・・・」

~~~UMPIRE: You're out.

「アウト!」

    能美武功  7月17日

 

Becoming Jane 027

~~~Tom. Yah!

「よーし!」

~~~UMPIRE: You're gone, Mr Warren.

「ミスター・ウォレン、君はアウトだ。」

~~~John. Oh, dear.

「あらあら。」

~~~Lucy. Prodigious, Tom, prodigious.

「トム、ファインプレー、ファインプレー。」

(観客の笑ひ)

~~~Tom. Thank you, Warren. On your way.

「有難う、ウォレン。では、どうぞ。」

~~~MAN: Same again, Tom.

「もう一人、アウトに打ち取れ、トム。」

~~~MRS AUSTEN: Well done, Mr Warren.

「ミスター・ウォレン、ナイスプレーよ。」

~~~John. Bad ball. It's a terrible wicket. I hope you're not too disappointed, Miss Austen.

「悪いたまだつたのに。まづいバッターだつた。ミス・オースチン、あなたをがつかりさせてしまひましたね。」

(ジョン、バットをウィズリーに渡しながら)

~~~John. Four more to win, Wisley.

「ウィズリー、後、頼むぞ。」

(ウィズリー、打つ気なし。ジェイン、バットを取り、バッターボックスへ進む)

~~~MAN 1: Who's next?

「次は誰だ?」

~~~MAN 2: Come on!

「早く出ろ!」

~~~LUCY: She can't...

「無理よ、女ぢや・・・」

~~~Mrs. Austen. Jane! What on earth are you going to do?

「ジェイン、あなた一体、何をやつてるの。」

    能美武功  7月18日

 

Becoming Jane 028

~~~WOMAN 1: Irrepressible.

「全く、やりたい放題・・・」

~~~WOMAN 2:  she can.

「でも、ジェインなら出来るわ。」

(CROWD APPLAUDING)

~~~MAN 1: Move in!

「よーし、しまれ!」

~~~MAN 2: Go easy, Tom.

「トム、気楽に行け。」

~~~MAN 3: Be gentle, Lefroy!

「優しくな、ルフロイ!」

(トム、緩い球を投げる。ジェイン、打つ)

(ALL EXCLAIM)

~~~Man1. Run, Jane, run!

「走れ、ジェイン、走れ!」

~~~Man2. Move!

「行け行け。」

~~~Man3. Run!

「走れ!」

~~~Man1. Only four more to win.

「あと四点だ、それで勝てるぞ。」

~~~MAN: Bowler's end! Move yourself, you lout!

「ピッチャーの油断だ。走れ走れ。」

~~~MAN: One more!

「もうあと一点。」

~~~WOMAN: Quickly!

「早く!」

~~~Man2. Go, go, go!

「行け行け。」

~~~UMPIRE: Not out.

「セーフ。」

    能美武功  7月19日

 

 

Becoming Jane 029

~~~Man3. Bad luck, Lefroy.

「運が悪かつたな、ルフロイ。」

~~~Henry.(ジェインと抱き合って)See?

「やつたぞ!」

~~~WOMAN: She was so good.

「やるものね、ジェインは。」

~~~Tom.(ジェインに)You've played this game before?

「クリケット、やつたことあるんだね?」

~~~Henry. No choice, you see. She was raised by brothers. Time for a swim, I think.

「しかたなく。男の兄弟で育つたからね。さあ、泳ぎの時間だ。」

~~~MRS AUSTEN: Well played, Henry.

「ナイスプレーよ、ヘンリー。」

~~~Henry. I dedicate our victory to La Comtesse de Feuillide. Now, there's a decent bit of river over the hill.

「この勝利は、ラ・コンテッス・ドゥ・フォイヤッドに捧げるぞ。丘を越えたところに泳ぐのに最適な川がある。」

~~~Tom. Oh, yes?

「さう?」

(トムとヘンリー、駆け出す)

(ジェインとイライザ、それを追う)

~~~Mrs. Austen. Careful!

「気をつけて。」

~~~Henry. Come on, let's go!

「さあ、行くぞ!」

~~~Tom. Wait!

「待つて。」

~~~Henry. Not this time, Lefroy.

「今度は待てないぞ、ルフロイ。」

~~~Tom. Huh? You think not?

「エツ? 今度は待たない?」

(ヘンリーとトム、素っ裸で水に飛び込む。ジェインとイライザ、その後ろ姿を見て、近づくのを諦める)

    能美武功  7月20日

 

Becoming Jane 030

(ミスィズ・ルフロイ、ルースィー、イライザ、ジェイン、玄関に坐って、狩の人(ミスター・オースチンと下男)を待つ)

(犬の吠える声)

~~~Mr. Austen. Down, boy.

「(犬に)静かに。こら。」

~~~Lucy. Father, have you seen Tom?

「お父さん、トムを見かけなかつた?」

~~~Mr. Austen. No, Lucy, I've not.

「ああ、見てないね。」

(ルースィー、どこかへ走り去る)

~~~Mrs. Lefroy. Besotted. Natural enough at 15.

「しやうのない子ね。15歳ではあんなものかもしれないけれど。」

~~~Eliza. Love and sense are enemies at any age.

「恋と分別は、敵よ、いくつになつても。」

~~~Jane. Mrs Lefroy, may I explore your library?

「ミスィズ・ルフロイ、お宅の図書室を拝見させて下さいませんか?」

~~~Mrs. Lefroy. Of course.

「ええ、どうぞどうぞ。」

(ジェイン、奥に入る。ミスィズ・ルフロイ、イライザに)

~~~Mrs. Lefroy. Lucy would marry him tomorrow, and what a terrible husband he would make.

「ルースィーつたら、明日にでもあの子(トムのこと)と結婚したい勢ひ。ひどい夫になるのは分つてゐるのに。」

~~~Eliza. I suppose you mean his reputation. Experience can recommend a man.

「あの人の評判からさう言つてゐるのね。でも、経験ですからね、男が出来て行くのは。」

(ジェイン、書棚を見ていると、男の声。覗き見ると、トムが本を読んで笑つてゐるところ。こつそり逃げようとすると、トム、出て来て、呼びかける)

~~~Tom. Miss Austen.

「ミス・オースチン。」

~~~Jane. Oh, Mr Lefroy. And reading.

「あら、ミスター・ルフロイ。読書中でしたの?」

~~~Tom. Yes. I've been looking through your book of the wood.(このyour はあなたの本、といふことではなく・・・何故ならこれはルフロイ家の書斎だから・・・君の好きな、ぐらゐの意味)Mr White's Natural History.

「このあたりのことを書いてある本がないかと思つて。ミスター・ホワイトの自然に関する本ですよ。」

~~~Jane. Oh. Well, how do you like it?

「あら。お気に召して?」

~~~Tom. I cannot get on. It is too disturbing.

「なかなか先に進めなくて。邪魔が多いんですよ。」

~~~Jane. Disturbing?

「邪魔・・・ですつて?」

    能美武功  7月21日

 

Becoming Jane 031

~~~Tom. Mmm. Take this observation. (CLEARS THROAT)

「ムムム・・・ この観察記録はどうでせうね。(と空咳をする)」

"Swifts on a fine morning in May, flying this way, that way, "sailing around at a great height perfectly happily.

「五月のある朝早く、家を出て散歩。あちらこちらと歩きまはる。幸せそのものだ。」

Then... "Then one leaps onto the back of another, grasps tightly,

「すると・・・するとその時、後ろから別の人間がとびかかり、散歩の人物を背中から抱きしめる」

"and forgetting to fly, they both sink down and down in a great, dying fall, "fathom after fathom, until the female utters..."

「そして、飛ぶことを忘れ、二人は下へ下へと沈む。偉大な落下だ、これは。何メートルも何メートルも下へ・・・そしてつひに女性は声を上げる・・・」

~~~Jane. Yes?

「それで?」

~~~Tom. "...the female utters a loud, piercing cry "of ecstasy." Is this conduct commonplace in the natural history of Hampshire?

「女性は大きな、布を引きちぎるやうな、声を出す、恍惚の・・・。かういふ行動は、ハンプシャーの自然の中では普通のことなのですかね。」

(ジェイン、ぐつと詰る)

(トム、本を机の上に投げる)

~~~Tom. Your ignorance is understandable since you lack... What shall we call it? The history?

「あなたの無知は、理解できますよ。だいたいあなたには、欠けてゐるものが・・・さう、何て言へばよいか・・・歴史が欠けてゐるとでも?・・・」

~~~Jane. Propriety commands me to ignorance.

「礼儀ですわ。礼儀が無知を強いてゐるのです、私に。」

    能美武功  7月22日

 

Becoming Jane 032

~~~Tom. Condemns you to it and your writing to the status of female accomplishment.

「さう、その通り。君にそれを強ひ、君の書くものを、女性の達成程度のものに留めさせてゐるんだ。」

 If you wish to practise the art of fiction, to be the equal of a masculine author, experience is vital.

「もし君が、フィクションの技術を学ばうといふのなら、男性作家と同じ位置に立たねばならない。そこでは経験が必須不可欠なのだ。」

~~~Jane. I see. And what qualifies you to offer this advice?

「分つたわ。それで、この忠告を私になさるそのご本人に、どういふ資格があると仰るの?」

~~~Tom. I know more of the world.

「君よりは世間を知つてゐると思つてね。」

(ジェイン、皮肉に笑ふ)

~~~Jane. A great deal more, I gather.

「ずつとずつと、多く、ね。」

~~~Tom. Enough to know that your horizons must be... widened by an extraordinary young man.

「君の常識の地平線が、非常に若い男性によつて広げられるべきだ、と、理解できる程度には、(僕は経験を積んでゐる)。」

~~~Jane. By a very dangerous young man, one who has, no doubt, infected the hearts of many a young...Young woman with the soft corruption...

「非常に若い男性・・・つまり、非常に危険な男性によつて広げられるべきだ、といふことね。若い、淫らな大勢の女性によつて、その心を蝕(むしば)まれてゐる男性によつてね。」

~~~Tom. Read this and you will understand.

「これを読むといい。さうすれば、君にも分る。」

(と、本を渡し、お辞儀。ジェイン、本を受け取つて、お辞儀)

(本はフィールディングの「トム・ジョウンズ」)

    能美武功  7月23日

 

Becoming Jane 033

(ジェインの部屋。ジェイン、その本を読んでゐる)

~~~Jane. "When the philosopher heard that the fortress of virtue had already been subdued, "he began to give a large scope to his desires.

「(本の朗読)その哲学者(これは哲学者でも何でもない、ただの若者)が、美徳の砦(とりで)はもう既に下火になつてゐると聞いたとき、彼は自分の欲望に大きく場所を与へ始めた。」

"His appetite was not of that squeamish kind which cannot feed on a dainty - "because another..."

「彼の食欲は、しかつめらしい行儀のよい類(たぐひ)・・・美味しいだけのもの・・・では、もうとても満たすことはできなかつた。何故なら・・・」

- TOM: "Another has tasted it."

「(トムの声が)他人が既に、それを味はつてしまつてゐたからである。」

~~~Jane. He's not tasting this dainty.

「彼は、この美味しさは、味はつてゐないのよ。」

~~~Mrs. Austen. What, dear?

「ジェイン、あなた今、何て言つたの?」

(ジェイン、慌てて本を閉ぢる)

(ジェイン、挿絵を見る。女が男に襲はれてゐる絵)

\\

(夜。ジェイン、読み続ける)

~~~JANE: "...nor had her face much appearance of beauty. "But her clothes being torn from all the upper part of her body..."

「彼女の顔もそれほど食欲をそそるやうなものではなかつた。しかし、彼女の衣服は、上半身の部分がすつかり破れてゐた。」

~~~TOM: "...her breasts, which were well formed and extremely white, "attracted the eyes of her deliverer, and for a few moments they stood silent..."

「その胸は、形がよく、とても白かつた。そして、同行者の目を引いた。そして数秒、二人は、黙つてじつと立つてゐた。」

~~~JANE: "...and gazing at each other."

