[ '95 学校法人錦華幼稚園 新園舎 ]
 

@ 新しく幼稚園の‘顔’を作る
多くの幼稚園は正面性(=施設の顔)がなく、建物と外部の園庭と一つの閉じた世界を構成して、都市空間とのつながりが希薄になりがち→都市との連続性を持たせつつ、施設の顔を作り出すことを試みた。

A 軒先線と舗道による誘いこみ
おおむね30度づつ折れ曲がる連続した軒先と舗道によって、外部空間をなだらかに連続させるとともに変化をもたせることによってさまざまな場所から前景-近景-遠景を構成し、園児にとって親しみやすいものとした。

B 外部空間と内部空間の相互貫入
空間のつながりかたの現実とその読み取りかた、感じかたとのズレを作り出して、さまざまな場所性(=世界)を発見できるようにするために、外壁面を極力なくして開放性を持たせ、内部の壁の構成による相互の連続、貫入、反転が知覚できるようにした。特に外部への開放性は大人の目線よりずっと下の園児の目線に合わせて検討した。

C環境(日照・採光・照明)の改善
旧園舎の各室各点での照度調査を行い、その分析から特に室内輝度分布(室内でのまぶしさのばらつき具合)を改善するために屋根面に明かり取り窓を設けて、旧園舎で感じた室内での相対的な暗さの感じをなくした。(明かり取り反射版の角度は冬至、春、秋分の太陽高度の角度に近似)

D環境(熱)の改善
現在の一般的な住宅レベルで行われている断熱工法を採用。合わせて通気工法を採用して、特に屋根面での夏季の屋根下地面の温度上昇の逓減を図った。シーリングファンによる冬季の室内上下の温度分布バランスの改善。

E環境(通風・換気)の改善
伝統的な煙り出しの超屋根のようなヴェンチューリ効果をねらって、トイレ上部の二ヶ所と遊戯室の一部に屋根を貫通する塔の側面に換気、通風用の窓を設けた。(冬季閉鎖、夏季は教室部分の熱気排出にも貢献)室内部分の通風も、南北方向のみならず、東西方向の風が職員室部分のなだらかな出っ張りにより乱流を引き起こして、各室の換気を促進する。

F 環境(音響)の改善
教室間の仕切り壁がないオープンクラスのため、室内の残響時間計算のうえ天井面に高吸音材を全面に張り上げて、室内の騒音レベルの逓減を図った。外部スピーカーの配置は敷地南側から建物方向へ向け、さらに方向によって出力数を変えて拡散、反射による音の明瞭度を損なわないようにした。


H安全性確保について
コンセントは悪戯防止機構を採用、建具は園児が主に出入りする部分は特に木製とした、ガラスは特に割る可能性の高い教室南側の部分に強化ガラスを採用(車のフロントガラスと同様、割れても怪我しにくい)、屋根葺材は台風時飛びやすい部分はネジ留め追加補強、建具ガラスへの追突防止のため園児の目線下に中桟を設けた

I耐久性向上のために
木造の弱点は、湿潤状態になると構造耐力的に極端に弱くなることと、白蟻や細菌が付きやすくなる→基礎と土台との間に隙間をつくり、床下の通気孔とした、さらに床下は防湿処理を施した。

[ '95 学校法人錦華幼稚園 新園舎 ] コンセプト(設計概念)の説明



ファサード(顔)の価値 ━━━道路際の立面で苦労したところ━━━

西欧の歴史的街並みをつくりだしている建築物の道路際の立面は、その他の立面から区別してファサード(主立面=顔)と呼ばれています。そこではファサードの一つ一つが特性を主張しながらも、全体としてはその国や、その地域に固有な特性を持った、ある種の調和が感じられます。それと同じ様に、かつての日本でも旧街道沿いの町並みなどは、地域の固有性を表現していました。それらは人と人との関係、結び付きが、道路や建物に表現され、ひいては都市空間化して、その結果、外部空間の構成としては、たいへん人にやさしい空間になっています。(日本では車社会の到来によって、人ではなく車を中心とした都市化が、旧市街の中でさえも進んだために、かつての空間性は断片化してしまい、人にとっても、車にとっても中途半端な都市空間になりつつありますが・・。)ともあれ、ちょうど人の顔のように、同じでいて違う、といったレベルの伝統的町並みは、外部空間の性格を特徴付ける、差異と反復による建築的連鎖の構成方法を考えるにあたって、大変示唆に富んでいます。そこには、ゆくゆくすべてが、今現在建ちかわりつつある建物に埋め尽くされたとしても実現できない、文化的な豊かさがあります。そういうふうに感じるのは、かつて街道という外部空間を内部化しうるようなほど緊密であったであろう、コミュニケーションの痕跡を読み取ることができるからだろうと思われます。

