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オルゴール編曲講座(第二回) |
第二回目としてフランス民謡の「きらきら星」を題材にオルゴールっぽい編曲のやり方についてお話してみたいと思います。 ただ オルゴールっぽいとは「これだ、これしかない」ということは絶対にないと思います。 これは私(わたくし)流の一例にすぎないと思ってください。 また音楽理論上のことは別途みなさんで勉強してください。
【オルゴールっぽさとは】
オルゴールは 前回お話した通り オルゴールには独特の特長といいますか 制限のようなものが多くあり、ピアノ用の曲づくりやオーケストラ用の...とはおのずとやり方が異なってくると思います。 その訳は前回のお話をご覧いただくとして 今回テーマといいますか、心掛けたことをちょっと話させていただきます。
それは 「オルゴールの鳴り方」についてです。 オルゴールは音を消す機構がありません。いわばピアノでいえばペダルを踏みっぱなしで演奏しているようなものだということです。 これは逆にいうと以前に出した音の「海:余韻」のなかに新たに音を投げ入れていくような感じだということです。 極論すると音は余韻を作るために出すくらいの感じなんです。 ちょっと表現がうまくないかもしれませんが...
つまり 編曲上心掛けるとよいことは音をなるべくバラバラに出していくといいんです。 バラバラというのはデタラメという意味ではなく 「ジャーン ジャーン」という感じ(例えばチャイコフスキーのピアノコンチェルト1番の出だしの部分を想像してください。)はオルゴールではうまい響き方になってくれないということなんです。 もっとミクロに言うと同時に発音する音(和音)はあまり美しく響かないんです。 ですからメロディラインでも同一音が連続するフレーズは苦手ですね。(シュトラウスのピチカートポルカなんか想像してみてください。) 伴奏ラインならなるべく分散和音(アルペジオ)にした方がいいです。
これはオルゴールの機構上 先に鳴らした(くし歯を弾いた)後 短期間の内に鳴らすと音を頻繁に止めることになり、余韻が損なわれるのと、微妙に雑音が入るなどの問題があるためなんです。 ですから余談になりますが大型のオルゴールになるとこの問題を避ける意味もあり、同じ音を2弁、3弁にと割り当てているくらいです。(実際オルゴールはたいていの場合40から50弁くらいあれば編曲には困らないのですが、76弁とか144弁などとなっているのはこうした重複した音配置、とサブライムといって複数のくし歯を同時 あるいは適当にずらして鳴らし豊かな余韻を作るようになっているのです。 また同時に鳴らして余韻やうなりを効果的に使うように機構的に考えられたダブルコームというものもあります。)
結論的にはメロディラインは流れるようなものが望ましく、伴奏はなるべく分散和音っぽくすることです。 但し、表現上メリハリを付ける等の理由で意図的に上記のジャーンを使うこともあります。
何度も言いますがこれはあくまで私の私見ですので一般論ではありません。
【編曲の実際】
1)ではきらきら星の原曲 厳密には原曲なんてものはないのですが一般にピアノの練習の時などに使う感じの曲を聴いてください。
どうでしたか 試しにカードにして聴いてみてください。 あまりオルゴールらしくない感じでしょう。 Midiプレイヤーではそれなりに聞こえると思いますが 実際のオルゴールにとっては音を頻繁に消して出し直すことが多いので 余韻が残りにくいんです。 それに全体に「固い」感じに聞こえたと思います。 (くどいようですがMidiのプレイヤーではこの感じはわからないと思います。)
どうでしょう だいぶオルゴールらしい「余韻」が残るようになったのではないでしょうか?原曲よりは音がバラバラになってきたからでしょう。 またドソミソの連続の中にソ(5度)の音が後打ち(シンコ)になっていますのでリズム感は保たれていると思います。 ですからピアノ曲などから編曲する場合にはまずこんな感じが想像できる曲が望ましいのかなぁ なんて思うわけです。
どうでしょう 最後のフレーズに行くまえに長い上昇音階を入れることで「おお盛り上がった」って感じになるでしょう。 ちょっとしつこい感じもしますが事例ですからこのくらい思いきってやってみるのもいいでしょう。 さらに中音部の走った感じはまだ工夫の余地はいっぱいありますが 余韻を複雑にしてオルゴールとしてのフォルテッシモ(ff)を表現するのに一役かっていると思いませんか?
どうでしょう Midiプレイヤーではあまり変化が感じられないかもしれませんが 実際にカードにしてみると この方がずっとオルゴールらしい感じで しかもキラビヤカさとメロディの豊かさが同時に表現できているように思えます。 あいも変わらず伴奏部はアルペジオがリズム感をキープしています。 20弁オルゴールではこのくらいの音の厚みが限界かもしれません。 従ってこの終わりの部分がフォルテッシモに相当すると思いましょう。
どうでしょう もはや原曲のイメージは薄まり、別物のような感じではないでしょうか? まあ好みかどうかは この際別問題としてですが... ミソは出だしのフレーズをオクターブ上げて その下にスキップするようなメロディを重ねたことです。 ここではこれ以上音が厚くならない程度にしました。 次のフレーズ(2回繰返し)では最初をオクターブ上に次を下にし、さらに最初は高音部にあいの手を軽く?入れ、次では軽い分散和音っぽくしていることです。 こういった感じで曲に変化を付けていく訳です。 やりすぎるとくどくなりますが。
(まあこの曲は短いのでくどいくらいにやってもいいかなぁなんて勝手に思いました)
ここでは 上昇音階の途中から5度くらい下に上昇音階をもう一つ追加して 例の出ない音を省いたことを聴く人に悟らせない(要するにごまかす)ようにしてみました。
どうでしょう 上昇音階が一つ抜けていることが判りにくくなったでしょう。 聴いている人は途中から追加された下型の上昇音階に耳がいき、音が抜けたことに気付きにくくなっているわけです。 このやり方は次回あたりに説明する半音をごまかすやり方に通じるものがあります。 ようするに錯覚のように「聞こえたように思わせる」わけです。
最後にこの編曲の最後の方で使われていた上昇/下降の音階についてですが どうやって付けるかといいますと 和音を構成する3個ないし4個の音の間を音階でつなげるのが一番無難です。 理論上どうするべきかは筆者は知りませんが 20弁のカードオルゴール(オルガニート)は幸か不幸か全音階しかありません。 適当に付けてみてください。 そして適当に上下に動かしてみればいい感じが得られるでしょう。 (なんといい加減な講座でしょう)
もっとシンプルな編曲も当然あるでしょう。 やはり曲調と表現したい人の感性によるものと思います。 あながち単調な編曲もイコールつまらないとは言えないところがオルゴールの面白いところかもしれませんね。
次回は半音のごまかし方と 曲の選び方などをお話したいと思います。