「お互ひに見つめ合つて。」

    能美武功  7月24日

 

 

Becoming Jane 034

(日曜日。教会。ミスター・オースチン、礼拝客達と握手)

\\

(河のほとり。トム、立つてじつと河を見てゐる。そこにジェイン、やつて来る)

~~~Jane. I have read your book.

「あの本、読みましたわ。」

(トム、振返り、お辞儀。ジェインもお辞儀)

~~~Jane. I have read your book and disapprove.

「読んで、そして認めませんでした。」

~~~Tom. Of course you do. But of what? The scenes? Characters? The prose?

「それはさうでせう。でも、認めない部分はどこ? 題材? 登場人物? 書き方?」

~~~Jane. No, all good.

「いいえ、それは全部合格。」

~~~Tom. The morality?

「道徳?」

~~~Jane. Flawed.

「ええ。傷があるわ。」

~~~Tom. (LAUGHING) Well, of course, it is. But why? Vice leads to difficulty, virtue to reward. Bad characters come to bad ends.

「それはさうだ。でも、何故? (あの小説では)悪徳は困難を呼ぶ(やうに出来てゐるし)美徳は報酬をもつて報はれる。悪い人物は不幸な終を遂げる。」

~~~Jane. Exactly. But in life, bad characters often thrive. Take yourself.

「さう。でも、実人生では、悪い人物は栄えます。ご自分を振り返つて御覧なさい。」

(トム、笑ふ)

~~~Jane. And a novel must show how the world truly is, how characters genuinely think, how events actually occur.

「そして、小説は、実の社会が実際にどう動いてゐるかを示さねばなりません。登場人物の本当の気持、実際の事件がどうなつて行くのかを。」

A novel should somehow reveal the true source of our actions.

「小説は、私たちの行動の本当の源を明らかにすべきなのです。」

~~~Tom. What of my hero's feelings?

「で、あの小説の主人公の気持は?」

~~~Jane. Well, it seems to me, sir, that your hero's very vigorous feelings caused him and everyone connected with him a great deal of trouble.

「あの主人公の激しい気質が、あの人自身にも、あの人に関はる全ての人にも、随分面倒なことを引き起こしてゐるやうに思へましたわ。」

    能美武功  7月25日

 

 

Becoming Jane 035

~~~Tom. Ah, well, if the book has troubled you...

「ああ、この本が気に入らなかつたのなら・・・」

(と、本をジェインから取る)

~~~Jane. Oh, but an orphan must know trouble.

「でも、孤児といふものは、面倒事を知るのですわ、結局。」

(と、本を取返す。そこへルースィーがやって来て)

~~~Lucie. What sort of trouble?

「何? 面倒事つて。」

~~~Jane. All sorts of trouble.

「面倒事だよ、あらゆる種類のね。」

(と、ジェイン、去る。トムも去る)

\\

(トムとルースィー、手を繋いでゐる。その横にジェイン)

(ラヴァトンの市。大勢の人が出てゐて賑やか)

~~~Lucie. Laverton Fair. Vastly entertaining. Monstrous good idea, Jane.

「ラヴァトンの市よ。面白いことが一杯。小説にいいヒントになるわ、ジェイン。」

~~~Tom. Yes, Miss Austen, not exactly your usual society, I'd say.

「さうだよ、ミス・オースチン、君の得意な分野でないところが沢山・・・」

~~~Jane. Show a little imagination, Mr Lefroy.

「想像力を働かせるのね? ミスター・ルフロイ。」

(祭の賑やかな光景。出し物の人達。ルースィー、ジェイン、トムに、出し物の人達、いたづらもする)\\

~~~Jane. Trouble here enough.

「ここでもう、面倒事だわ、早くも。」

~~~Tom. And freedom, the freedom of men. Do not you envy it?

「それに自由。男の自由。君、うらやましくない?」

~~~Jane. But I have the intense pleasure of observing it so closely.

「間近にそれを見るのは私、楽しいわ。」

(二人、ボクシングをやつてゐるところへ来る)

~~~Tom. Ah. Now, there's a fool, to go to it with a professional.

(ジェインに) You know about this, of course.

「やれやれ、プロ相手にやるなんて、馬鹿だよ。君、これ、何か知つてるね?」

~~~Jane. Of course. Yes, a vastly fashionable pastime in London.  Beating a man to a pulp.

「ええ、勿論。ロンドンで今、ひどく人気のある暇つぶしね。男をのして、パルプにするつて言ふ。」

(トム、素人の方が、ただ殴られているのを見て、怒る。自分が出ようと服を脱ぎ始める。ジェイン、驚いて)

~~~Jane. What are you doing?

「あなた、何をしてゐるの。」

    能美武功  7月26日

 

 

Becoming Jane 036

~~~観客1.  Mr Lefroy, stop!

「ミスター・ルフロイ、止めとけ。」

TOM: Make way!

「そこをあけて!」

(トム、プロとボクシングを始める)

~~~Jane. Stop!

「止めて!」

~~~レスラー. Let us see how you fare against me, sir.

「おお、俺にかかつてくるつもりか。見てやらうぢやないか。」

~~~観客.(分けて入って)Coming through.

「止めろ。」

~~~Henry. Five shillings on the gent. Who will take it? You, sir? That's the ticket.

「紳士の方に5シリング賭けるぞ。誰か対抗する者は? どうです? これが賭札。」

~~~Tom. Have that.

「喰らへ!」

(うまくトムのストレートが入る)

~~~Henry. (賭けに乗つてきた人に)Thank you.

「有難う。」

~~~観客. Go on, hit him!

「やれやれ、やつちまへ。」

~~~声援. Come on, Lefroy, hit him, man!

「ルフロイ、がんばれ!」

~~~Jane. Tom, you must stop.

「トム、止めて!」

~~~声援. Come on, Lefroy!

「やれやれ、ルフロイ!」

~~~Tom.(倒れた敵に)Up, sir.

「さ、起きて。」

~~~Lucy. Tom!

「トム!」

(トム、呼ばれたので、ルースィーの方を見る。敵、起上り、トムを殴る。トム、ダウン)

    能美武功  7月27日

 

Becoming Jane 037

~~~Jane.(非難の声)Lucy.

「ルースィー。」

(EXCLAIMING)

~~~Henry. That's twice he's done that to me.

「あいつめ、これで二度目だぞ、僕を負けさせたのは。」

~~~Eliza. You spend money like water.

「あなた、金を湯水のやうに使ふのね。」

~~~Henry. I'm afraid it's damn low water with me. I'm afraid I'm short, sir.

「湯水のやうには行かないな。どうも足りない。」

~~~Eliza. Take it.

「さ、これで。」

(と、金を出してやる)

~~~Henry. How embarrassing.

「恐縮です。」

~~~歓声. Yeh!

「やー。」

~~~Jane.(倒れてゐるトムに)Mr Lefroy? Mr Lefroy? Mr Lefroy?

「ミスター・ルフロイ、ミスター・ルフロイ。」

(トム、気がついて)

~~~Tom. Was I deficient in propriety?

「僕はどうだつた? 礼儀に欠けてゐたかな?」

~~~Jane. Why did you do that?

「どうしてあんなことをしたの?」

~~~Tom. Couldn't waste all those expensive boxing lessons.

「ボクシングを習ふのに随分金を使つたのでね。無駄にしてはまづいと思つて。」

~~~Jane. Forgive me if I suspect in you a sense of justice.

「御免なさい。あなたには正義の観念がないと思つたりして。」

~~~Tom. (CHUCCLING) I am a lawyer. Justice plays no part in the law.

「(笑ひながら)僕は弁護士だ。法律と正義とは関係がないものでね。」

~~~Jane. Is that what you believe?

「それ、本当にあなた、信じてるの?」

~~~Tom. I believe it. I must. I beg your leave.

「信じてる。いや、信じなければならないんだ。失礼する。」

   能美武功  7月28日

 

Becoming Jane 038

(ジェインの家。父と母)

~~~. Her heart is stirred.

「ジェイン、彼に惹(ひ)かれてゐるやうだな。」

~~~. It's a summer squall. Mr Lefroy will soon be gone. And Mr Wisley will still be waiting, I hope.

「ただの、夏の嵐。ミスター・ルフロイはもうすぐロンドンに帰る。そしてミスター・ウィズリーはまだ待つてゐてくれるわ、きつと。」

~~~. The man's a booby.

「あいつは馬鹿だからな。」

~~~. Oh, he will grow out of that. And she could fix him with very little trouble. You could persuade her.

「そのうち賢くなるわよ。それに、あの人となら、ジェイン、暮しやすいわ。あなた、あの子を説得すればいいのよ。」

(ジェイン、この会話が聞こえる場所で本を読んでゐる)

~~~. To sacrifice her happiness? Jane should have not the man who offers the best price, but the man she wants.

「あの子の幸せを犠牲にするのか? ジェインは自分の気に入つた男と結婚しなきや駄目だ。ただ彼女のためにつくす、といふ男ぢや、あの子は満足しない。」

~~~. Oh, Mr Austen. Must we have this conversation day in and day out? We'll end up in the gutter if we carry on like this.

「あらあら、ミスター・オースチン、私たち二人、話といへばこればかり。こんなことを続けてゐたら、しまひには二進も三進も行かなくなるわ。」

\\

(別の日。オースチン家に、二頭立ての馬車が来る。母、それを見て、大声を上げて家に駆けこむ)

~~~MRS AUSTEN: Jenny! Mr Austen! Where are you?

「(女中を呼ぶ)ジェニー! ミスター・オースチン! あなた、どこ?」

(黒い手袋が家のベルを引く)

\\

(客間。Lady Gresham とウィズリーが客。ウィズリー、椅子がないので、立つてゐる)

~~~. So kind of you to return the call. Will you take a dish of tea, ma'am?

「訪問のお返しですのね。どうも有難うございます。お茶は如何ですか? マーム。」

~~~Lady Gresham. Green tea?

「緑茶?」

~~~. Brown, Your Ladyship.

「いいえ、紅茶です、ヨー・レイディーシップ。」

~~~Lady Gresham. Then no. Where is your youngest daughter?

「では、いりません。一番下の娘さんは?」

~~~. She's visiting the poor, ma'am.

「金のない家庭を訪問してゐるところですわ、マーム。」

        能美武功  7月29日

 

 

Becoming Jane 039

(しばらくして、母、二人の客を外に導く。そこへ丁度ジェインと(聾唖者の)ジョージ、帰つて来る。母、ジェインを見つけて)

~~~. Jane? Jane! At last. Lady Gresham and Mr Wisley have come to call. Where have you been?

「ジェイン、ジェイン。やつと。レイディー・グレシャムとミスター・ウィズリーがいらしてるのよ。あなた一体、どこにゐたの?」

(ジェイン、客に近づき、膝を曲げるお辞儀)

~~~Jane. Ma'am. Sir.

「マーム(と、グレシャムに)、サー(と、ウィズリーに)」

~~~Lady Gresham. Well, perhaps... Perhaps the young people would like to take a walk? I see there's a pretty little wilderness at the side of the house.

「エー、多分・・・若い二人は、散歩をしたいでせう。この家の脇に、小さな森があるのが見えました。あそこででも如何?」

~~~Jane. Excuse me.

「失礼します。」

(と、場をはづし、ベンチに腰かけ、何かを書き始める。)

~~~. Jane?

「ジェイン?」

~~~Lady Gresham. What is she doing?

「あの子、何をしてゐるんです?」

~~~. Writing.

「書き物を。」

~~~Lady Gresham. Can anything be done about it?

「何とかならないんですか?」

(実際、日本人の感覚からすると、ジェインの態度は随分ひどいですね)

\\

(しばらくして、ジェイン、ウィズリーと二人で歩き始める。)

~~~Wisley. Miss Austen, you may know that I have known you for some considerable time during my visits to Steventon.

「ミス・オースチン、私がこのスティーヴントンに来てから、あなたにお目にかかつて、随分経ちます。」

~~~Jane. The garden is so affecting in this season.

「この季節、ここの庭はとてもきれいですわ。」

~~~Wisley. Indeed. The impression you have given me has always...

「ええ。あなたが私に与へた印象は、常に・・・」

~~~Jane. The flowers particularly.