錦華幼稚園の旧園舎もふくめて、多くの幼稚園の園舎は園庭側から個別にアクセスするので、エントランスなどの建築物の正面性を表示するものがないのが普通です。そして人と人との関係のありかたも、園舎と園庭とのセットでしかなく、園児が園庭で遊んでいるのが垣間見られる程度で、都市空間との関係性が希薄なことが多いようです。新園舎の敷地は東西に細長く、道路は西側なので、ごく普通に北側に建物を寄せて敷地なりに建てると、道路に面する立面はどう考えても建築全体を代表するものにはなりにくく、南側は園庭とセットになるものの、道路からはそっぽをむいてしまいます。そこで実施案のように△形を基本にした平面になっていったのですが、これは単に道路に対して斜めに建物を配置したのではできないことがあったからです。立面の高さ方向の基準寸法は、現在の住宅より低い、伝統的町並みを構成するかつての住宅(商家=町屋)のものですが、それであっても単純に斜めにしたのでは、立面に主なるものと、従なるものとができてしまうからです。まさにどこにも正面ができないようにすることで、立体的な‘顔’を構想しました。高さ方向の単純化と平面形状の複雑化によって、単に道路に面した何か別の建築類型を表示する、うすっぺらな立面に焦点を結ぶことなく、かつての町並みのように、平易ではあるが、特徴のある、ゆるやかな変化と連続性を持って都市空間と幼稚園を結び付けています。


幼稚園 ━ 園 ━ 苑 ━ 庭園 ━━━建築空間の構成方法について━━━

ここ数年の間、たまたま庭園の構成に興味があったということもあって、幼稚園の‘園’に強く反応しました。これはドイツ語の‘子供の庭’という単語と照応するのですが、日本の‘庭’には特別の趣きがあります。というのは、西洋の庭園は幾何学的なパターンのものが多く、そのほとんどが左右対称のシンメトリーな構成を採るのに対して、日本庭園では左右非対称どころか幾何学的解析を一切受け付けないような構成です。日本では、庭の起源としての‘神石(磐くら)’をもとに、外来の浄土思想(須弥山)、老荘思想(神仙説)、道教思想(鶴亀に託されたユートピア思想)の影響を受けながら、さまざまな種類の庭園が構成されてきています。ここで注目したいのは、桂離宮の回遊式庭園や、大仙院の庭や竜安寺の石庭のように、人が体験したり、観賞しようとすることによって、さまざまな世界を開いていく庭の構成方法についてです。

それらの特性は、景観を断片化して、非連続的なパースペクティヴを作り出したり(場面の切り替わりが意図的で、眺望が広がったり閉じたり、見えたり見えなくなったりする→西洋では主題に焦点があり、パースペクティヴには中心がある)、縮景や借景といった、物理的状況の意味的すり替えによって、具体的な事物を極度に抽象化したり( 西洋では逆に、自然の素材を人工的な具象物にして幾何学的観念を作る)という点にあります。宗 左近は大仙院の枯山水の庭について「作庭そのものが目的であり,判断の結果や,庭を介在して,なにか別のものに結び付けているわけではなく,それそのものの在り方を模索している不断のプロセス=庭 」としています。中にはいりこむと、なにやら精神的めまいを引き起こすような事物との関係、それも人が動くことによって、事物そのものも新たな関係をせまるような状況ですが、そうしたことは、神が降臨する場、あるいは精神修養の場としての‘庭’の初源的形態とつながりますし、それゆえにかつて外来の思想とともに、その修養、勉学のための場に隣接して設けられた寺院の庭とつながります。

こういう自由な精神世界、いつも新しい世界を開いていけるような、‘しかけ’に着目して、それを建築空間に取り入れようとした建築家のひとりにアメリカのF.L.ライトがいます。今回の計画も彼の作品の一つに強く影響をうけているわけですが、彼に強く影響を与えたものの一つは、帝国ホテルの設計、建築工事監理で来日していた約80年まえの日本のそうした空間でした。彼はその空間性の資料として浮世絵を買いあさり、それらを分析して設計に採りいれ、その作品は世界的に影響をもたらしています。(浮世絵は別の経路で建築以外の近代的空間表現、絵画、ファッション、舞台芸術にも影響を与えています)

現代社会を支える経済効率至上主義やそのための管理社会化は、ライトが想定した世界とは似ても似つかぬものですが、そういう社会のなかでの学校建築は、人々の結び付きに対して、どうしても制限的、管理的になりがちでした。そういう学校建築のいままでのあり方に対する反省の上で、最近はオープンクラスを採用する学校がふえつつあります。そこで望まれているのは、さきほどの庭園のように、いっぱいひだのある空間、なかに入り込むと多面的に読解可能な空間、多様に生きられる空間です。建築的構成としてそれらが構成された場合、人と人との、空間と人との関係性を新たに切り開いていくことができるのではないかという希望が込められています。

そこで新園舎でも教室は一つの単位空間で閉じずに、5方向に動線をとってオープンクラスの形態をもたせ、更にハウスインハウスの設計手法で、屋根の下に子供達の町を作っています。遊戯室も単体で閉じることなく、日常の用に供するように、住宅でのリビング的な扱いで計画しています。行き止まりになってしまうのは二階とトイレだけで、その他はぐるぐると廻れるようにしているのは、こうした理由からです。 (950217)



概要 敷地面積 約 2,300 u
延床面積 約 615 u
構 造 木造(在来工法)
一部二階建て
最高の高さ 約 7 m




A.玄関ホール I.保健コーナー Q.教室(3)
B.湯沸かし J.園長室 R.教室(4)
C.マザールーム K.遊戯室 S.教室(5)
D.教材庫 L.教材庫 T.トイレ
E.女性用トイレ M.教材庫 U.教材コーナー
F.男性用トイレ N.渡り廊下 V.各教室入り口
G.二階楽器収納 O.教室(1) W.テラス
H.職員室 P.教室(2)