「それに、花がとてもいいんです。」

        能美武功  7月30日

 

 

Becoming Jane 040

~~~Wisley. What I'm trying to say is that I...

「わたくしが申しあげたいことは、その・・・」

I have a respectable property of 2,000 a year in addition to even greater expectations as Lady Gresham's heir, to which it may be indelicate to refer.

「わたくしは、年2000ポンドの収入と、レイディー・グレシャムの遺産相続人としての、それ以上の所得を有してゐるといふことです。こんなことを言ふのはまことにはしたないことですが。」

~~~Jane. Oh, indelicate, yes.

「はしたない・・・ええ、本当に。」

(ウィズリー、急に膝まづき、ジェインの左手を取り)

~~~Wisley. It's yours. If we marry, all of it, yours.

「それは全てあなたのものです。もし私たちが結婚したら、全部あなたのものです。」

~~~Jane. Mr Wisley...Your offer is most sincere, I can see, and gentlemanlike, and it honours me, truly. But for all you are, and all you offer, I... Yes.

「ミスター・ウィズリー・・・あなたの申し出は誠実なものですわ。私、分ります。それに、紳士的です。そして私にはとても名誉なことです。でも、あなたのその誠実さ、それに提供して下さるといふ全てのものがあつても、わたし・・・ええ・・・」

~~~Wisley. Sometimes affection is a shy flower that takes time to blossom.

「時々、愛情といふものは恥じらひのある花のやうなものです。花が咲くまで時間がかかる時もあります。」

(と、ウィズリー、お辞儀をして、去る)

\\

(別の日。母、ジェインと二人、歩きながら、不機嫌に)

~~~. Lying to tradesmen, mending, scratching, scraping. Endlessly, endlessly making do!

「商人には嘘をつき、繕ひ物、洗濯、炊事、何でもかんでもみんな・・・そしてそれが、果てしない・・・」

~~~Jane. I understand that our circumstances are difficult, ma'am.

「ママ、私、私たちの生活が厳しいことは分つてゐるわ。」

~~~. There is no money for you.

「あなたに残すお金などないの。」

~~~Jane. Surely something could be done.

「でも、何とかなるわ。」

(これを父親、立ち聞きしてゐる)

~~~. What we can put by must go to your brothers. You will have nothing, unless you marry.

「私たちが貯めることが出来るものは、みんなあなたの男の兄弟にしか残らない。あなたは結婚しなければ何もないの。」

~~~Jane. Well, then, I will have nothing. For I will not marry without affection, like my mother!

「それなら私、何もなくて生きるわ。私、愛情なしの結婚は厭だもの、私のお母さんのやうな。」

        能美武功  7月31日

 

 

Becoming Jane 041

~~~. And now I have to dig my own damn potatoes! Would you rather be a poor old maid?  Ridiculous, despised, the butt of jokes?

「それで私は今、この忌々しいジャガイモを掘らなきやならないの! あなた、オールドミスになりたいつていふの? 滑稽な、人から軽蔑される、道化になりたいつていふの?」

The legitimate sport of any village lout with a stone and an impudent tongue? Affection is desirable. Money is absolutely indispensable.

「村の男たちからいいやうに悪口を言はれ、石を投げつけられてもいいの? それは愛情はあれば望ましいわ。でもお金はどうしても必要なもの。」

~~~Jane. I could live by my...

「私生きて行けるわ、自分の・・・」

~~~. Your what?

「自分の何よ。」

~~~Jane. I could live by my...

「生きて行ける、自分の・・・」

~~~. Pen? Let's knock that notion on the head once and for all.

「ペンで? そんな考へ、その頭からすつかり取り出してしまふこと!」

(父、出てきて)

~~~. What's this? Trouble amongst my women? Come, take hands and there's an end.

「何だ一体。女同士で喧嘩か? さ、手をとつて。喧嘩は終にしよう。」

(と、母の手を取り、ジェインの手をとつて互いに握らせやうとする。が、ジェイン、去る)

~~~. Where are you going? Miss!

「どこに行くの、ジェイン!」

~~~Jane. To feed the pigs, ma'am.

「豚に餌をやるのよ。」

        能美武功  8月1日

 

Becoming Jane 042

(しばらくして、豚小屋の前。ジェイン、豚が餌を食べてゐるのを見てゐる。父、近づいて)

~~~. He could give you a splendid home. A comfortable life.

「素晴らしい家をお前にくれるだらがな、あれは。それに、快適な生活を。」

~~~Jane.(避難するやうに)Father.

「お父さん。」

~~~. Consider. This is likely to be your best offer.

「考へてみるんだな。これがお前に来る、最上の申込みだ、きつと。」

~~~Jane. Wisley?

「ウィズリーが?」

~~~. It is true, so far he has not impressed...

「まあ確かに、この時点まででは、あいつはお前に良い印象を・・・」

~~~Jane. A booby.

「馬鹿よ、あの人。」

~~~. He should grow out of that. Nothing destroys spirit like poverty.

「成長すればよくなるかもしれない。貧乏くらゐ人の精神を蝕むものはない。」

(と、父去る)

\\

(別の日。イライザとジェイン。ダンスパーティーのための着替へ中)

~~~Eliza. I saw Queen Marie Antoinette wear something the same at a ball once.

「マリー・アントワネットが舞踏会で、このやうなものを着てゐたのを私、見たことがあるわ。」

Am I making a show? I am, I know. What trouble we take to make them like us when we like them.

「私、見せびらかしをしてゐるのかしら。ええ、さうね、きつと。相手のことを好きになると、どんなことでもして、相手にに気に入つて貰はうとするものね、女は。」

~~~Jane. Henry? Eliza, my brother is much younger than you.

「ヘンリーのことを言つてゐるの? イライザ、私の兄はあなたよりずつと年下なんですよ。」

~~~Eliza. And poorer. He knows that I care for him sincerely.

「それに、貧乏。あの人、私が誠実にあの人のことを愛してゐるつて、知つてゐるのよ。」

~~~Jane. I know that he is handsome...

「それは兄はハンサムですけど・・・」

~~~Eliza. And the handsome young men must have something to live on as well as the plain.

「さう。そしてハンサムな男は、ブスな男と同じやうに権利があるの、お金を持つ権利がね。」

~~~Jane. You encourage him to take you for money?

「あなた、兄があなたのお金に釣られるのを奨励してゐるの?」

        能美武功  8月2日

 

Becoming Jane 043

~~~Eliza. Men do.

「だつて、男つてさういふものでせう?」

~~~Jane. That does not make it honourable.

「さうは言つても、それが名誉あるものとはならないわ。」

~~~Eliza. Well, I'm a sensible woman.

「私は用心深い女よ。(「あなた、金で私と結婚したんでせう」などとは決して言はない女よ、私は。)」

~~~Jane. I thank God I am not, by your description.

「有難いことに、私は、あなたの言ひ方を習へば、用心深い女ぢやないわ。」

~~~Eliza. If you were, you might have ascertained that your Irish friend has no money, not a penny and could not be expected to marry without it.

「さうらしいわね。もしあなたが用心深い女だとしたら、あなたは認めるでせうからね、あなたのアイルランドの友達は、文無し、一銭も持つてない、そして、金のない女とは結婚しない男だつてことを。」

Consider that at the ball tonight. In any event, he'll be gone tomorrow back to Bond Street where he can do no more harm.

「今夜のこのダンスパーティーでよく考へることね。どつちみちあの男は明日にはボンド街へ帰つて行くんだし、そこにゐさへすれば、彼は何の害も及ぼしはしないんですからね。」

\\

~~~.(ジェインに挨拶)Good evening, Miss Austen.

「今晩は、ミス・オースチン。」

\\

(ダンスの会場。大邸宅。ジェイン、馬車から降りる。ジェイン、屋敷に入る)

(レイディー・グレシャム、ゐる。ジェイン、お辞儀。グレシャム、冷たい目。)

(ジェイン、トムを捜す。が、ゐない。ウィズリー、近づいてくる。二人、お辞儀)

(その時音楽、始る。ジェインとウィズリー、組になる。踊る。ジェインの両親、それを見てゐる)

(トム、やつて来る。二人、踊る。嬉しさう。ジェイン、ウィズリー、トム、三人が組む。ジェイン、トムしか見ない。レイディー・グレシャム、不服さう)

(しばらくして音楽終る。トム、イライザの手をとり、どこかへ行く。が、結局ジェインのそばにくる)

        能美武功  8月3日

 

 

Becoming Jane 044

(ウィズリー、ジェインに近づき、手を取り、他の客に紹介する)

~~~Wisley. Miss Jane Austen.

「ミス・ジェイン・オースチンです。」

~~~Jane. Pleasure.

「はじめまして。」

~~~女の客の声. We're very honoured to be here at your aunt's ball.

「(ウィズリーに)叔母様のダンスパーティーに出席できて、私たち、大変光栄ですわ。」

~~~TOM.(ジェインの後ろから、ジェインに声をかける)You dance with passion.

「情熱をこめて踊つてゐましたね。」

~~~Jane. No sensible woman would demonstrate passion if the purpose were to attract a husband.

「嗜(たしな)みのある女性は情熱を見せないものですわ、それが夫を目的としたものなら、なほさら。」

~~~Tom. As opposed to a lover?

「恋人を目的としたものなら?」

~~~Jane. Rest easy, Mr Lefroy. I have no expectation on either account.

「どうか気持を落着けて、ミスター・ルフロイ。私はそのどちらにも希望がないのですから。」

~~~Tom. I did not mean to offend or hurt...

「気にさはるやうなことを言つてしまつたやうだ、失礼・・・」

~~~Jane. Oh, no, no, of course not.(ウィズリーに)Excuse me, I'm just over warm. Pardon me.

「いえいえ、全然。ちよつと失礼します。私、熱くなつてしまつて。席をはづします。」

(と、場をはづす。階段を降りると、ウォレンがゐて)

~~~Warren. Ah, Miss Austen.

「ああ、ミス・オースチン。」

~~~Jane. Excuse me.

「失礼。」

        能美武功  8月4日

 

 

Becoming Jane 045

(ジェインのゐるところに、兄のヘンリーとイライザ、話しながら近づいてくる。ジェインにその声が聞えてくる)

~~~HENRY: This is unbearable. My father is pressing for an early ordination, while my own inclination is to the scarlet of a captaincy in His Majesty's regulars.

「こいつはかなはないよ。親父は早く聖職につけといふんだ。僕の望みは、陛下の近衛部隊の士官なんだからね。」

But I do not have the money to purchase one.

「しかし、その地位を買ふ金が僕にはない。」

~~~Eliza. I do.

「私にはあるわ。」

~~~Henry. Well, that, of course is impossible.

「しかし、それは無理だ。」

~~~Eliza. Oh, Henry, do not disguise yourself, not to me.

「ああ、ヘンリー、あなた、自分を隠しちや駄目。少なくとも私には。」

Henry. The scarlet will suit you very well.

「ねえヘンリー、あなたには赤がとてもよく似合ふのよ。」

(玄関にレイディー・グレシャムが出てきて、ジェインに声をかける)

~~~Lady Gresham. Miss Austen? There you are.

「ミス・オースチン? ああ、あなた、そこにゐたのね。」

(と、手招きする。ジェイン、建物に入る)

~~~Lady Gresham. Miss Austen, I cannot believe I am obliged to have this conversation.

「ミス・オースチン、私、こんな話をしなければならないなんて、本当に信じられないぐらゐなんですよ。」

~~~Jane. Your Ladyship?

「一体、何なのでせう、ヨー・レイディーシップ。」

        能美武功  8月5日

 

 

Becoming Jane 046

~~~Lady Gresham. Mr Wisley's mother, my own dear sister, died young. I have no children of my own. I hope you never come to understand the pain of that condition.

「ミスター・ウィズリーの母親、この人は私の大事な妹ですが、は、若くして死んだのです。私自身には子供がありません。この悲しい事態を、あなたが理解して下さると大変嬉しいのですがね。」

Let us simply say my nephew's wishes are close to my heart, however extraordinary they may be.

「ただ、簡単にかう申しあげておきませう。今の私にとつては、あの甥がどんな滅相もないことを思ひつかうと、私には、そのことが大変大切なことに思へるのです。」

Well, your health seems robust. You have the usual accomplishments. Your person is agreeable.

「あなたのことですけど、身体は頑健のやうです、教養も身につけていらつしやる、人柄もよろしい。」

But when a young woman such as yourself receives the addresses from a gentleman such as my nephew, it is her duty to accept at once. But what do we find?

「さういふ女性が、私の甥のやうな紳士から結婚の申し込みを受ければ、通常は、すぐにそれを受入れるのが義務です。それが、どういふことになつたのでせう。」

~~~Jane. Independent thought?

「ずゐぶん、自由な思想の持主だと仰りたいのですね?」

~~~Lady Gresham. Exactly. My nephew, Miss Austen, condescends far indeed in offering to the daughter of an obscure and impecunious clergyman.

「その通り。私の甥はね、ミス・オースチン、どこの馬の骨とも知れぬ、文無しの牧師の娘に求婚するなんて、どれだけ自分を貶(おとし)めてゐるか、はかり知れないのですよ。」

~~~Jane. Impecunious? Your Ladyship is mistaken.

「文無しですつて? それは間違ひです、ヨー・レイディーシップ。」

       能美武功  8月6日

 

 

Becoming Jane 047

~~~Lady Gresham. I am never mistaken. Your father is in grave financial difficulties. But all is not lost. He has a daughter upon whom fortune has smiled.

「私の言うことにいつでも間違ひはないのです。あなたのお父様は、今重大な財政的な困難におちいつてゐます。しかし、全てが失はれたわけではありません。彼には運命が微笑みかけてゐる娘がゐるのです。」

(これで二人の会見は終る。ジェイン、憤然として、そして悲しさうに、階段を降りる)

(階段の上からそれをトム、見てゐる。母、そのトムに話しかける)

~~~. Mr Wisley is a good opportunity for Jane.

「ミスター・ウィズリーはジェインにとつて、有難い人なのよ、トム。」

(そこへルースィーも来て)

~~~Lucy. She should accept him at once. Do not you think?

「すぐにあの人を受入れるべきよ、ジェインは。あなた、さう思はない?」

~~~. Lucy, let us take some refreshments.

「ルースィー、何か飲みに行きませう。」

~~~Lucy. What? Mother.

「え? 今、何て?」

(二人、場を外す。トム、外へ出る。ジェインが噴水を見てゐる。トム、近づいて)

~~~Tom. I have learned of Mr Wisley's marriage proposal. My congratulations.

「ミスター・ウィズリーから申込まれたんだね。おめでたう。」

~~~Jane. Is there an alternative for a well-educated young woman of small fortune?

「財産のない、だけど、教養のある若い女性に、他の選択肢があるかしら。」

~~~Tom. How can you have him? Even with his thousands and his houses, how can you, of all people, dispose of yourself without affection?

「どうして君が彼を。あいつの何千ポンド、あいつの家、それ全部を寄せ集めたつて、君のやうな女性が、愛情なしにどうして自分を投げだすことが出来るつていふんだ。」

~~~Jane. How can I dispose of myself with it? You are leaving tomorrow.

「愛情のあるところに、どうして私、自分を投げだせるつていふの? あなたは明日ここを去るつていふのに。」

(ジェイン、トムに唇を寄せる。二人、キス。かなり熱く。終つて)

~~~Jane. Did I do that well?

「私、上手だつたかしら。」

       能美武功  8月7日

Becoming Jane 048

~~~Tom. Very, very well.

「上手。上手、上手、本当に。」

~~~Jane. I wanted, just once, to do it well.

「私、上手にしたかつたの、人生でただ一度だけでも。」

(男たちの声が近づいてくる。二人、そこから離れる)

~~~Tom. I have no money, no property, I am entirely dependent upon that bizarre old lunatic, my uncle. I cannot yet offer marriage.

「僕には金がない、財産もない。僕の人生は、あの、奇妙な年寄の気違ひ、僕の叔父、に頼りきりだ。僕はだから、結婚をまだ申込むことが出来ない。」

But you must know what I feel. Jane, I'm yours. Gah, I'm yours. I'm yours, heart and soul. Much good that is.

「でも、君には僕の気持は分つてゐるね、ジェイン。僕は君のものだ。ああ、何ていふことだ、僕は君のものなんだ、心も魂も。でも、これがいいんだ、この方が。」

~~~Jane. Let me decide that.

「私にそれを決めさせて。」

~~~Tom. What will we do?

「何をするつて言ふんだ?」

~~~Jane. What we must.

「しなければならないことを、よ。」

(カッサンドラの家。カッサンドラ、ジェインの手紙を読んでゐる)

JANE: "My dearest Cassandra, my heart has wings.  Doubts and deliberations are ended. 

「親愛なるカッサンドラ、私の心は翼を持つてゐます。疑ひ、それから、熟慮、そんなものは終つたの。」

Soon I shall escape the attentions of that great lady and her scintillating nephew.

「まもなく私、あの高邁な御婦人、そしてその光輝く甥の注目から、逃げることが出来るの。」

Eliza, Henry and I will join you at the coast, but we are obliged to break our journey in London.

「イライザ、ヘンリー、そして私の三人は、あなたに会ひに、お宅に行くわ。でも私たち、すぐにロンドンへ出発するの。」

       能美武功  8月8日

 

Becoming Jane 049

"Tom has cleverly secured an invitation to stay with his uncle, the judge.  Let us hope we can convince him of my eligibility. 

「トムは、うまく叔父さんを説得して、我々を彼の家に招待するやうにしたの。宿泊までこめて。その滞在中に、私がトムの伴侶として相応しい人物であることを認めさせやうとしてゐるの。」

Please destroy this disgraceful letter the moment you have recovered from your astonishment.

「あなた、驚いたでせう、こんな意地汚い手紙を見て。驚きが収まつたらすぐこの手紙は破り捨てて。」

Yours affectionately, and in haste, Jane."

「敬具、ジェイン。」

(上の手紙の朗読の間、イライザ、ヘンリーとジェイン、馬車でロンドンに着く映像)

(トムの叔父の家。階段から降りながら叔父、トムを呼ぶ)

~~~叔父. Tom! Our guests have arrived.

「トム、お客が着いたぞ。」

(トム、階上から手すりを滑り降り、叔父を追い越して下に着く)

~~~叔父. Decorum.

「礼儀を守れ。」

(と、トムを叱る。イライザに)

~~~叔父. Countess.

「カウンテス。」

(と恭しくお辞儀)

~~~Eliza. Sir.

「サー。」

~~~叔父. Welcome...

「よくいらつしやいました。」

~~~Tom. Madame le Comtesse.

「マダーム・ル・コンテッス」

(能美註。正しくは、マダーム・ラ・コンテッス、だが・・・)

(と呼び方を教へる。ジェイン、苦笑)

       能美武功  8月9日

 

 

Becoming Jane 050

~~~叔父. Madame le Comtesse. Seldom, too seldom, my house receives the presence of nobility.  And, of course, its friends. Please. Your stay is short.

「マダーム・ル・コンテッス。この家に貴族の御到来をお待ちするのは、実に稀なことで。そして勿論、その友人諸氏をお迎へするのも。どうぞ。御滞在が短くて残念です。」

There's not a moment to lose. My nephew has devised a plan of metropolitan amusement. Pleasure is, as you would say, Madame, his forte.

「一刻も無駄には出来ません。私の甥は、ロンドンでの楽しみをいろいろ計画してゐるやうですので。楽しみ、これはマダーム、この私の甥の「強み」でして。」

~~~ELIZA: Ah, is it?

「あら、さうですの?」

(食事の場面)

~~~叔父. Which battle was it, Tom?

「それは何の戦ひだつたんだ? トム。」

~~~Tom. Villers-en-Cauchies.

「ヴィレ・ザン・コーシーです。」

~~~叔父. Very good. Thousands slain. Served those Frenchies out. Oh. Saving your presence, ma'am.

「フン、さうだつたな。・何千人も死んだ。フランスの奴らを徹底的にやつつけた。ああ、失礼、マダーム。マダームのいらつしやる席で・・・」

~~~Eliza. Be not afraid of abusing the Jacobins on my account, Judge. They guillotined my husband.

「ジャコバン党のけちをつけるのは一向に構ひませんわ、裁判長様。連中は私の夫をギロチンにかけたのですから。」

~~~叔父. Oh, savages. Beasts. And his property?

「何といふ野蛮な。連中は獣(けもの)だ。それで、彼の財産は?」

~~~Eliza. Confiscated.

「没収です。」

       能美武功  8月10日

 

 

Becoming Jane 051

~~~叔父. A disaster.

「それは悲惨だ。」

~~~Eliza. Of course, by then, much of my wealth was portable, so...

「ええ、勿論。でも、私の財産は、持ち運び可能なものでしたので・・・(宝石類といふこと)」

~~~Jane. Yes, portable property is happiness in a pocketbook.

「ええ、持ち運び可能な財産、それは財布の中の幸せ。(お金、といふ意味と、財布さへあれば海外に持ち出せる、といふ意味)」

(笑ひ)

~~~叔父. Do I detect you in irony?

「それは皮肉かな?」

(イライザ、トム、ジェイン、顔を見合わせる・・・叔父が、不愉快な顔をしてゐるので。)

~~~叔父. It is my considered opinion that irony is insult with a smiling face.

「皮肉は、常に、微笑による軽蔑だ、といふのが私の意見だ。」

~~~HENRY: (LAUGHING) Indeed.

「ああ、なるほど。」

~~~Jane. No.

「それは違ひますわ。」

~~~叔父. No?

「違ふ?」

~~~Jane. No, irony is the bringing together of contradictory truths to make out of the contradiction a new truth with a laugh or a smile,

「ええ。皮肉は、矛盾する真実を二つ重ねて、その矛盾を新しい真実に照らして、笑ひ或は、微笑で迎へることです。」

and I confess that a truth must come with one or the other, or I account it as false and a denial of the very nature of humanity itself.

「その新しい真実は、どうしても、笑ひか微笑で迎へられなければなりません。もしそれで迎へられない時には、人間性それ自身の否定になるでせう。」

(笑ひ)

~~~Eliza. My cousin is a writer.

「私のいとこは、作家なのです。」

~~~叔父. Of what?

「どういふ本のです。」

       能美武功  8月11日

 

 

Becoming Jane 052

~~~Eliza. Jane?

「ジェイン、あなた、答へて。」

~~~Jane. Novels.

「小説の、です。」

~~~叔父. A young woman of family?

「普通の家庭の娘が?」

~~~Tom. Yes, uncle, and tomorrow we go and visit another, Mrs Radcliffe.

She keeps herself to herself, almost a recluse, but I know her husband through the law.

「ええ、叔父さん。僕らは明日、もう一人の女流作家、ミスィズ・ラドクリッフを訪ねる予定です。彼女は一人、家に引きこもつて隠遁者の生活を送つてゐます。私は法律の関係で、彼女の夫とつきあひがあるのです。」

~~~叔父. Who?

「彼女とは?」

~~~Henry. The authoress, Mrs Radcliffe.

「ミスィズ・ラドクリッフです。」

~~~Jane. As writing is her profession.

「書くことが彼女の職業ですから。」

~~~叔父. Her what?

「彼女の何、だつて?」

~~~Tom. (pound)500, uncle, for the last novel, The Mysteries of Udolpho.  And (pound)800, I believe, for her next.

「一番最近の小説では、500ポンドの収入でした。ユドルフォの探偵小説です。そして次の小説では、多分800ポンド。」

~~~Jane. The Italian.

「イタリアの話です。」

~~~叔父. Above (pound)1,000? The times, the times.

「二冊で千ポンド以上? いや、時代だな、時代だ。」

       能美武功  8月12日

 

Becoming Jane 053

(ラドクリッフ家。召使、玄関を開けると、トムとジェインがゐる)

\\

(ミスィズ・ラドクリッフとジェイン、話をしてゐる)

~~~Jane. You live so quietly. And yet your novels are filled with romance, danger, terror.

「ずいぶん静かな暮しをなさつてゐるのですね。それなのにお書きになる小説は、ロマンス、危険、恐怖でいつぱい。」

~~~Mrs. Radcliff. Everything my life is not.

「そのすべてが私の生活では、ないものなのです。」

~~~Jane. Apparently.

「どうやら、そのやうですわ。」

~~~Mrs. Radcliff. Of what do you wish to write?

「あなたはどういふものをお書きになりたいの?」

~~~Jane. Of the heart.

「人の心について。」

~~~Mrs. Radcliff. Do you know it?

「あなた、それを御存じ?」

~~~Jane. Not all of it.

「いいえ、まだ全部は。」

~~~Mrs. Radcliff. In time, you will. But even if that fails, that's what the imagination is for.

「そのうち、時間が経てば、お分りになるわ。でも、たとへ全部が分らくても、後は想像力が補つてくれます。」

~~~Jane. Your imagination has brought you independence.

「すると、想像力があなたに独立を与へてくれた、といふことになりますわね?」

~~~Mrs. Radcliff. At a cost to myself and to my husband. Poor William.

「ええ、でも、その代償は、私。そして夫、可哀想なウイリアムですわ。」

To have a wife who has a mind is considered not quite proper. To have a wife with a literary reputation nothing short of scandalous.

「精神を持つた妻を持つ、それは決してよいこととは思はれてゐないのです。文学的名声を持つてゐる妻を持つ、それは必ず醜聞を伴ふものなのです。」

       能美武功  8月13日

 

Becoming Jane 054

~~~Jane. But it must be possible? To live as both wife and author?

「でも、可能は可能なのでせう? 妻と作家、それを両立させることは。」

~~~Mrs. Radcliff. Oh. I think so. Though never easy.

「ええ、さう思ひますけど・・・でも、それは決して易しいものではないわね。」

(ジェインとトム、階段を降りる。それを見送るミスィズ・ラドクリッフ)

\\

(夜。叔父の家。ジェインとトム、階段を上る)

~~~Jane. Could I really have this?

「私、本当にここを持つことが出来るのかしら?」

(このthis は、この屋敷、のこと)

~~~Tom. What, precisely?

「ここ・・・つて、具体的には?」

~~~Jane. (LAUGHS) You.

「(笑つて)あなたのこと。」

~~~Tom. Me, how?

「僕のこと・・・?」

~~~Jane. This life with you.

「あなたとの生活。」

~~~Tom. Yes.

「さう・・・さうだ。」

(二人、キスしさうになる。)

(そのとき、階段の下から、ヘンリーとイライザ、上つてきて)

~~~HENRY: Lefroy.

「ルフロイ。」

(トム、キスできず、ため息をつく)

~~~Tom. He will be generous. I'm sure of it.

「叔父さんは許してくれるよ。きつと。」

~~~Jane. You'll speak with him?

「あなた、その話をするの?」

~~~Tom. Tomorrow, I promise. I really must say good night.

「うん。明日に。約束する。今はもう本当にお休みを言はなくちや。」

~~~Jane. Good night.

「お休みなさい。」

~~~Tom. Good night.

「お休み。」

(二人、足をまげるお辞儀。少し離れた時、トム、ジェインを呼び止めて)

~~~Tom. Miss Austen?

「ミス・オースチン?」

       能美武功  8月14日

 

Becoming Jane 055

~~~Jane. Yes?

「ええ、なーに?」

~~~Tom. Good night.

「お休み。」

(ヘンリーとイライザ、階段を上つてきて)

~~~Henry. You know, I think my mother is right. A husband, and the sooner, the better.

「ねえ、イライザ、僕はやはり母の言ふ通りだと思ふやうになりましたよ。ジェインには、できるだけ早く夫を決めてやる方がいいんです。」

\\

(ジェイン、寝床の中。目覚めて、部屋の蝋燭をつける)

(「高慢と偏見」の筋書きを書き始める)

~~~Jane. Five girls of little fortune."...sensibly and as warmly as a man

violently in love can be supposed to do.

「何の財産もない、五人の娘たち。」・・・それを解決できるのは、激しく恋におちた一人の男・・・「激しく」と言つても、ただ激しいのではなく、温かい気持、それに理解力を伴ふ・・・

Mr Wickham was the happy man towards whom almost every female eye was turned.

「ミスター・ウィッカムは、どんな女性の目をも引き付けることの出来る、幸せな男だつた。」

"...partial, prejudiced, absurd.

「偏見のある、一方的な、馬鹿な、見解・・・」

"Watch for the first appearance of Pemberley Woods.

「(女主人公、)ペンバリー・ウッズを初めて見る・・・」

"The happiness which this reply produced... "It will not do. My feelings will not be repressed."

「こんな答ができたら、どんなに幸せだらう・・・いえ、駄目。私の心を抑へてしまふことは出来ない・・・」

(通り。郵便配達人、叔父の家に手紙を運ぶ)

(召使、叔父の部屋にそれを持つて行く)

(トム、叔父の部屋で、叔父の来るのを待つてゐる)

(廊下では、イライザ、ジェイン、ヘンリーが、ベンチに坐つて待つてゐる)

(叔父、自分の部屋に入る)

~~~Tom. Good morning, sir.

「おはやうございます、叔父さん。」

~~~叔父. Good morning? Has the world turned topsy?

「お早いだと? 世界がひつくり返つたか?」

~~~Tom. Sir? trust the countess is enjoying her visit? I gather she is, sir. I...

「叔父さん。伯爵夫人はこの滞在を楽しんでいらつしやます。・・・ええ、きつと・・・」

~~~叔父. Fine woman, very fine woman.

「実にすばらしい婦人だ・・・実に・・・」

~~~TOM: Indeed. I'd hoped to discuss a certain matter.

「叔父さんに聞いて戴きたいことが、僕にはあるのです。」

       能美武功  8月15日

 

Becoming Jane 056

(ここで叔父、来た手紙を開け、読み始める)

~~~叔父. Your allowance is beyond negotiation.

「お前の遺産の取分の交渉は、無駄だ。」

~~~Tom. Now that you have had the opportunity to become acquainted with Miss Austen yourself, I am sure you will find, as I do, that she is a remarkable young woman.

「ミス・オースチンのことは、もうこれで十分お分りになつたと思ひます。私の評価もさうですが、叔父さんの彼女に対する評価も高いものであると思つてゐます。」

(叔父、「アー」と大声を上げる)

~~~叔父. This is an outrage!

「何といふ陰謀だ!」

~~~Tom. If you will allow me to speak, sir.

「叔父さん、僕に話させて下さい。」

~~~叔父. There is no need. This letter makes it absolutely clear.

「そんな必要はない。この手紙で十分明らかだ。」

~~~Tom. Letter?

「手紙ですつて?」

~~~叔父. Now I know what you were at down in Hampshire.

「これでお前がハンプシャーで何をやつてゐたか、はつきりした。」

(控の間のジェイン、ハッとして立上る。イライザ、微笑)

~~~Tom. It is from Steventon.

「その手紙、スティーヴントンからですね。」

~~~叔父. Is it true that you have practiced upon me with this chit?

「この私を欺かうとして、こんな計画をお前はたてたのだな?」

~~~Tom. I wished you to know the young lady. I wished to introduce her to your affections discreetly.

「私は、この若い婦人を、叔父さんによく知つて戴かうと願つたまでです。」

~~~叔父. Aye! Blind me with the rich widow and then insinuate that penniless little husband-hunter!

「さうさう。金持の未亡人をだしに使つてな。そして、文無しの夫漁(あさ)りの女を、さも金持であるかのやうに見せかけて、だ。」

       能美武功  8月16日

 

Becoming Jane 057

~~~Tom. Moderation, sir, I beg you!

「落着いて、叔父さん、お願ひです!」

~~~叔父. That ironical little authoress.

「皮肉たつぷりな、こまつしやくれた女流作家か。」

~~~Tom. I wished you to know her for yourself. I was certain her merit would speak for her. Consider, sir, my happiness is in your hands.

「彼女のことを、御自分の目で見て知つて戴きたかつたのです。彼女の長所は、自然に現れてくると思つたのです。どうか叔父さん、僕の幸福は叔父さんの手の中にあるのです。」

~~~叔父. Happiness? Damn it, nephew, I had rather you were a whore-mongering blackguard with a chance of reform than a love-sick whelp sunk in a bad marriage.

「幸福だと? いいかお前、私はな、お前が売春宿の紐にでもなつてくれた方がまだましなんだ、こんな恋のための結婚で、身を持ち崩す馬鹿者になるよりはな。」

(と、叔父、部屋を出る。控の間を通るが、三人の客に目もくれず、去る)

(ジェイン、部屋に入る)

~~~Tom. My uncle has refused to give his consent. The letter has done its work.

「叔父は同意してくれなかつた。あの手紙は本来の目的を達したやうだ。」

(あの手紙はウィズリー(或はグレシャム)によつて書かれたものと、トムも、観客も思ふやうに出来てゐますが、実はこの映画の終頃で、違ふことが分ります。)

~~~Jane. Who sent it? Lady Gresham?

「誰かしら、あの手紙。レイディー・グレシャム?」

~~~Tom. Or her nephew.

「か、ウィズリー。」

~~~Jane. They think that they can do what they like with us, but I will not accept this.

「あの二人、自分の思ひ通りにことが運ぶと思つてゐるんだわ。でも私、こんなことで負けはしない。」

~~~Tom. We have no choice.

「しかし、僕らにはもう打つ手はない。」

~~~Jane. Of course we do.

「いいえ、まだあります。」

~~~Tom. I... I depend entirely upon...

「僕は完全に頼りきりなんだ・・・」

~~~Jane. Upon your uncle.

「叔父さんにね。」

~~~Tom. Mmm.

「うん。」

       能美武功  8月17日

 

 

Becoming Jane 058

~~~Jane. And I depend on you. So what will you do?

「そして私はあなただけが頼り。すると私たち、どうなるの?」

~~~Tom. What I must. I have a duty to my family(ここまで聞いてジェイン、後ろを向く), Jane. I must think of them as well as...

「僕は自分の義務を果す。僕には家族への義務がある。ジェイン、僕は家族のことを考へなければ・・・勿論君のこともだが・・・」

~~~Jane. Tom... Is that... Is that all you have to say to me?

「トム・・・あなた・・・あなた、私に言へること、それだけなの?」

(トム、何も言はない)

~~~Jane. Goodbye, Mr Lefroy.

「さやうなら、ミスター・ルフロイ。」

(ジェイン、去る)

(トム、二階から下を見てゐる。ジェイン、イライザ、ヘンリー、馬車に乗るところ。ジェイン、上を見上げない。)

(三人馬車に乗る)

(馬車の中。悲しい顔のジェイン)

\\

(裁判所。叔父は裁判長。かつらの上から裁判長の帽子をかぶる)

(宣告を読上げる)

~~~叔父. The sentence of this court is that you be taken to the place whence you came

「この法廷の判決は下記である。君は今から、ここに引出されてきたところ(つまり監獄)へ戻る。」

and thence to a place of execution,

「そしてそれから、死刑執行の場へ行く。」

and that you be there hanged by the neck until you are dead. May the Lord have mercy on your soul.

「そしてそこで、君の首が絞められ、君が死亡するまで吊される。主が君の魂に慈悲の気持を持たれんことを。」

Next.

「次。」

(それを筆記してゐる学生たち。その中にトム)

       能美武功  8月18日

 

 

Becoming Jane 059

(海岸。カッサンドラとジェイン、海辺を歩いてゐる)

~~~Cassandra. He has behaved so ill to you, Jane. Perhaps soon we can return home to Steventon.

「ジェイン、あの人(つまりトムのこと)あなたに酷い仕打だつたわ。もうスティーヴントンにさつさと帰りませう。」

~~~Jane. Is there any news of Robert?

「ロバート(カッサンドラの夫)から、何か便りはあつて?」

~~~Cassandra. He has arrived in San Domingo at last.

「やうやくサンドミンゴに着いたつて。」

~~~Jane. Good. ... Good.

「よかつた・・・よかつたわ・・・」

(カッサンドラ、ジェインを慰めやうと、手を取るが、ジェイン、さつさと歩いて行く)

\\

(売春宿。背景の方で、格闘技?)

(トム。その傍に売春婦。その女、トムにグラスを渡しながら)

~~~. Glass of wine with you, sir?

「お酒は?」

~~~Tom. Yes. Yes, a toast from one member of the profession to another.

「うん。さうだな、そつちも商売だが、こつちも商売だ。(ここ不明)」

(と、トム、飲み干す。女、何も言はず、去る)

\\

(馬車、走つてゐる。これはジェインが旅行から帰つてきた、といふ意味)

\\

(ジェインの家。女中、床をこすつてゐる)

(ジェイン、悄然としてゐる。前掛けをかけて、母の手伝ひに(多分洗濯)、台所へ行く。母、そのジェインを見て心配さう)

~~~Jane. I'm sorry to have been so disobliging in the past.

「ごめんなさい、お母さん、私、今までずゐぶんわがままだつたわ。」

~~~. Mr Wisley?

「ミスター・ウィズリーのこと?」

       能美武功  8月19日

 

Becoming Jane 060

(レイディー・グレシャムの家で、会食。ジェインの隣はウォレン)

~~~Warren. So, the infamous Mrs Radcliffe. Was she really as gothic as her novels?

「で、あの悪名高きミスィズ・ラドゥクリッフ、あの人、本当にあの小説に出て来る人のやうなすごい人?」

~~~Jane. Not in externals, but her inner landscape is quite picturesque, I suspect.

「外からはさうは見えない。でも、内心の風景は、かなり波乱万丈なのぢやないかしら。」

~~~Wisly. True of us all.

「我々全員に当てはまる批評ですね。」

(これなど、良い台詞だと思ひます。ウィズリーは馬鹿ではありませんね。)

\\

(速達を配達する配達人、馬を飛ばしてゐる)

(レイディー・グレシャム家に速達、渡される)

(宴会の場。執事、レイディー・グレシャムに耳打ち)

~~~執事. (WHISPERING) There's a message for Reverend Austen.

レヴェレンド・オースチン宛にお手紙です。」

(レイディー・グレシャム、レヴェレンド・オースチンに渡せ、と手で合図)

(執事、レヴェレンド・オースチンに近づき、手紙を渡しながら)

~~~執事.WHISPERINGMessage for Reverend Austen.

「レヴェレンド・オースチン宛にお手紙です。」

~~~. Thank you.

「有難う。」

(父、読んで行くうちに暗い顔になり、手で頭を支へる)

~~~ELIZA: Uncle?

「叔父様?」

(父、カッサンドラを見つめる)

~~~Cassandra. What is it?

「何? お父様。」

\\

(ジェインの家。カッサンドラの寝室。カッサンドラ、泣いてゐる。母、カッサンドラを慰める。ジェインもゐる。が、手の下しやうがない)

\\

(林の中。ヘンリー、イライザ、ジェイン)

~~~Henry. It seemed he died very soon after landing in San Domingo. My God, he was hardly there.

「サン・ドミンゴについて、あまり経たないうちに死んだやうだな。やれやれ、彼、あそこに行つたことにさへなりやしない。」

~~~Jane. What was the disease?

「何の病気だつたの?」

       能美武功  8月20日

 

 

Becoming Jane 061

~~~Henry. Yellow fever. Lord Craven, he wrote.

「黄熱病。ロード・クレイヴンの手紙によるとね、」

He said that if he had known he was engaged to be married, he would never have taken him. Jane, there's something else. Mr Lefroy, Tom.

「彼が婚約してゐると知つてゐたら、連れては行かなかつたのに、と。ジェイン、それからね、他にあるんだ。ミスター・ルフロイ、つまりトムのことだ。」

~~~Jane. What? I would keep this from you if I could. He's here visiting Mrs Lefroy and I...

「トムのこと? 兄さんから言はれなくても、私、知つてる。あの人、ここにゐるつていふんでせう? ミスィズ・ルフロイの家に。」

~~~Eliza. He is engaged.

「奴は婚約したんだ。」

~~~Jane. So soon?

「えっ? もう?」

\\

(ジェインのベッド。ジェイン、カッサンドラを抱いて寝てゐる)

(朝方。ジェイン、起きて書き物をしてゐる。カッサンドラ、それを見て)

~~~Cassandra. A letter?

「手紙?」

~~~Jane. No. It's something I began in London. It is the tale of a young woman. Two young women. Better than their circumstances.

「いいえ。これ、ロンドンに行つた時から書き始めた小説。二人の若い女性の話。二人とも、その環境よりも立派に育つてゐる女性。」

~~~Cassandra. So many are.

「さういふ女性は沢山ゐるわ。」

~~~Jane. And two young gentlemen who receive much better than their deserts

as so very many do.

「それから二人の紳士。その育つた環境よりもずつとずつと高い評価を得てゐる紳士。かういふ紳士も沢山ゐるけど。」

       能美武功  8月21日

 

 

Becoming Jane 062

~~~Cassandra. Mmm. How does the story begin?

「それで、話の始り方は?」

~~~Jane. Badly.

「とても悪い始りかた。」

~~~Cassandra. And then?

「それからは?」

~~~Jane. It gets worse. With, I hope, some humour.

「もつと悪くなるの。でも、それにユーモアがあればいいと思ふんだけど。」

~~~Cassandra. How does it end?

「終り方は?」

~~~Jane. They both make triumphant, happy endings.

「二組とも、大成功で終るの。ハッピーエンド。」

~~~Cassandra. Brilliant marriages?

「素敵な結婚ね?」

~~~Jane. Incandescent marriages to very rich men.

「光り輝くやうな素敵な結婚。二人とも金持の男の人に。」

\\

(ジェインとウィズリー、庭を歩いてゐる)

~~~Jane. You asked me a question. I am ready to give you an answer.

「私にあなたは質問を下さつたわ。それにお答へしようと思つてゐます。」

But there is one matter to be settled. I cannot make you out, Mr Wisley. At times, you are the most gentlemanlike man I know and yet you would...

「でもその前に、ミスター・ウィズリー、私、はつきりさせなければならないことが一つあります。時々あなたは、私の知つてゐる男の人たちの中で、一番紳士的な人になります。でも・・・」

~~~Wisley. "Yet". What a sad word.

「でも、ですか? 悲しい言葉ですね。」

~~~Jane. And yet, you write yourself most tellingly to great effect. I'm speaking, of course, of your letter.

「でもあなたは、今まで聞いたこともないやうな、非常に効果のあるものをお書きになりました。つまり、あなたのお手紙のことですけど、勿論。」

       能美武功  8月22日

 

Becoming Jane 063

~~~Wisley. What letter?

「手紙つて、何の手紙のことです?」

~~~Jane. Was your aunt the correspondent on your behalf?  What matter?  One way or another, passion makes fools of us all.

「あなたの代筆を叔母様がおやりになつたの? まあいいわ、どうせ。こんなこと。情熱つて変なもの、私たちみんな、情熱のせゐで変なことをするんですから。」

~~~Wisley. I hope, in time, passion may regain your better opinion.

「時間が経つて、その情熱のせゐで、あなたが私によい評価を与へて下さるやうになればと思ふのですが。」

(このウィズリーの言葉も立派だと思ひます。それにしても、「情熱」といふ言葉で、主題が「手紙」から逸れてしまつたのは、ウィズリーにとつて不幸でした)

~~~Jane. The emotion is absurd.

「感情つて、馬鹿なもの。」

When you consider the sex to whom it is often directed, indistinguishable from folly. I thank you for the honour of your proposal. I accept. Good day.

「性欲のことを考へると、ときどき感情なんて、狂気と同じつて思ひたくなるわ。あなたの申込み、私、名誉なことと思つてゐます。私、受入れます。さやうなら。」

\\

(林の中。ジェインとジョージ。ジョージは聾唖者らしい。ジェイン、身振りを入れて話をしてゐる)

~~~Jane. George, George. Mr Wisley is... He's an honourable man. You'll always have a place with me.

「ジョージ、ジョージ、ミスター・ウィズリーは・・・立派な人よ。ジョージ、あなたのことを私、忘れることはないわ。」

(ジョージ、人が来たことをジェインに知らせる)

(やつて来たのはトム)

~~~Tom. Miss Austen.

「ミス・オースチン。」

(と、おじぎ)

~~~Jane. Mr Lefroy.

「ミスター・ルフロイ。」

~~~Tom. Sir.

「サー。」

(と、ジョージにも挨拶)

~~~Jane. I believe I must congratulate you, Mr Lefroy. And you've come to visit an old friend at such a time. How considerate.

「ミスター・ルフロイ、私、あなたにお祝の言葉を述べなければならないやうですわ。それに、丁度かういふ時に古い友人を訪ねて来て下さつたんですもの。何て思ひ遣りのある人かしら。」

       能美武功  8月23日

 

 

Becoming Jane 064

~~~Tom. I have come to offer an explanation, belatedly, for my conduct. I cannot think how to describe it.

「僕は、説明をしようと思つて来た。遅きに失した、確かに。しかし何故遅くなつたか、それを説明するのは難しい。」

~~~Jane. Tell me about your lady, Mr Lefroy. From where does she come?

「あなたの婚約者について話して下さい、ミスター・ルフロイ。どこ出身の人ですの?」

~~~Tom. She's from County Wexford.

「ウェックスフォード出身です。」

~~~Jane. Your own country. Excellent.  What was it that won her?  Your manner, smiles and pleasing address?

「あなたのお国の人ね。素敵ぢやない? あなたの何が彼女に気に入られたのでせうね。態度、微笑み、それに、一つ一つの言葉・・・それね?」

(この間にジョージ、「この人が好きなのか?」と身振りでジェインに訊く。ジェイン、ジョージに答へる)

~~~Jane. No, no, not at all. No, had I really experienced that emotion, I should, at present, detest the very sight of him.

「いいえ、全然。好きだつたことはないの。もし私がさういふ感情を経験してゐたとしたら、今、この場で、この人を見るだけでも嫌気がさしてくる筈。」

And you are mistaken. I'm even impartial towards the gloriously endowed Miss Wexford...

「(そしてトムに)それから、あなたも間違ひ。私、栄光ある結婚を約束された、ミス・ウェックスフォードに、ちつとも偏見なんか持つてゐない。」

(トム、もう我慢できず、ジェインに近づく)

~~~Tom. I cannot do this.

「僕はこれが出来ない・・・」

(と、強引にキス。ジェイン、やつとのことでトムを引き離し、トムを叩く)

~~~Tom. And so you would marry Wisley?

「それで君の方は、ウィズリーと結婚するのか。」

       能美武功  8月24日

 

 

Becoming Jane 065

(ここでジョージ、トムにつめよる、が、トム、静かに)

~~~Tom. (WHISPERS) Please?

「お願ひだ。」

(ジョージ、心を打たれて、それ以上トムに迫らない)

~~~Tom. If there is a shred of truth or justice inside of you, you cannot marry him.

「もし君の心の中に正義の観念、或は真実の観念の欠片(かけら)でもあつたら、君は彼とは結婚しない筈だ。」

~~~Jane. Oh no, Mr Lefroy. Justice, by your own admission, you know little of, truth even less.

「いいえ、ミスター・ルフロイ、あなたのお許しを得て言はせて戴きますけれど、あなたには、正義など何も分つてはゐません。真実に関しては、その半分も。」

~~~Tom. Jane, I have tried. I have tried and I cannot live this lie. Can you?

「ジェイン、僕は努力した。足掻いた。しかし僕はこの嘘の中でこれからも生きて行くなんて、出来ない。君は出来る?」

Jane, can you? What value will there be in life if we are not together? Run away with me.

「ジェイン、君には出来るの? 僕たちが二人で一緒に生きなくて、人生にどんな価値があるつていふんだ。僕と一緒に逃げてくれ。」

~~~Jane. An elopement?

「駆落ち?」

~~~Tom. That is exactly what I propose. We'll post to London, by Friday be in Scotland, and man and wife.

「さう。僕の提案はそれだ。ロンドンに行く、それから金曜日にはスコットランドだ。そして僕らは、妻と夫だ。」

~~~Jane. Leave everything?

「何もかも捨てて?」

~~~Tom. Everything. It is the only way we can be together.

「何もかも。僕らが一緒になれる、それがただ一つの方法だ。」

(二人、キス)

       能美武功  8月25日

 

Becoming Jane 066

(ジェインとカッサンドラの寝室。ジェイン、旅支度をしてゐる)

~~~Cassandra. You'll lose everything. Family, place. For what?

「あなたは何もかも失ふのよ。家族も、家も。何のために?」

~~~Jane. A lifetime of drudgery on a pittance?

「一生、あてがひ扶持のあくせく仕事。それで人生を終へるために?」

~~~Cassandra. A child every year and no means to lighten the load? How will you write, Jane?

「毎年子供が生れ、道はちつとも明るくならない。あなた、小説はどうするの? ジェイン。」

~~~Jane. I do not know. But happiness is within my grasp and I cannot help myself.

「私には分らない。でも幸せは今、手の届くところにある。もう私、引き返せない。」

~~~Cassandra. There is no sense in this.

「何の意味もないのよ、その決定。」

~~~Jane. If you could have your Robert back, even like this, would you do it?

「もしあなた、ロバートが帰つてくる、となつたら、あなた、どうする?」

~~~Cassandra. (じつと黙る)

~~~Jane. Please conceal my departure as long as possible.

「私の出発は出来るだけ長く秘密にしておいて。」

~~~Cassandra. Wait. Here. Take these. Now go, quickly.

「待つて。ほら、これを持つて行きなさい。さ、もう行つて。早く。」

(と、財布と首飾りをジェインに渡す。ジェイン、受け取る)

(ジェイン、家を出る。トムのところまで来る。トム、ジェインの手を取り、走りながら)

~~~Tom. Come. If we hurry, we can still make the morning coach.

「さあ、早く。急げば、朝の馬車に間に合ふ。」

~~~Jane. You are sure?

「本当に?」

(林。二人、下り坂をおりながら)

       能美武功  8月26日

 

 

Becoming Jane 067

~~~Tom. Be careful.

「気をつけて。」

~~~Jane. Is it coming?

馬車、本当に来るの?」

~~~Tom. Not yet. Take my hand. All right? Hurry. I can hear it approaching.

Here it is.

「うん、まだだけど、すぐに。手を取つて。大丈夫? 急いで。あ、来る音がする。ほーら、来た。」

(トム、馬車を止める)

~~~Tom. Whoa. Two to London. We'll settle at first rest. Yes?

「止れ! ロンドンまで二人。最初の停車場で金は支払う。いいね?」

~~~御者. Right you are, sir.

「分りました。どうぞ。」

(二人、馬車から外を眺めながら)

~~~Tom. Hampshire, your home county.

「ハンプシャーだ、これが。君の故郷の。」

~~~Jane. It was.

「ええ、だつたところ。」

(ジェイン、トムの肩に寄りかかる。トム、ジェインの髪にキス)

(急に馬車、止る)

(車輪がぬかるみに嵌つてゐる映像)

~~~御者. Stuck. Everybody out, ladies and gentlemen, please. We need to lighten the load.

「車輪が嵌りました。みなさん、外へ出て下さい。お願ひします。荷を軽くしないと。」

(ジェイン、馬車から降りようとする。トム、その下にきて)

~~~Tom. No, let me, let me.

「いやいや、僕にやらせて。」

(トム、ジェインを抱へ、運ぶ)

       能美武功  8月27日

 

Becoming Jane 068

~~~御者. I shall require you gentlemen to give me a hand, put your shoulders into it. Now, sir, if you can push on the coach itself.

「みなさんのお力をお借りしなければなりません。それにみなさまの肩もお借りして、下から持ち上げるのも。さあ、馬車に手を直接おかけ下さい。そして・・・」

 (トムが来ないのを見て、呼ぶ)

Excuse me, sir. Young gentleman?

「ああ、そこの若い方、お願ひします。」

(トム、そちらを向いて、)

~~~Tom. Yes, yes.

「分りました。すぐに。」

(トム、コートを脱ぎ、ジェインに渡す)

~~~御者. You on the other side, sir, thank you. Young gentleman, please come along.

「あなたは、あちら側で。ええ、どうも有難う。お若い方、あなたはこちらで。」

~~~Tom. All right.

「分つた。」

(と、トム、御者の方へ進む)

(その時、脱いだコートのポケットから財布と手紙が落ちる)

(ジェイン、それを拾ひ上げる)

~~~御者.Mind helping us? Thank you. Right, all together now then, sirs, please?

「手伝つて下さいますね? 有難う。よーし、それではみんなで。用意はいいですね?」

(MEN GRUNTING)

(男たち、呻く)

~~~御者. One, two, and a three and push! Come on.

「一、二の、三、それ! もう少し。」

(この間にジェイン、手紙を開け、読む)

~~~Mrs. Lefroy."Dear Tom. "How timely was the arrival of the money you sent."

「親愛なるトム、あなたが送つてくれたお金、それも丁度あの時に。私たちにはどんなに有難いことだつたでせう。」

~~~御者. One, two and three!

「一、二の、三!」

~~~Mrs. Lefroy. "It was so very much appreciated by your father and I.

「お父様も私も、どんなに感謝したことか。」

"You're so kind to share your uncle's allowance. "Indeed, I do not dare think

how we would survive without it."

「あなたの叔父さんの遺産の、あなたの取り分から、分けて下さつたなんて。本当は私たち、これがなくて、どうやつて生き延びてゆけるか、見当もつかなかつたのです。」

(みんな、唸りながら、馬車を押す)

       能美武功  8月28日

 

 

Becoming Jane 069

~~~御者. Well done. Thank you, sirs. All right, ladies and gentlemen, back on

the coach as soon as you can, thank you. We are ready.

「ああ、危機を脱しました。有難うございます。さあ、みなさん、馬車にお戻り下さい。有難うございます。馬車の用意も出来ました。」

(トム、ジェインを捜す。やつと見つけて)

~~~Tom. Worried?

「心配して?」

~~~Jane. No.

「いいえ。」

~~~Tom. Is it the loss of your reputation?

「君の名誉が失はれるのが厭なの?」

~~~Jane. No. The loss of yours.

「いいえ、あなたの名誉が失はれるのが。」

~~~Tom. I do not...

「僕の名誉なんか・・・」

~~~御者の声. Please, sir, come along, the coach is departing.

「どうぞみなさん、乗つて下さい。馬車が出発します。」

(トム、ジェインをうながす)

~~~Tom. Come.

「さあ。」

\\

(馬車の中のジェイン。じつと考へてゐる。それを心配さうに見るトム)

(馬車、駅につく)

~~~御者. Changing horses. Twenty minutes only. House of office at the back of the inn. All down, quick as you like.

「馬の交換です。二十分だけ休憩です。宿場の後ろが休憩所になつてゐます。さあ、みなさん、早く降りて下さい。」

(トム、ジェインの手を取り、馬車から降す)

(宿屋の喫茶室。ジェインにトム、飲物を持つてくる)

~~~Jane. How many brothers and sisters do you have in Limerick, Tom?

「あなた、リムリツクには何人、兄弟姉妹があるの?」

~~~Tom. Enough. Why?

「大勢だ。何故?」

~~~Jane. What are the names of your brothers and sisters?

「その人たちの名前、何ていふの?」

~~~Tom. They...

「名前は・・・」

~~~Jane. On whom do they depend?

「その人たち、どうやつて生きて行くの?」

(と、さつきの手紙を出す)

(トム、深いため息)

       能美武功  8月29日

 

 

Becoming Jane 070

~~~Jane. Your reputation is destroyed. Your profligacy is a beautiful sham.

「あなたの名誉は、それでをしまひよ。今までの放蕩の真似、上手だつたのね。(これは、本当に放蕩者だつたら、そんな金があればそちらに使ふのに、ジェインのために使はうとしたなんて。あなた本当は放蕩者ではなかつたといふこと、の意)」

~~~Tom. I can earn money.

「僕は自分で金を稼ぐ。」

~~~Jane. It will not be enough.

「それだけでは十分ではないわ。」

~~~Tom. I will rise.

「地位も上つて行くさ。」

~~~Jane. With a High Court Judge as your enemy? And a penniless wife?

「裁判所を敵にまはして?(どうせあなたの狙つてゐる職業、法をかい潜るものでせう?) それに、文無しの妻で?」

God knows how many mouths depending on you? My sweet, sweet friend,

you will sink, and we will all sink with you.

「どんなに沢山の口があなたに頼ることになるでせう。(これは生れてくる子供たちのこと) ねえ、トム、あなた、沈んで行くわ。そして私たちみんな、あなたと一緒に沈んで行く。」

~~~Tom. I will...

「僕は・・・」

~~~御者の声. Hampshire Flyer. Hampshire Flyer's leaving in five minutes.

「ハンプシャー・フライヤー。ハンプシャー・フライヤーは、後5分で出発!」

(ジェイン、帽子を手に取る。トム、強い声で)

~~~Tom. No! No, Jane. I will never give you up.

「駄目だ! 駄目だ、ジェイン。僕は君を諦めない。」

~~~Jane. Tom...

「トム・・・」

~~~Tom. Don't speak or think. Just love me. Do you love me?

「黙つて。いや、考へるのも止めるんだ。君、僕を愛してゐる?」

       能美武功  8月30日

 

 

Becoming Jane 071

~~~Jane. Yes. But if our love destroys your family, it will destroy itself.

「ええ。でも、もし私たちの愛があなたの家族を破壊するのなら、私たちの愛も一緒に破壊するわ。」

~~~Tom. No.

「そんなことはない。」

~~~Jane. Yes. In a long, slow degradation of guilt and regret and blame.

「いいえ、さうなります。長い、ゆつくりとした、罪の意識による堕落、そして後悔と自己を非難する気持。」

~~~Tom. That is nonsense.

「そんなこと、馬鹿げてゐる。」

~~~Jane. Truth. Made from contradiction. But it must come with a smile.

Or else I shall count it as false and we shall have had no love at all.

「いいえ、本当のこと。矛盾から出てくる結果。でもそれは、微笑みとともにやつて来なければいけない。さうでなければ、私、それを嘘と思ふ。そして、微笑みがなくなる時、私たちの愛も消えて行くの。」

~~~Tom. Please.

「お願ひだ。」

~~~Jane. Goodbye.

「さやうなら。」

(と、ジェイン、帽子を取り、去る。トム、立ちつくす)

\\

(こちら、御者。荷物を馬車の屋根から放り出しながら)

~~~御者. Typical bloody runaway. "Will I, won't I?"

「まつたく、典型的な駆落ちつていふやつだ。『やる? やらない? やる? やらない?』・・・やれやれ。」

(帰りの馬車の扉の前に立つてゐるジェイン。それをポーターが促して)

~~~ポーター. Miss. Miss.

「ミス。ミス。」

(ジェイン、馬車に乗る)

~~~ポーター. All right, off you go.

「よし。出発だ。」

(と、御者に合図。馬車、走り出す)

(それをじつと見送るトム)

       能美武功  8月31日

 

Becoming Jane 072

(自宅の門に立つジェイン)

(ジェイン、部屋に入る。時計は6時15分をさしてゐる)

~~~Jane. Hello?

「誰かゐない?」

(そこに女召使のジェニー、入つて来る)

~~~Jane. Where is everyone?

「みんなはどこ?」

~~~Jenny. Looking for you, Miss. Looking everywhere.

「お嬢様を捜しにです、ミス。いろんなところを、あちらこちら。」

~~~Warren. Thank you, Jenny.

「有難う、ジェニー。」

~~~Jenny. Mr Warren.

「ミスター・ウォレンです。」

(と、ジェニー、去る。ウォレンとジェイン、二人になり)

~~~Warren. Your family tried to keep the matter from the servants, but... Where is that blackguard Lefroy? My God, if Henry finds him, he'll kill him.

「ご家族の人たち、召使いには内緒にしておきたかつたのです、でも・・・あのルフロイの奴、今どこですか? もしヘンリーがあいつを見つけたら、奴を殺しますよ。」

~~~Jane. He won't find him. If he does, he won't kill him. There's no need.

「見つけることなんかないわ。それにたとへ見つけても、殺したりはしません。その必要はないんですから。」

~~~Warren. What happened?

「何が起きたんです?」

~~~Jane. Nothing happened.

「何も起きはしませんでした。」

~~~Warren. I see. I see.

「ああ、さうですか。分りました。」

~~~Warren. Jane, I may have less personal charm than Lefroy. Superficial charm to some eyes. To others, it is mere affectation, but I...

「ジェイン、私はルフロイよりも人間的魅力はない男です。あの男の魅力、それはある人にはただの表面的なもの、またその他の人には、ただのこれみよがし。でも私は・・・」

~~~Jane. I have no hopes.

「私にはもう希望がない・・・」

~~~Warren. Hopes? You cannot begin to imagine.

(と、ジェインの前に膝まづく)

       能美武功  9月1日

 

 

Becoming Jane 073

~~~Jane. Thank you for the great honour of your offer, but are there no other women in Hampshire?

「お申込み、大変光栄ですわ。でも、ハンプシャーには、他に女の人はゐないのですか?」

(と、部屋を出ようとする。が、ふと何かに気づき、立止り、部屋に戻つて来て)

~~~Jane. It was you who wrote the judge.

「あなたでしたのね? 裁判長に手紙を書いたのは。」

(ウォレン、うなづく)

~~~Warren. You must consider how much I have always loved you.

「私があなたのことをどれだけ愛してゐたか、これでお分りと思ひます。」

(ジェイン、右手をあげ、平手打ちしようとする、が、止める)

(ウォレン、去る)

\\

(暫く経つ。ジェイン、ピアノを弾いてゐる)

(そこに母とカッサンドラ、帰つて来る)

(近づいてきた母にジェイン、)

~~~Jane. Well?

「お母さん・・・」

~~~Jane. You came back to us.

「帰つて来てくれたのね。」

(とジェインの髪にキス。ジェイン、母の胸に顔をうづめる)

\\

(朝。教会へ歩いて行くオースチン一家。馬車がそれを追ひ越し、止る)

(御者、降りて、扉を開けようとする。レイディー・グレシャム、それを止める。)

~~~Lady Gresham. Leave it.

「そのままで。」

(近づいてきたオースチンの父親に)

~~~Lady Gresham. Mr Austen, I must inform you that I shall not attend service today. Not in the presence of this young woman.

「ミスター・オースチン、申し上げます。私は今日、教会へは参りません。この女性が出席してゐる限り。」

~~~. Indeed...

「なるほど・・・」

~~~Lady Gresham. If I must speak plainly...

「はつきり申しあげるなら・・・」

~~~Wisley. Aunt.

「叔母さん!」

       能美武功  9月2日

 

Becoming Jane 074

~~~Lady Gresham. I believe your youngest daughter has been on a journey.

「あなたの末娘さんは、旅行にお出かけになつたやうですね。」

~~~Jane. Her Ladyship considers travel a crime?

「ハー・レイディーシップのお考へでは、旅行は犯罪とでも?」

~~~Lady Gresham. Unsanctioned travel.

「さう、人に嘉(よみ)される旅行でなければ、それは犯罪です。」

Furthermore, be aware that my nephew has withdrawn his addresses to someone without family, fortune, importance and fatally tainted by suspicion.

「それに、申し上げておきますが、私の甥は、もう既に、家族もなし、財産も、何もかもなし、それに、大変怪しげな旅行などをする女性との結婚は、取り下げてゐるのですからね。」

~~~. Oh, she has family, madam.

「彼女には家族はあります、マダーム。」

~~~. Indeed she has.

「さう、家族はある。」

~~~Jane. Importance may depend upon other matters than Your Ladyship can conceive. As to fortune, a young woman might depend upon herself.

「ヨー・レイディシップのお考へになる重要なこと以外に、重要なことはいろいろあります。それに財産について言へば、若い女性は、自分自身にそれを求めることもできます。」

~~~Wisley. An interesting notion, Miss Austen.

「それは面白い考へですね、ミス・オースチン。」

(と、レイディー・グレシャムの驚くのを構はず、馬車を降りる)

~~~Wisley. Oblige me a walk along the river to enlarge upon the topic.

「その問題に関して、河のほとりを散歩しながら、もう少し踏み込んでお話したいですが、よろしいでせうか。」

~~~Lady Gresham. Wisley?

「ウィズリー!」

(ウィズリーとジェイン、二人だけで森を歩く)

~~~Jane. I am sorry if my conduct has disappointed you, Mr Wisley.

「ミスター・ウィズリー、私、軽はずみなことをしてあなたを失望させてしまつたかも知れません。ごめんなさい。」

       能美武功  9月3日

 

 

Becoming Jane 075

~~~Wisley. It seems you cannot bring yourself to marry without affection.

「愛情なしの結婚には、どうしても同意できないとお考へのやうですね。」

Or even with it. I respect you for that and share your opinion. Neither can I.

「或は、愛情があつても、結婚できない場合があると。(今度のトムとのことを知つてゐる口ぶりですね、これは。)私は、それゆゑにあなたを尊敬してゐます、そして、あなたの意見にも同意してゐます。私も愛情なしの結婚には反対です。」

I'd always hoped to win your love in time, but I am vain enough to want to be loved for myself rather than my money.

「私は、時間が経つにつれ、愛情も芽生えてくると期待してゐました。でも、金よりも私自身の方にあなたの愛情が傾くなどと、自惚れてゐたやうです。」

~~~Jane. Do we part as friends?

「私たち、友達としてお別れしませうね?」

~~~Wisley. We do.

「ええ、友達として。」

(二人、少し歩いたあと)

~~~Wisley. So, you will live...

「で、生活は御自分の腕で・・・」

~~~Jane. By my pen. Yes.

「ええ、ペンで。」

~~~Wisley. Will all your stories have happy endings?

「お書きになる話、全部ハッピーエンドですか?」

~~~Jane. My characters will have, after a little bit of trouble, all that they desire.

「ええ、主人公は、全部。ちよつと面倒なことがありますけれど、最後は全部思ひ通りに。」

~~~Wisley. The good do not always come to good ends.

「良いことをしても、良い結果が出るとは限らないものですが。」

(ジェイン、うなづく)

       能美武功  9月4日

 

 

Becoming Jane 076

(ペンが紙の上を動いてゐる。ジェインの声)

~~~Jane. It is a truth universally acknowledged. ...that a single man in possession of a good fortune must be in want of a wife."

「豊かな財産を持つてゐる独身男性は、必ず妻を捜してゐる、といふことは、一般的に認められてゐる真実である。」

(外で、士官たち、ヘンリーとイライザの結婚を祝して、剣をあげてゐる。歓声)

~~~Jane. "However little known the feelings or views of such a man may be on his first entering a neighbourhood,

「かういふ、財産持ちの独身男性の感情、物の考へ方が、どんなものであるか、全く分つてはゐないくせに、」

this truth is so well fixed in the minds of the surrounding families, that he is considered as the rightful property of some one or other of their daughters.

「この『妻を捜してゐる筈』、といふ真実は、彼らの周囲の家族の人間の心にあまりにも深く浸透してゐるので、当該独身男性は自分たちのどれかの娘の所有物、であるに決まつてゐる、と思はれてゐる。」

(窓越しにペンを動かしてゐるジェインの姿が見える)

"'My dear Mr Bennet, 'said his lady to him, one day, "'Have you heard that Netherfield Park is let at last? '

「『あなた』、とミスター・ベネットの妻が夫にある日、話しかける。『あなた、お聞きになつて? ネザーフイールドにたうとう借り手がついたのよ。』」

"Mr Bennet replied that he had not.  "'But it is, ' returned she..."

「ミスター・ベネットは『知らないね』と答へる。『でも、さうなの。』と妻は言ふ。」

\\

(十数年後?)

(小さなサロン。三十人くらゐの聴衆。女性オペラ歌手が歌つてゐる)

(イライザ、ヘンリーの夫婦の姿あり。ヘンリーの隣がジェイン)

       能美武功  9月5日

 

Becoming Jane 077

(歌手、歌ひ終り、拍手。みんな立上り退場し始める。その時、ジェインの女性ファン、ジェインに近づき)

~~~女性ファン. Is it Miss Austen? The Miss Austen?

「あなたは、ミス・オースチンかしら? あの(有名な)ミス・オースチン?」

~~~Jane. No, Madam. That courtesy, according to the customs of precedence,

belongs to my elder sister.

「いいえ、マダーム。その呼び名(つまり「ミス・オースチン」といふ呼び名)は、昔からの仕来りで、私の姉のことです。」

~~~女性ファン. Miss Jane Austen, the authoress of Pride and Prejudice?

「でも、ミス・ジェイン・オースチン、『高慢と偏見』の作者、のミス・オースチンですわね?」

~~~Henry. My sister wishes to remain anonymous, but your kind regard is much appreciated. Thank you.

「妹は、名を知られない方を好むのです。が、ご親切にもその名で呼んで戴いて・・・有難うございます。」

~~~Jane. Thank you.

「有難うございます。」

(その時ジェイン、トムの姿らしきものを見つける。ヘンリー、すぐに一人でその方へ進む)

(入口の方でヘンリー、トムを部屋に導きながら)

~~~Henry. Please, come through.

「どうか、こちらに・・・」

(部屋の中。ジェインとイライザ)

~~~Jane. I shall never forgive Henry for this.

「私、こんなことをした兄を決して許さないわ。」

~~~Eliza. Yes, you will. We always forgive him for everything.

「いいえ、あなたは許します。私たち二人、いつだつて彼を許すの。彼が何をしたつて。」

(ヘンリー、トムと女の子をジェインのところに導いてきて)

~~~Henry. Jane, an old friend. Late as ever.

「ジェイン、君の古い友人だよ。いつもの通り、遅きに失したがね。」

       能美武功  9月6日

 

Becoming Jane 078

~~~Tom. Madame le Comtesse, Miss Austen.

「マダンム・ル・コンテッス、ミス・オースチン。」

(と、お辞儀。ジェインとイライザ、お辞儀)

~~~Jane. Mr Lefroy.

「ミスター・ルフロイ。」

~~~Tom. Please allow me to introduce to you your most avid of admirers, my daughter, Miss Lefroy.

「どうぞ紹介するのをお許し下さい。こちらは私の娘、ミス・ルフロイ、あなたの熱烈なファンです。」

~~~. Miss Austen, what a pleasure to meet you. Will you read for us this evening?

「ミス・オースチン、お会ひ出来て何て嬉しいんでせう。今夜私たちのために、朗読して下さいません?」

~~~Henry. Ah, well, you see, my sister never reads. Otherwise, how else is she

supposed to remain anonymous?

「ああ、その・・・実は、妹は人前では読まないことにしてゐるのです。作者匿名といふことが保てなくなつてしまひますからね。」

~~~. But...

「でも・・・」

(トム、娘をたしなめて)

~~~Tom. Jane.

「ジェイン!」

(娘の名がジェインだと分り、ジェイン、気持が変る)

~~~Jane. I will make an exception if my new friend wishes it.

「私の新しい友達がお望みなら、私、例外を作りますわ。」

(娘、微笑む)

~~~Jane. Come, sit by me.

「さあ、私の隣に坐つて。」

(と、二人、その場を外す)

~~~Eliza. She is lovely, Tom.

「トム、娘さん、可愛いわね。」

       能美武功  9月7日

 

Becoming Jane 079

(ジェイン、娘に読んで聞かせてゐる。周囲に十数人の聴き手)

(本の終の方に来てゐる)

~~~Jane. She began now to comprehend that he was exactly the man who, in disposition and talents, would most suit her.

「彼女には、今になつて分るのだつた。この人が気質からも才能からも、自分に最も合つてゐる人だつたのだ、と。」

His understanding and temper, though unlike her own, would have answered all her wishes.  It was an union that must have been to the advantage of both.

「彼の理解力と気質、それは彼女自身のものとはまるで違つてはゐるが、彼女の望み全てに応へてくれる理解力と気質なのだ、と。この結婚は、二人にとつてきつと益をもたらす筈なのだ。」

By her ease and liveliness, his mind might have been softened, his manners improved,

「彼女の優しいそして生き生きした気質により、彼の心は和らぎ、彼の振舞ひも改良されるだらう。」

and from his judgment, information and knowledge of the world, she must have received benefit of greater importance.

「そして、彼の判断力、世界に関する情報と知識、それが彼女にとつては、大きな利益となるだらう。」

But no such happy marriage could now teach the admiring multitude what connubial felicity really was.

「しかし世間では現在、このやうな幸せな結婚、婚姻による本当の幸せはこのやうなものでなければならない、とは思はれてゐないやうだ。」

(能美註。ここ、自信なし。奇妙な終り方。)

(みんな、拍手。トム、しばらくして、微笑み、拍手)

THE END

       能美武功  9月8日

 

 

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